第10話 : 彌田さんのことを好きだと叫んでしまった
「私達、文芸部員は毎週三回集まって、創作の読み合いと情報交換をしています!」
彌田さんが一生懸命に声を出している。
いわゆるアニメ声というもので、カラダに似合って(?)幼児のような声だ。
「海鈴、頑張っているみたいだけどそれじゃ声が聞こえないよ。お腹に力を入れて声を出してごらん」
親友と言うこともあってか常盤さんの指導は厳しい。
「う、うん……気にしているんだけど」
「もう一度やってみて」
「私達、文芸部員は──」
「ダメだよ。思い切りが足りない。それでは人の心は動かせないよ」
「そう言われても」
確かに努力は伝わってくるけど、それは普段の彼女が小声であることを知っているからであって聴衆には関係ないことだ。
「海鈴が努力していることはよ~くわかる。でもね、相手を動かさないとダメなのよ。そう、好きな人に惚れてもらう。そんな感じじゃないと」
「す、好きな人って」
「誰でもいいんだよ。アイドルでも俳優でも、それこそ本当に海鈴が好きな人を思い浮かべて、自分に振り向いてもらえるように声を出すんだ」
「そ、そんなこと、できないよ。私、ときちゃんみたいに声を出す練習してないし」
だよな。あの体形からそんな声を出せと言われてもね。
あんまりやるとイジメになるんじゃないかな。
「永瀬、お前が見本を見せてやれよ」
「えっ」
「生物部だって勧誘の演説をするんだろ」
「そりゃそうだけど」
生き物を飼ったり観察することが主な活動だから入部希望者は限られているし、わざわざそう言うことをしたいという人はそんな勧誘をしなくても部活動紹介のプリントを見て訪ねてくるはずだ……僕がそうだったし。
だから勧誘の演説なんて形だけやればいいだけ──だったのに。
「彌田さんから見れば同じ文化部どうし、参考になることは多いと思うぞ」
「永瀬君、私も同感。海鈴もそう思うでしょ」
非情に申し訳なさそうな顔をしながら、彌田さんにコクリと頷かれては詰んでいる。
「僕達生物部は動物や植物を育てて──」
「ダメダメ、永瀬君、君も声が出ていないよ」
「いや、僕の所は本当に生き物が好きな人しか来ないから、これで大丈夫」
「そうじゃないわよ。そこまで興味がなくてもどうしようかと迷っている人の背中を押すのがアピールというものよ」
「そうそう、それをするのが話の力だよ。政治家の演説と一緒さ」
そう言われても、選挙権ないし……
「いきなりそんなことできないよ」
「だからこうして練習をしているんだろ。俺達が見本を見せるから」
「皆さ~ん、私達演劇部は──」
「俺達と一緒に舞台に立って~♪~」
凄い!
声も出ているし、身体も使ってアピールしている。
ミュージカル仕立ての勧誘演説なんて見たことないぞ。
「俺達ほど声を出せとは言わないが、せめてもう少し通る声にしようぜ」
「体育館はスタジオじゃないから、マイク無しでもある程度声が通らないとダメだよ……ということでもう一度やってみようよ。そう、さっき海鈴に言ったように好きな人に告白するするつもりで声を出そうよ」
「こ、告白!」
そんなことできる訳……あ、彌田さんと目が合った。
期待感いっぱいで懇願されているのが良くわかる。
目は口ほどに──彌田さんは女優の才能があるのか──はともかく、ここでも僕は詰んでいた。
「わかったよ」
「本番をやる前に羞恥心を忘れることが大事さ。大声で『君が好きだ』と言ってみれば、恥ずかしさなんてどこかに飛んでいくものだぞ」
「えっ、そんなこと」
「できるさ。見てろよ、『僕は君のことが大好きだ!ずっとずっと一緒にいよう』」
凄い。あんなにあっさりと誰かを好きだと言えてしまうなんて。
演技だと分かっていてもそんな簡単にできるとは思えない。
「こんなもんだよ」
「で、でも」
「ここなら俺達しかいないさ。文芸部の人達を案山子と思えばいいだけだ」
「う、うん──彌田さん、君のことが好きだ!」
「「「えええええ!」」」
「永瀬、お前……なんで彌田さんの名前を出した」
「その方が臨場感があると思ってだけど、えっ!」
視線の先にはリンゴよりも赤い顔をした彌田さんの姿があった。
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