第二話 募る苛立ち
琥珀が直哉の部にかけもち入部してから二週間ほどが過ぎた。一応合唱部最優先という約束は守っており、合唱部を一度も休むことなく彼女は部活をこなしていた。
「今度の日曜日、初めて〝探索〟に出かけるんだ。楽しみ~」
合唱部の部活からの帰り、琥珀は楽しみにしながら妃咲に言った。
「ふーん、そ」
「直哉に選んでもらった自転車が活躍する時がキタ、って感じ。楽しみだなあ」
「……」
最近はずっと道路研究会の話ばかりだった。直哉の部の立て直しの手伝いのはずが、いつの間にか正式な部員となって活動を楽しんでいる。
「……琥珀、結局部員集めの方はどうなっているの?」
「ウン。それとなく声はかけてるけどまずは私が実際に活動してみんなに話そうかなーって思って」
「ふーん」
「ねえ、妃咲も行かない? 今度の日曜」
「行くわけがないでしょう」
妃咲は不機嫌そうにそう言うとまたスタスタと歩いていった。
ここ最近琥珀が新しい自転車を買って以来、直哉の部の話ばかりしている彼女に苛立ちを覚え始めていた――いや、正確には直哉に対してだ。
(そもそも琥珀も琥珀であのマニアックな同好会もどきを自転車ツーリング部か何かと勘違いしているのよ。それがわかればつまらない、って気付くはず……)
◇ ◇ ◇
けれども妃咲の思惑とは裏腹に、実際に直哉の部で初めて遠出に参加した琥珀は充実した様子で家に帰ってきた。
「ただいまあ」
琥珀の元気な声が下から聞こえる――妃咲は今日一日ずっともやもやしていた。
そして夕食の時になると琥珀は行った先々で撮った写真などを両親に見せていた。
「ほら、こんなところ行ったの!」
「琥珀も一緒に行ったのか? すごいじゃないか」
父親は感心したように言った。
「ウン。それに自転車でこれだけ距離走ったの初めてで」
琥珀はひたすら今日の楽しかった感想を両親に伝えていた。妃咲はただ黙々と夕食をとっている。
「直哉~これなら部員集められるかもだよ」
「そ、そうかな」
「ウン、絶対いけるって!」
「ごちそうさま」
妃咲はさっさと席を立つと自分の部屋に戻ってしまった。
(本当、どうでもいい。あいつの部の話なんかどうでもいい)
面白くない――本当に面白くない。妃咲はひたすらに心の中で毒づきながら自分の部屋の中で立ちつくしていた。
何が気に入らないかは明白で、琥珀が直哉と一緒にいることが一番の原因だったが、彼自身は特に何もしていないのに琥珀の方から勝手に来てくれる――それはつまり、その間は自分のそばから彼女がいなくなるということだ。
◇ ◇ ◇
翌朝、妃咲はいつも通り琥珀の部屋に行くと、彼女はまだ鏡に向かっていた。
「遅れるわよ」
「うん、ちょっと待って~」
そして「よしっ」と言ってカバンを持ち「お待たせっ」と琥珀はいつも通りの笑顔で言った。
けれども彼女は昨日の直哉たちの部とのツーリングの話を始めた。
「山の方とかさ~空気もおいしいし、ホント気持ち良かったんだ。昨日行ったところは車が入れない道でね――」
「それは昨日聞いたわ」
妃咲は遮るように言った。
「あ、話したっけ。えーと、ほら、コレ。直哉に撮ってもらったの」
そう言いながら琥珀はスマートフォンの写真を妃咲に見せた。琥珀が大きなトンネルの前で買ったばかりの自転車と一緒に笑顔で写っている。
「ただのトンネルじゃない」
「違うの。このトンネル、一キロ近くもあってさあ、中は電気ついてないけどひたすら直線だから出口はちょっと見えるんだ。それでもライト照らさないと暗くなっちゃうけど。こんなところにこんなに長いトンネルがあって。それでトンネルだから中めっちゃ涼しくってさ」
「……」
琥珀は一方的にしゃべり続ける。妃咲は半分も聞いていなかった。直哉と一緒に楽しんできた話なんてちっとも面白くない。
「それより琥珀、今日帰りにちょっと付き合ってよ。見に行きたいものがあるから」
「あ~ゴメン。今日は部活があってさ」
「今日はあの部も休みのはずでしょう?」
妃咲は思わず立ち止まって言った。
「ん~と、昨日のツーリングの反省会みたいな? ミーティング? ほら、一応研究会だからさ」
「そんなの次の部活のときで充分でしょ」
「なんか、遠征したときはその翌日に集まりがあるらしくてさ。撮影した写真とか色々みんなで見せ合って――」
「……」
そこから先はもう妃咲は聞いていなかった。
◇ ◇ ◇
妃咲は教室に入って美愛がやってくるも不機嫌そうにしていた。
「今日もご立腹ですね、姫」
「別に、怒ってなんかないわよ」
「どれ、お姉さんがお話を聴いてあげるわ」
美愛は妃咲の机の上に両腕を置きながら言った。
「今日はあの部もないはずだったのよ」
「えーと、直哉くんの部?」
「そう。けど昨日遠出したからその翌日はいつも反省会だか何かをやるんですって」
「ふむ。つまり姫は琥珀殿にフラれてしまったわけですな?」
妃咲の眉がピクリと反応した。すると美愛は慌てて「冗談冗談」と言った。
「聞きたくもない昨日の話を朝から延々とされたわ」
「琥珀ちゃんに悪気はないのよ」
「もちろんよ。あの子は優しいから。悪いのは
妃咲は肘をつきながら、やっぱり不機嫌そうに言った。
住良木姉妹 滝川エウクレイデス @Taki_Euclid
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