明日に向かって

@HNBMCAAIOHI

明日に向かって

「翔、私たちは、あのダンジョンで待っている」

「翔、お前が知りたいことが分かる」

「だから、二人で待っているよ」


 目に涙を浮かべながら、一人静かに起きる。


「また、この夢かよ。」


 ここ最近、消えたはずの両親が出てくる夢を見ていた。

 俺は、一人静かに朝食を済ませ、学校に出かける。


「……いって、きます……」

 俺は、寂しさの混じった声で家を出た。

 しばらく歩いていると、見知った顔がくる。近づいてくる。


「おっはよ~、翔(かける)。今日も相変わらず、元気がないねぇ」

 彼女は、宮原 涼音(みやはら すずね)。

 幼馴染で、小学校からの付き合いだ。


「……おはよう。朝から元気だね」


 俺は、あくびをしながら軽く挨拶する。


「そうそう、今日の放課後って空いているかな? 勉強に付き合ってほしくてさ。どうかな?」


 俺は、ここ最近見た夢を思い出した。

 あれは、俺の単なる夢に過ぎないのか。

 それとも、神様とかいう感じからのお告げなのか。

 しばらく考えていると、ふと両親に言われたことを思い出す。


「翔。私たちが出えてくる夢を見たときは、真実を知る時よ。忘れないでね」


 幼かったころの俺は、意味を理解できていなかったが、今の俺には理解できる。


「……ごめん。今日は、どうしても外せない用事があるんだ。また今度でいいかな?」

「ん?分かった。それじゃ、また今度にするね」


 その時、涼音が俺に違和感を覚えていたことに気づいていなかった。



 放課後、俺は家に帰ってから、必要なものを準備した。

 親から託された箱の中を開け、古びたノートと袋を取り出す。


「これを使う時が来たのか」


 母親が、これを使う時が来るまでは開かないの、だからその時を待っててね、と教えられていた。


「やっぱり、父さんたちは、このことを知ってたんだな」


 そのノートを開いて、ダンジョンの中の環境や攻略方法を予習しながら、必要なものが書き出されているので、用意をしていく。

 縄、軍手、ゴム手袋、2ℓのペットボトル、着替え、レインコート、長靴、命綱、ガスバーナー、カッターナイフ、懐中電灯、予備電池、携帯食料を二人分用意した。


 なぜかは知らないけど、用意する持ち物を必ず二人分用意しなさいと書かれている。

 俺は、そこに疑問を持ちながらも準備を進めた。

 家を出る前に、持ち物の確認をして、箱の中に入っていた袋に入れていく。

 この袋は、いわゆる○○○ポケットみたいに容量がとても多いので、持っていく荷物がすべて入った。

 俺は、決意のこもった声で家を出る。


「……行ってきます」



 目的のダンジョンは、まるで俺にしか見えていないかのように、俺のことを待っていたかのように、そこにあった。

 目的のダンジョンの前にたどり着くと、後ろから声を掛けられる。


「ねぇ、なんでこの「天照(あまてらす)ダンジョン」なんかに入ろうとしているの? 」


 そこには、涼音がいた。


「な、なんで涼音がここにいるんだよ。どうしてここがわかった? 」 

「実は、今朝の翔の様子に違和感を覚えちゃったから、家の前を張っていたの。そうしたら、まるで決意を固めたような表情をしている翔を見て、ただ事じゃないと感じちゃったから付いて来ちゃったの」


 俺は、少しびっくりした。

 涼音が、俺のことを心配してくれていることに気づいていなかった。

 俺は、少し嬉しくなりながらも、気の張った声で言う。


「涼音、俺が今から張るのは、母さんたちが夢の中でここに来いって呼ばれたからなんだ。この先は、険しい道が続いている。危ないから、付いて来ないでくれ」

「っは、翔!」


 俺は、涼音が俺を呼んでいることに気づきながらも、振り返ることをせず、ダンジョンに入った。



 ダンジョンの中は、まるで人間が作ったかのような作りだ。

 早速俺は、袋の中からノートを取り出して進もうとしていた、その時だった。


「へぇ、ダンジョンの中ってこんな感じなんだ~。不思議だねぇ~」


 ここにいないはずの日との声を聴いたので、急いで振り返る。

 そこには、涼音がいた。


「おま、なんで付いて来たんだよ。危ない場所なんだから来るなって言っただろ」

「だって、翔だけで行ったらダメだって、頭の中で聞き覚えのある誰かの声が聞こえたの。私は急なことにびっくりしたけど、急いでって慌てたような声が聞こえたから、走ってきたの」

