1-4
「沙愛子」
「何?」
立ち止まり、頭上を見上げたままの海斗の方を見ると沙愛子は首を傾げた。
さらりと手入れの行き届いた長い黒髪が揺れる。
「どうして引退したんだ?元々、仕事はしていなかっただろう」
海斗の質問に沙愛子は答えなかった。
怒るでも言い訳をするでもなく、無言でただ海斗の方を見ている。
「・・・違うな。仕事は一度だけしたな」
懐かしそうに微かに口角を上げると、海斗は目線を沙愛子の方へと戻した。
「あの子はとても幸せになって、お前は喜んでいたな」
「
表情は変わらず、しかし優しさが宿った声に海斗は少しほっとしたように頷いた。
「高校生の失恋からの新しい恋、そのまま幸せになってくれて嬉しかったわ」
最初で最後の沙愛子の仕事。
在学中の成績は歴代の中でも最高峰だと沙愛子は言われていた。
さぞ人を幸せにするサンタとして功績をあげるだろうと周囲の期待が膨らみ、そう囁かれていた。
しかし、当時の沙愛子自身は自由奔放で子どもらしさが抜けず海斗の腕にひっつき、常に一緒に遊ぶことしか考えていなかった。
人を幸せにするサンタはプレゼントを届けるサンタとは違い、自身で幸せにする対象を一人見つけなければならない。
学校卒業後、一向に仕事を始めない沙愛子に対して痺れを切らした祖父が強制的に雲の下へ行くように命じたことにより、渋々と始めた仕事は輝夜という少女と出会い、沙愛子の本来の優しさとその実力によって見事に心と人生を救った。
「しかし、それからも遊んでばかりで一向に仕事をしなくなった。それでも俺はいいと思ったんだ」
沙愛子が何を思い、考え、過ごしているのかは海斗には分からない。
「けど、どうして俺のことも避けるんだ?」
どこへ行くのも何をするのも常に一緒だった海斗。
しかし、いつしか海斗の側にいることを躊躇うようになり、そのうち沙愛子から近づくことはなくなった。
どうしたのかと尋ねようとしたとき、突然、沙愛子はサンタを引退すると宣言した。
あまりに早い引退宣言と人を幸せにするサンタの人口の少なさから、サンタというサンタから引き留める言葉が届いたが沙愛子は決して聞き入れなかった。
「・・・別にいいでしょ」
他のサンタに答えた言葉をそのまま、海斗へと向けると沙愛子は再び歩き始めた。
その後ろ姿を暫く見つめると、海斗はゆっくりと歩き出し、その歩幅の違いからあっという間に沙愛子に追いつくと、静かに隣に並び歩調を合わせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます