第9話 : 彌田さんは本当に綺麗な人
「疲れたでしょ。これ飲んで」
彌田さんから渡されたのはスポーツドリンク。
櫻葉、常盤さんと彌田さん他文芸部の面々(と言っても文芸部の二、三年生は四人しかいないけど)と一緒に車座になって休憩している。
「それにしても永瀬君は絵が上手だね」
「そんなでもないよ……中学の頃は美術部にいたから」
「だからと言って上手すぎだよ。ほんと惚れ惚れしちゃう」
「海鈴は自分で自分を美人だと言いたいの」
「いや、そうじゃなくて」
「うん、でも彌田さんは本当に綺麗だと思うよ」
「「永瀬」君」
「うん」
「永瀬、お前この場で彌田さんを口説いているのか」
「私もそう聞こえた」
「い、いやいやいや、僕は彌田さんと釣り合わないよ」
「真っ赤な顔して何言ってるんだ」
櫻葉にそう言われても……
口説くなんて言われたから却って彌田さんのことを意識してしまうじゃないか。
いや、確かに彼女はカワイイ。
僕に幼児偏愛の性向はないけど、それでも庇護欲をそそるオーラは感じる。
彌田さんを相手にすれば「守ってあげたい」と誰もが思うはずだ。
が、この場でそんなことを言えるはずがない。
「と、ところでさ。なんで常盤さんは彌田さんとそこまで親しいの」
「ああ、私達中学の時は同じクラスだったから」
「ときちゃんとは三年間ずっといっしょだったの」
「僕と櫻葉みたいなものか」
「そうらしいな」
ふう、なんとか話題をずらせた。
それにしてもあの二人が知り合いだったとは。
モデルやアイドルだと言っても違和感がない常盤さんと彌田さんが並ぶ姿はちょっと滑稽だな。
大人の色気がある常盤さんがお母さんに見える。
「ん、永瀬君、今とても失礼なこと考えていない?」
「ふぇ」
「その顔、図星でしょ。私達いつもそんな目で見られていたからわかるのよ」
「永瀬、お前は何を考えていたんだ」
常盤さんは超能力者か。
「な、な、何も考えていないよ。僕と櫻葉みたいな関係の人が身近にいると思ってなかったから少し驚いただけ……本当だよ」
現に今、派手めの顔に落ち着いた色味のTシャツとパーカー姿の常盤さんと首元に小さいフリルが付いたブラウス姿の彌田さんでは本当に親子だと誤解する人だっているだろう。
口が裂けても言えないけど。
「そろそろ絵の具が乾いたかな。文芸部の文字を入れようか」
「それは私がやろう」
「ときちゃん、お願い」
常盤さんが青い絵の具と筆を取った。
「じゃ、書くよ」
重厚な線で文字が描かれていく。
昔、書道を少し囓ったことがあるからわかる。彼女は無茶苦茶字が上手い。
「こんなものかな」
そして、中学時代ずっと絵を描いていた僕だから分かる。絵と字の配置と大きさのバランスが絶妙だ。
僕は今でも美術部から勧誘を受けているけど、常盤さんだって書道部が放っておかないはずだ。
「相変わらず上手だね」
「へへ、これ位はね」
常盤さんの家は書道教室をしているのだそうだ。
ワープロ全盛の時代だからこそ、字が上手い人は評価されるのだとか。
「ところで、演劇部は看板できてるの」
「実はね……」
演劇部の看板は昨日僕が書いている。
櫻葉と常盤さんを『ベルばら』の主役に見立てて描いた。
二人はちょっと格好良すぎる気がしないでもないけど、かなり気合いを入れたものだ。
「でね、こんな風に寸劇をするつもり……オスカル、貴方は私を残して行ってしまうの」
「アンドレ、それが私の役割だ。わかってくれ」
二人が立ち上がり寸劇をすると、背が高い美男美女は本当にサマになる。
声の綺麗に通るし、ちょっとだけ羨ましい。
「私達も明日の練習をしないとね。そうだ、ときちゃん達、ちょっと聞いてもらえる」
そう言って、彌田さん達文芸部員の皆さんがリハーサルを始めたのだが……
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