「聞き覚えのある声って、まさか……いや、このことを考えるのは後にしよう」


 俺は、気持ちを切り替える。


「お願いがあるんだ、涼音」

「ん?どうしたの、翔? 」

「俺の持っているこのノートには、この「天照ダンジョン」の攻略の仕方が書かれている。だから、ここから先は、俺の指示で動いてくれ。分かったか?」


「えぇ、分かったわ。けど、進みながらでいいから、このダンジョンに来た理由を教えなさいよね」

「……はぁ、分かった。とりあえず行くぞ。あまり時間をかけると体力が持たないから、急ぎ足で進むぞ」


「りょ~かい!それじゃ、グ~タッチして行こうか」

「いや、べつにしなくていいだろ、そんなこと」

「いやいや、こんな時だからこそだよ。二人で行くんだから、一緒にがんばろ~って気合い入れなきゃでしょ。ね?」


「涼音が勝手に付いて来ただけだろうが。まったく……はぁ、分かった。はい、グータッチ」


 俺は、あまり気が乗らないが、涼音が拳を出して待っていたので、合わせた。

 あまり、空気が変わることがなかったので、これをする意味が分からなかった。



「それで、こっからどうするの? 翔」

「あぁ、まずこの階層はそんなに面倒くさい罠とかないから、俺の後ろをしっかりとついてこれば大丈夫。行くぞ」

「は~い。ダンジョン、楽しみだなぁ」


 涼音は、鼻歌をしながらも、しっかりと俺の後ろをついてきた。

 俺たちは、道が複雑だったり罠が作動することなく、歩き続けて次の階層に来ることができた。

 俺は、確認するように、ノートを軽く見る。


「さてと、次の階層は、急な天候の変化がある階層だな。とりあえず、レインコートと長靴を履いていくぞ。ほら、涼音の分もあるから、さっさと着ていくぞ。ついでに、あたりが急に暗くなることがあるらしいから、懐中電灯も渡しておくぞ」


「は~い。それにしても、その袋凄いね。いったいどれぐらいはいるのかな? 」

「俺も詳しくは知らないけど、家一つ分は入るんじゃないか? 」


「え! すごいじゃん! もしかして、ダンジョンを攻略するのに必要な道具が全部入ってるってこと?」

「そう。この話はここまでにして、さっさと行くぞ」


 俺は、話を止めて歩き始めた。


「あ、ちょ、待ってよ~」


 涼音は、走って追いかけてきた。

 しばらく歩いてると、急にあたりが暗くなった。

 その直後に、あたりがじめじめした空気に変わった。


「涼音、もしかしたら雨が降るかもしれないから、少し歩くスピードを上げるぞ」

 「そうだね。急にじめっとした空気に変わっているからね」


 俺たちが、歩くスピードを速めて数分もたたないうちに、雨が降り始めた。

 最初は、ぽつぽつと降っていた程度だったが、一分もたたないうちに土砂降りに変わった。


 「っち、想定以上の雨だな。いったんどこか雨宿りできる場所探そう」

 「ええ、そうね。この雨の中、進むのは危険ね」


 俺らは、一緒に雨宿りできそうな場所を探しながら進んだ。

 そうして、何とか雨宿りができそうな洞穴を見つけることができ、二人で身を寄せながら雨が止むのを待った。

 その間に、俺はノートを出して、この後のルートの確認をした。


 「……雨凄いねぇ、いつになったら止むんだろう?」

 「このノートによると、早くて三十分、長い時だと一時間は降り続けるみたいだな」

 「そんなに降るの! 止むまで暇だし、私少し眠いから仮眠するね」


 「分かった。俺は辺りを見張っておくから、寝れるときに寝なよ」

 「うん、ありがとう。おやすみ」


 そう言い、涼音は俺の肩で寝た。

 俺は、少し気恥ずかしさを覚えながらも、袋の中からブランケットを取り出して涼音に優しく掛けた。

 俺は、涼音が寝ている間、袋の中を整理して次に使うものを取り出しやすくした。


 一時間後、雨が止んだ。


 「おーい、涼音、雨が止んだぞ。今のうちに進むぞ」


 俺は、涼音の肩を揺らしながら起こした。


 「う~ん、あめ、止んだんだね~。あ、ブランケット掛けてくれたんだ、ありがとう」

 「別に、雨で少し濡れていたし、それで風邪をひかれたら困るし、俺も少し寒かったからであって、涼音のためにやったんじゃないからな」


 俺は、少し恥ずかしさを隠しながら言った。


「ふふ、そういうことにしておくね。それじゃ~、行こうか~」


 涼音は、元気が復活したようで、テンションが上がってた。


「そうだな、行こうか」


 俺も、涼音に感化されたのか、少し気分が良かった。


 その後も、順調に進んでいくことができた。

 沼地エリアや細道エリア、暗闇エリア、砂漠エリアがあったが、ノートに書かれていることに従って行ったおかげで、無事に最下層にたどり着くことができた。


「この先に、神様がいるはずだ。慎重に行くぞ」

「えぇ、行こう!」


 俺は、目の前にある大きな扉を開けた。

 中は、まるでシンプルな神殿のような作りだった。

 その奥には、幼い見た目の女の子がいたが、どこか人とは違う感覚を覚えた。


「お主ら、初めましてじゃな。我は、ここに住まう神様じゃ。お主らの願いを聞こうか」


 俺と涼音は、女の子が言う口調でないことや直接心に問いかけてくるような感覚に陥ったので、目の前の人が本物の神様であることを悟った。


「ね、願い?どういうこと、翔?何のためにここにきたの?」


 涼音は、困惑した表情で俺を見ていた。


「俺は、このためにここに来たんだ、涼音」


 俺は、決意を込めた目で涼音を見た。

 涼音は、何も言えなかった。


「さぁ、お主らの願いとやらを聞こうではないか」


 俺は、一呼吸してから、ずっと思っていたことを言った。


「俺の両親に、会わせてほしい」


 涼音は、驚いた表情で俺に詰めてきた。


「ねぇ翔、正気?翔の両親は、2年前に行方不明になったじゃないの!警察の人も、まるで神隠しにあったようだって言ってたじゃん!」

「俺は!ずっと!ずっとずっとずっとずっと!家で!一人で!待ってたんだよ!」


 俺は、泣きながら胸にしまっていた想いを吐いていた。


「涼音はいいよな。親がまだ近くにいて、俺にはいなくて、寂しくて、羨ましかったんだよ。涼音の楽しい家族の話を聞いていると、自分が惨めに感じるんだよ」

「翔、そんな風に思っていたんだね」


 涼音が寂しそうに言ってきた。


「分かった。其方の願い、叶えてやろう」


 神様が言うと、辺り一面が眩い光に包まれた。

 光が収まった後に目を開けると、そこには懐かしい顔があった。


「父さん……母さん……」


 俺は、泣くのを堪えながら、近づいた。


「え?うそ?本当に、翔の両親なの?」


 涼音が俺の後に続いて近づこうとすると、見えない壁に遮られていた。


「な、何これ、壁?ちょっと、翔! 」


 涼音の声は、俺には届いてなかった。


「小娘よ、お主はそこで見ておるがいい。久方ぶりの親子の再会の刻じゃ。邪魔をするでない」


 神様は、涼音に何か言っていたが、俺の耳には入っていなかった。


「父さん、母さん、今までどこにいたんだよ。俺さ、ずっと待ってたんだよ、一人でさ」


 俺は、涙が止まることないまま、両親の目の前まで来ていた。


「ねぇ、父さん、母さん、何か言ってよ」


 俺は、父さんたちのほうに目線を向けると、違和感を感じた。

 まるで、死んでいるかのような目をしていた。


「父さん?母さん? 」


 俺は、そっと父さんと母さんの手を触ってみた。

 その手は、冷たかった。


「そ、そんな。う,嘘だ。違う、違う違う違う!」


 俺は、頭の中によぎった言葉を否定したいがために、 あらゆることを試した。


 胸に手を当てて、心臓が動いているのかを確かめた。

 動いていなかった。


 腕を動かそうと、力を入れてみた。

 動かなかった。


 目に懐中電灯を近づけて、瞳孔が開くかどうか確認した。

 開かなかった。


「ぁあ、ああ、あああああ、」


 俺は、その残酷に真実を知り、絶望した。


「翔! ねぇ、翔ってば! どうしたの、ねぇ、かけ、っあ!」


 涼音の目の前にあった見えない壁が、急に解除された。

 涼音は、走って俺のそばに来た。


「ああ、あ、あ、あああああ」

「どうしたの、翔? 何があったの?」

「も、もう、父さんたちは……生きていない、んだ」

「え! じゃあ、目の前にいる両親は?」

「……死体だよ、完璧な状態の」


 涼音が真実を知ると、手で口を隠した。


「……う、そ……」


 しばらく俺たちは、真実を目の前にして、動揺を隠せなかった。


「どうだい? これがお主の願い事だったろ? 嬉しいかい?」


 神様は、すべてを知っていたかのように、俺に言ってきた。


「俺の知りたかったことを知れて、よかった」


 俺は、ふらつきながら立ち上がり、神様に感謝する。


「翔、本当にいいの? これで。これだけを知るために来たの?」

「もう、いいんだよ。父さんたちは、もうこの世にはいない、死んでいるんだ。生きてもう一度会うことなんてできないよ」

「翔……」

 

