第2話 想い出残る足跡

『……それではお聞きください、HIASOBIで、夏に駆ける』


 車のスピーカーから流れてくる、久しぶりに聞いたパーソナリティの声。数年ぶりに聞いてもあまり変わらないどころか、むしろ懐かしさまで込み上げてくるほど。僕がここにいたときからずっと変わらず、地方のラジオというのは変わらない安心感みたいなものがある。

 ただ、流れる音楽が最新の流行を掴んでいないというのはどうなのだろうか。あの頃は最新の曲なんて僕も知らなかったから違和感がなかったが、今改めて聞いてみるとこの時期に数年前の曲とは……。

 

 昼にしては静まり返った道に、エンジンの音が鳴り響く。やかましい都会の生活音に慣れてしまったせいか、今ではこの何の変哲もない静かな道というのにも違和感を持つようになってしまった。数年前まではこれが普通だったのにと考えると、少し不思議な感じだ。


 しばらく車を走らせていると、あの頃の想い出がたくさん残った道に出た。毎日歩いた学校への道、よく立ち寄ってた公園、店主さんの優しい駄菓子屋さん……色んなものが、僕があのとき見ていたそのままに残っていた。

 ただ、全てが全て同じというわけでもない。知らない建物が建ってたり、美味しいコロッケの食べられたお肉屋さんが、もうそこにはなかったり。

 そんな懐かしさと寂しさを同時に抱えながら、僕はあるところへと向かっていた。


 大学進学のためにここ故郷を出て、2年ほど経っていた。ここで過ごしていた頃に比べて、多すぎる電車だとか、そこら中で光っている掲示板だとか。都会には新鮮なことが数え切れないくらいあった。


 ただ、そんな充実した日々でも、僕の中には1つ、があった。過ごしていても、突然頭の中に現れては、僕の胸を締め付けるもの。それは……

 

 ……彼女向 日葵のことだった。


 来られることなら、去年だってここに来たかった。ただ、新生活の始まりというのは思ったより大変なもので、渋々ここへ来ることを諦めていた。そしてある程度ひと段落した今年、ここへ久しぶりに戻ってくることができた、というわけだ。遅れてでも去年は会いに行けばよかっただろうか、とも思いつつも、いや死ぬほど忙しかった、と自分を正当化する。なかなかに情けないものだ。

 ……今更だが、我ながら未だに1人の幼馴染にここまで固執しているというのも気持ち悪いなと思う。一体僕は彼女のなんだというのか。彼氏でもなければ、親でもない。そして僕は何故ここまで彼女に固執し続けているのだろうか。

 少し考えて、1つの結論が出そうになる。たぶん、僕は……


『僕は、彼女のことがだ』

 

 その言葉が現実に形を持ってしまう前に、喉の奥に引っ込める。

 ずっと会えていない幼馴染相手に……そもそもお前自分幼馴染相手に、何がだ。そんな言葉を口にする権利なんて、僕にはない。

 ……、僕が早く気づいてれば……

 そんな思考回路を無理やり終了させる。やめにしよう。そんなに悔やんでても仕方ない。もう、あの夏は終わったのだから。

 アクセルをもう少しだけ強く踏む。目が痛くなるほど真っ青な海を横に、少しだけブルーな気分になった僕を乗せた車は走っていった。

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