第3話 打ち合わせ
『さて、それじゃあ打ち合わせを始めるが……二人は今の校内ラジオの状況をどう考える?』
麗羽が俺と志帆に問いかけてくる。
『どうって……凄く順調じゃないですか? アタシから見ても、学内で『宇水ABC』はかなりのブームになってると思いますし』
志帆は質問に答える。
うん、俺もそれには同感だ。
始めた当初はここまで学内で流行するとは思わなかった。
『ふむ、英吉はどう思う?』
麗羽は俺に直接振ってくる。
「そうだな……志帆の言う通り、校内ラジオの試み自体は大成功だと思う。ただ……」
『『ただ?』』
「ちょっとマンネリ化の心配もあるんじゃないか?」
校内ラジオの構成は俺たち三人のフリートークと悩み相談のコーナーだけだった。
元々、校内ラジオを始めた理由は生徒たちの悩み相談を解消するためだったから、それでも問題はないんだろうけど、ここまで学内で流行ったのなら話は変わってくる。
今は注目度がかなり高い状態だからこそ、同じことをやり続けていたらすぐに飽きられてしまう。
そうなったら、『宇水ABC』に悩み相談をする生徒もいなくなる可能性もでてくる。
『私も二人の意見には賛成だな。人気が出て順調だとも思う反面、同じ事ばかりしていたら飽きられる可能性もある』
『だったらどうしますか?』
『簡単だ。新しい企画を始めればいい』
『あっ!? その手がありましたね!』
「……やっぱ、それしかないかぁー」
麗羽のいう新企画については俺も前から考えていた。
だけど、なんで今まで麗羽が提案するまで黙っていたかというと……正直面倒だったからだ。
『ということで、何か案はないか?』
『そーですねー、『宇水ABC』を始めてから、普通のラジオも聴くようになったんですけど、ラジオ番組で多いのは歌のリクエストとか大喜利とかですかね』
校内ラジオのMCの勉強のためにラジオを聴き始めるなんて、志帆は真面目だなぁ……。
それに、歌のリクエストに大喜利か。
確かに、その二つは色々なラジオ番組でも使われてる鉄板コーナーだ。
だけど……
『ふむ、その二つは私も聞いたことがあるな。英吉はどう思う?』
「正直、俺は歌も大喜利も、どっちも微妙だと思う」
『ほう……理由は?』
「うちの校内ラジオには向いてないと思うからだ。『宇水ABC』が人気になったのは、MCの掛け合いが生徒たちに受けたからだよな? だけど、歌や大喜利だと、そこの良さが死んじゃわないか?」
『あー、なるほどー。先輩の言う通り、うちのラジオとは相性があんまり良くないかもしれませんね。……すいません、アタシが余計な提案しちゃって……』
俺に案を却下されたことで、心なしか志帆が落ち込んだ声を出す。
ちょっと冷たく言いすぎたかな?
「志帆が謝ることじゃないよ。最初に率先して案を出してくれた志帆には感謝してるくらいだ」
『そうだな。色々な意見を出し合うことが大切なんだ。案を却下されたことで落ち込む必要なんてないさ』
『二人とも……ありがとうございます!』
俺と麗羽がフォローしたおかげか、志帆も気を取り直したようだ。
『それじゃあ、英吉は何か案や意見はないか?』
「うーん、そうだな……俺たちの『宇水ABC』の強みを生かした企画が良いと思うけど……」
『強みですか。それは、さっき先輩も言ったけど、アタシ達MCの掛け合いとかですよね?』
『そうだな。謙遜でもなく、エーもビーもシーもリスナーの生徒たちに人気はあるだろうな』
麗羽の言う通りだ。
校内ラジオを聴いている生徒たちの声を聞いていると、MC陣を推す声をよく耳にする。
……なら、MC陣の人気を利用するのもいいかもしれないんじゃないか!
「だったら、『MC陣への質問コーナー』なんてどうだ? エーやビー、シーのことをもっと知りたいって生徒も多いと思うんだけど……」
『質問コーナーか……うん、いいんじゃないか?』
『アタシも賛成です! 先輩、流石です!!』
俺からの提案に麗羽も志帆も賛成してくれる。
よしよし、思いつきにしては、我ながらいい案だったかもな。
歌のリクエストは版権問題があるし、大喜利は毎週お題を考えるのが面倒だった。
それに比べて質問コーナーなら聞かれたことに答えるだけだし、簡単だろう。
最小の労力で最大の効力を……ってのが俺の生き方だからな!
それに、意見を提案しただけだけど、一仕事終えた感がある。
「それじゃあ、いつも通りSNSでの告知は志帆で。質問の選定は麗羽に任せていいか?」
『はーい、任せてください!』
『私も構わないよ』
そして、しれっと仕事を二人に押し付けることで、俺は仕事から逃れることができた。
ククク……計画通り!
『宇水ABC』は『Z』と呼ばれるSNSにアカウントを持っている。
フォロワー数はアカウントを開設してからひと月程度しか経っていないが既に千は超えていたはずだ。
この数は、宇水高校生の全校生徒がフォローしていても届かない数字で、どうやら学外の人からもフォローされているらしい。
うーん、人気が出るのは嬉しいけど実感はないなー……。
ちなみに、SNSの管理は志帆がしている。
『えーっと、ちょっと待っててくださいねっと……はい、投稿しましたよー!』
「はやっ!?」
流石、志帆だ。
現役女子高生のSNSの投稿速度を舐めていた。
俺は志帆が投稿したという『宇水ABC』のアカウントを覗いてみる。
『速報! 『宇水ABC』で新企画を始めます!! タイトル名は『MC陣へのぶっちゃけ質問!(仮)』 アタシ達MC陣に聞きたいことがある人はドシドシDMくださいね!! 締切は三日後でーす』
……ふむ、いいんじゃないか?
分かりやすく簡潔にフォロワーにメッセージを伝えていると思う。
『企画の仮タイトルとか締切とか適当に決めちゃったけどいいですよね?』
「ああ、いいよ。まずは試しにやってみよう」
『そうだな。投稿ありがとう、志帆。……それじゃあ今日はこれくらいにするか。次の打ち合わせは志帆が決めた締切日の土曜でいいか?』
「はいよ」
『アタシも大丈夫です!』
『じゃあまた三日後に。おやすみ』
『はい、おやすみなさい!!』
そういうと、麗羽と志帆はグループ通話を切った。
……いやー、数日ぶりに人とたくさん話したから喉が痛いや。
俺たちはこうして週に何度か打ち合わせだったり雑談を交わしたりしている。
ボッチで一人が好きな俺だけど、麗羽や志帆と話す時間は嫌いじゃない。
……むしろ、気に入ってるまである。
「俺も焼きが回ったかもな」
そう呟くが、今の状態に不満もないため現状を変えるつもりもないのが本音だ。
まあ、とにかく次の打ち合わせは三日後だ。
校内ラジオの注目度的に全く質問がないとは思わないけど、多すぎても処理に困るな。
とはいえ、俺たちは結局アマチュアだし、二、三十件くらい質問が来れば上々だろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……そう考えていた時期が俺にもありました。
まさか、翌日にあんな展開になるとは……!?
ボッチの俺がスクールカーストトップの美少女達と校内ラジオをしている件について 三乃 @rivano
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