 俺は、あきらめたように、気の抜けた声で返事をした。


「さて、小娘よ、お主は何を望む?」


 涼音は、少し考え、何かひらめいたような顔をして、神様に言った。


「じゃあ、翔の両親がどうしていなくなったのか、教えて!」


 俺は、その言葉に驚いた。


「お、おい、涼音、何を考えているんだよ。もう、俺の両親は死んで、」

「ええ、そうよ。確かに、翔の両親は死んでいる。けど、どうして死んだのか知りたくはないの? 何を想っていなくなったのか、知りたくないの?」


 俺は、その言葉にハッとした。

 俺は、目の前の結果だけを見て、その中身を見ようともしなかった。

 父さんたちの想いを知ろうともしなかった。

 俺は、思いっきり自分の頬を殴った。


「ちょ、何してんのよ!」

「いや、これでいい。俺は、真実を見ようとしなかったんだ。自分への罰だよ」

 

 俺は、自分を殴ったことで、冷静さを取り戻していた。


「小娘よ、お主の願いはそれでよいか?」

「えぇ、お願いします。翔の両親がいなくなったのか、教えてください! 」


 涼音は、神様に深くお辞儀をしながらお願いした。


「良いだろう。お主らに、小僧の両親に何があったのか、話そうではないか」


 神様は、一つの部屋を作り出した。

 それは、どこの家にもありそうな和室だった。


「まぁ、長い話になるからのう。立ち話もなんだし、ほれ、こっちに来い。座って話そうではないか」


 神様は、手招きをした。

 瞬間、俺たちは、いつの間にか和室の目の前にいた。

 俺たちは、目を合わせて驚きながらも、靴を脱いで、部屋に上がった。


「さて、どこから話そうか。う~む」


 神様は、しばらく悩んだ後、語り出した。


「まず、これには、小僧、お主の幼いころにかかった病に関係するんじゃ」

「お、俺の、病? 」

「そういえば、翔って、五歳くらいの時に入院してたよね?」


「あぁ、そのころの記憶はないけど、確かに入院はしてたな」

「実はな、小僧の命は、もともとそこで終わるはずじゃったんだよ」

「っえ⁉」


 俺と涼音は、思わず声に出してた。


「そうじゃ。小僧の命は終わるはずじゃったんだが、その時に、小僧の両親が、ここに来たんじゃよ」

「父さんたちが、ここに? いったい何をしに?」


「小僧の病を治すためじゃよ。まったく、こ奴らは自分のために願いを使うんじゃなく、我が子を救うために使いよった。まったく、人というものは、よくわからないものだな」


「お、俺の病を治すために?」

「じゃが、そのような運命を変えるような願いをするのなら、当然代償がつきものじゃ」

「そ、その、代償って?」


「願いをかなえた十年後に、我のところに来て、実を捧げるんじゃよ」

「はっ⁉ だから、父さんたちの体があったのは、そういうことだったのか」

 俺は、驚愕の事実に、茫然するしかなかった。

「大丈夫、翔? 少し休憩したほうが良いんじゃない?」

 涼音は、新お会い層に俺を見ながら言った。


「大丈夫。これは、涼音がくれた真実なんだ。それに狼狽えていたら、前を向いていけなくなっちゃうと思うんだ。だから、大丈夫」


 俺は、決意を込めた顔をして涼音を見た。

 涼音は、俺の顔を見て安堵した顔をして神様のほうに視線を戻した。


「小僧、よい心がけじゃ。さて、もう少し真実を話すとするか」


 神様は、少し伸びをしてから、姿勢を整え、再び語りだした。


「さて、どこまで話したんじゃったけ? あぁ、そうそう、小僧の両親が小僧の病を治すための代償についてまでじゃったな」

「はい、そうです」


「この話には、続きがあってじゃな。こ奴らは、もう一つの願いも、小僧のためにと想って叶えてきた。それは、小僧がこの世に執着を持っていないときに、夢を見せてここに連れてくるように仕向けてほしい、とな」


「え? 何のためにそんなことを?」

「そこは、我も知らんな。じゃが、小僧を想ってのことじゃ。何か意図があるのかもしれないな」


「意図? なんなんだ、いったい?」


 俺は、しばらく考えた。

 そして、ある一つの仮説が出てきた。


「もしかして、俺に父さんたちの身に何があったのかを教えたかったのか? もし、いなくなる前に、このことについて知らされていたら、俺が神様のところにまで行って、父さんたちにいなくならないでほしいと頼み込むとわかっていたから何か?」


