第16話 京都をガイド(除夜の鐘と初詣~節分お化け祭~太閤花見行列)

 大晦日の夜には二人して清水寺で除夜の鐘を撞いた。

「えっ、除夜の鐘が撞けるの?清水寺で?」

地元の純子ママが驚いた様子で訊ねた。

「はい、十二月二十五日の朝九時から、一人一枚ですが、整理券が配布されるんです。その券を持っていると二人で一回だけ鐘が撞けるんです」

「慎ちゃん、それ、あなたが貰いに行ったの?」

「まあ、一応・・・」

「ご精が出るのね」

純子ママが半ば揶揄うように含み微笑って言った。

「でも、一年を締め括る大晦日の夜に聞く除夜の鐘というのは、真実に心が清らかになって、真新な気持で新年を迎えようと言う思いに駆られるんすね」

「うん、除夜と言うのは、一年の迷いを除く、と言う意味だからね。人間の煩悩の数だけ鐘を撞いてそれらを打ち払うのが除夜の鐘なんだよ」

「それが百八回撞くことの意味なのね?」

「そうだ、そうだ」

純子ママが訊ねた。

「で、当然、二人は初詣も清水寺で済ませて来たって訳ね?」

「はい、その後、八坂神社へお詣りして・・・」

「丁度、“えんむすび初大国祭”が行われていてね、厄除け開運お祓いの後、縁結び良縁達成の祝詞が読み上げられている最中だったんだ」

「開運小槌が無料で貰えたのよね。縁結びお守りと干支絵馬も買って来たんです」

それを聞いた純子ママは、慎一はそろそろ亜紀との結婚を考え始めているのかな、と思った。

 

 二月の初旬に慎一と亜紀は怪訝な顔付きで「純」の扉を開けた。

「ねえ、ママ。今、此処へ来る途中、四条通りや花見小路の信号の処で、変な格好をした女性に何人か出逢ったけど、何かあったの?」

「ああ、あれね。今日は節分でしょう。節分の日にはホステスさん達が仮装をして出勤するのよ」

「えっ?ホステスさんが仮装で出勤するの?」

「祇園では節分を“お化け”と言って芸妓さんが趣向を凝らして仮装を愉しむの。今晩わ、お化けどす、と言ってお茶屋からお茶屋へ移動するから出逢った人は吃驚するでしょうけど、今では芸妓や舞妓さんだけでなくクラブのホステスさんもそれに倣っているのよ。最近では一般の人も参加できる“節分お化け祭”と言うのも有るわよ」

「へえ~、知らなかったなぁ。じゃ、今晩、もっと遅くなれば祇園の街はコスプレと化す訳だ」

「そう言うことね」

 

 三月も下旬を迎えて、かわず桜、しだれ桜、ソメイヨシノ、山桜、八重桜、等々の桜花が次々と咲き競いながら、京都の街を春の色に染める華やかな季節がやって来た。

「醍醐寺の太閤花見行列を見て来たよ。三宝院の大玄関から金堂前まで、二千本の桜が咲き誇る中での華麗な行列だった」

「豊臣家の桐紋が入った紅白の幕が張られ、雪洞も立ち並んで、真実に派手で華やかな催しだったわね」

「北政所や側室の淀君など女房衆も千人以上連なって、将に盛大な宴って感じだったよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る