第6話 松重豊似の男

 彼の指がエンターキーを押した瞬間、倉庫内のサーバー群のランプが一斉に激しく点滅を始めた。

​「まず、松岡の全資産凍結と同時に、彼と繋がりのある政財界の人間との不正な取引データを、彼らが利用している全てのサーバーへ、**『匿名』**で送信する」

 クロサキの声は低いが、その言葉には絶対的な確信が込められていた。

​「そして、そのデータが外部の監査機関や、良心的なジャーナリストの手に渡るように、さらに複数の**『隠し扉』を仕掛ける。松岡は、生きている限り、自分を道連れにする裏切り者の疑いを、その『猿山』**の仲間たちにかけられ続けることになる」

 ​ナオミは、その冷徹な作戦に、思わず息を飲んだ。松岡は、自分が築いた**『猿山』**の頂点から、自らが最も恐れた、仲間によるリンチによって引きずり降ろされるのだ。

​ コンドウは、夜の闇に浮かぶ倉庫の窓を見つめていた。

​「これで、キタガワとミサキのけじめはついたか…?」

​「けじめは、お前がつけるものだ、コンドウ」

 クロサキは、コンドウを松重豊似の鋭い眼差しで見据えた。

​「システムは崩壊する。金は失われ、松岡の悪事は全て晒されるだろう。だが、**『庶民』の未来が本当に救われるかどうかは、お前がこれから、何を語るかにかかっている。お前は、この『ゴーストマネー』**が永久に眠りにつくのを良しとするか?それとも…」

​ コンドウは、静かに頷いた。

​「俺は、彼らが取り戻すべき**『正義の金』を、このシステムから引っ張り出す。永遠に眠らせるわけにはいかない。それが、俺の『最後のけじめ』**だ」

​ クロサキは、満足げに笑みを浮かべ、再びキーボードに向き直った。コンドウの、新たなる戦いが、今、始まった。

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