 俺は、自分の仮説を言った後、自分を嘲笑った。


「もし、そうだとしたら、俺は大バカ者だ。せっかく父さんたちに助けてもらった命を、台無しにするところだった。だからあの時、涼音を呼んだのかな」

「っえ? 私を? いったい何の目的で?」


「それは、今の状況が答えだよ。俺は、父さんたちが生きていないことを知って、何をするかわからない状態だった。けど、涼音がいたから、父さんたちのことについて知れたんだ」


「そうね。もし翔だけだったら、今頃どこかで死んだ顔しながらふらふらしてるだろうね」

「うるさいなぁ。 でも、涼音がいてくれて良かった。ありがとう」

「ふふ、このことは内緒ね。親に秘密で来たんだから」

「おい、親を心配されるようなことをするなよ、って俺もか」


 俺と涼音は、顔を見合わせながら笑った。


「我から話せることはここまでじゃ。お主らの願いも叶えたんじゃ、ここにはもう用はないじゃろ?」

「そうだな。俺の知りたかったことも知れたし、もうここには用はないな。涼音は何かここに用はある?」

「私は、翔の後を追ってここに来たんだから、用なんかないよ」

「それもそうだな」


 神様は、入口のほうに向けて何かを唱えた後、突然光りだした。


「あそこに入れば、外に出られる。早く行きなされ、もうじき日が昇る時間じゃ」

「っえ? 嘘⁉ もうそんな時間なの? 早く家に戻らなきゃ、親が心配しちゃう」

「そうだな、行こうか。ありがとうね、神様」

「礼を言われるようなことはしてない。早く帰るんじゃな」


 俺と涼音は、一緒に光の方へと向かった。

 俺は、光の中に入る直前に、立ち止まった。


「ん? どうしたの、翔?」

「ごめん、先に行っててくれるかな? すぐに俺も行くから」

「……分かった。早く来てよね、待ってるから」


 涼音は、先に光の中へと入っていった。


「ん? なんだ、小僧。我に何か用があるのかい?」


 俺は、深く息を吸った。


「あのさ、神様。父さんたちに、伝えれるなら、伝えてほしいことがあるんだ」

「ほう、伝えれるか分からないが、言いたいことがあるなら、聞くぞ」

「生んでくれてありがとう、行ってきます、って伝えてほしいんだ」

「ふむ、我は願い事以外、何もしないぞ?」

「そこは、神様を信じるから。今日は、ありがとうございました」


 俺は、深くお辞儀をした。

 そして、光の中に入った。

 外に出る直前、背中を誰かに押された。


「生まれてきてくれて、ありがとう。行ってらっしゃい!」


 父さんたちの声が聞こえた。


「っつ! 行ってきます!」


 俺は、涙をこらえ、振り返らずに外に出た。



 目を開けると、外に出ていた。

 近くの木の下で、涼音が待っていた。


「もう、遅かったじゃん。神様に、何か話したの?」


 涼音は、俺の顔を覗き込むように見てきた。


「いや、何でもない。ただ、神様にありがとうって、伝えたかっただけだよ」

「ふ~ん、そうなんだ。それよりも、ダンジョン攻略できたから、お祝いのグータッチしよ!」

「っふ、分かった。お疲れ様」

「お疲れ様!」


 俺と涼音は、力強く握った拳を合わせながら笑った。


「あ、やばい、早く家に戻らないと、親にばれちゃう! 」


 涼音は、家に向かって走り出した。

 俺は、ダンジョンのほうに振り返って言った。


「行ってきます」

「お~い、翔。早く来て~」

「はいはい、今行くよ! 」


 俺は、そっと微笑みながら走り出した。



 あの後、俺たちは無事に家にたどり着いた。

 涼音は、結局親にばれていたらしく、玄関を開けた瞬間に親が涼音に駆け寄って来た。

 俺も、涼音と一緒にいたことで、一緒に怒られた。


 その日は、ダンジョンでの出来事があったので、一日寝ていた。

 その次の日は、久々に俺の部屋で涼音と話した。

 高校に上がる前は、時々涼音が俺の家に来て、一緒に勉強したり遊んだりしてた。


 両親がいなくなってからは、自分の部屋で塞ぎ込んでいたので、涼音と会う時間が、無くなっていた。

 ダンジョン内での出来事や両親のこと、これから土過ごすのかを話しあった。

 次の日、俺はいつも通りの時間に起き、朝食を食べ、制服に着替えた。


 俺は、靴を履いて、元気よく学校に出かけた。

「行ってきます!」

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