第2話 あやかしの屋敷と金の瞳の主
目を覚ますと、私は知らない屋敷の広間にいた。
柔らかな金色の光が、燭台や絨毯を照らす。
大きな窓の向こうには月光が差し込み、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
だが、それよりも私の視線を奪ったのは――目の前に立つ、黒髪に金の瞳の男だった。
「……政宗……?」
思わず声に出す。
その瞳は、私だけを見つめるように熱く光っていた。
不思議と、怖さはなく――胸の奥がじんわりと温かくなる。
「お目覚めですね、椿様」
政宗は穏やかに微笑む。
その笑みには、圧力も威厳もない。ただ、私を包み込む優しさだけがあった。
「な、なぜ私が……ここに?」
問いかける私に、彼は歩み寄り、そっと手を差し出す。
「私の伴侶です。だから、ここが貴女の居場所です」
――伴侶。
その言葉に、胸の奥がぎゅっと熱くなる。
怖さや戸惑いが、一気に心を溶かしていった。
「でも……私、出来損ないなのに……」
呟く私に、政宗は一歩近づき、低く、真剣な声で答える。
「椿様は、昔も今も、私を救った方です」
「え……?」
驚く私の視線に、彼は優しく微笑んだ。
「貴女がまだ幼かった頃――私の力が暴走し、人々を危険に晒したあの日。
貴女は恐れず、私の前に立ち、静かに手を差し伸べてくれました。
その時の記憶は、私の心に刻まれています」
思い出す。
あの夜のこと。幼い私が、森で暴れ狂う九尾の尾の前に立ったことを――。
怖くて震えながらも、迷わず彼の傷を癒そうと手を伸ばした。
その瞬間、九尾の暴走は一瞬止まり、私の手を認めるように静かになったのだ。
その行動を、政宗はずっと覚えていてくれた。
そして今――その時の少女を、私は愛する、と告げている。
「……私、覚えていなかった……」
言葉にならない驚きと、恥ずかしさ。
でも、心の奥では小さな誇らしさが芽生えていた。
「恐れることはありません。椿様、これからは私が必ず守ります」
政宗はそっと私の手を握る。
その手の温もりは、力強く、そして優しい。
初めて、心から安心して、頬が熱くなる。
私は小さくうなずき、言葉を飲み込むしかできなかった。
頭では理解できないけれど、胸の奥は確かに信じている。
――この人のそばにいるなら、私はもう何も怖くない、と。
その夜、政宗は私を抱きしめ、眠るまで手を握ってくれた。
暖かさと安心に包まれながら、私は初めて深く眠ることができた。
――そして私の、新しい日々が始まった。
出来損ないだと思っていた私を、あやかしの最強の男が愛してくれる日々が。
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