昴龍と龍華: 破滅と再生の誓い
@kimaguresakka2265
過去史 ― 断片
人類が文明を築き始めてから、すでに数千年が経っていた。
とある大陸では、複数の部族や都市が統合され、「国」と呼ばれる共同体が生まれていた。その頂点には王がいた。
石の城壁に囲まれた都市は、鉄製の防具で武装した兵団に守られていた。
王位は同じ家系から数百年にわたって継承されてきたが、ある代の王は、人の寿命があまりにも短いことを嫌悪していた。
そして彼は、終わりのない生を望んだ。
すでに世には数多の伝承があった。
雷をまとう馬の姿をした麒麟。
蛇のようにうねる龍。
不老不死をもたらすという「賢者の水」。
王はそれらに目をつけた。
自らの強大な軍事力と国力を背景に、各地から優れた学者を集め、世界中の生物を捕らえ、不老不死の実現を目指した。
混乱がなかったわけではない。
だが王は内政を疎かにしなかったため、国民の生活は表面上、安定していた。
その夜、王都の南で空が裂けた。
夜雲を縦に割る白光。
流れ星に見えたそれは、次第に大きくなり、やがて“落下”であると理解された。
光は地平を一瞬で真昼に変え、すぐに闇へと呑まれた。
続いて大地がうねった。
城壁は生き物のように震え、兵士たちの松明が大きく揺れた。
焦げた肉の臭いが、風に乗って流れてきた。
異常は即座に報告され、調査隊が編成された。
駆けつけた兵たちの視界に、巨大な影が横たわっていた。
古い壁画にしか描かれないはずの“天獣”。
だが絵とは違い、そこには確かな体温があり、質量があった。
焼け焦げた鱗が剥がれ、地面に散乱している。
片翼は根元から失われ、
残る片方も「掴まれたまま引き裂かれた」としか思えぬ損傷を負っていた。
この国には、これほど頑丈な鱗を持つ生物に、ここまでの傷を与えられる兵器は存在しない。
その事実を、兵士たちは誰よりも理解していた。
言葉を失う兵たちの中で、
老兵だけが乾いた声で呟いた。
「……天の裁きだ」
だが、この大陸のどこに、
これほどの力を持つ存在がいるというのか。
天獣――龍と呼ぶしかない生き物は、まだ息があった。
胸がわずかに上下し、体内で金属が軋むような音が鳴る。
どの医士も知らぬ、生き物の音だった。
やがて龍は目を開いた。
その瞳に怒りも憎しみもない。
ただ、今にも消え失せそうな光だけが、かすかに宿っていた。
最後の呼気は熱風となり、草を焼き伏せ、
そのまま龍は沈黙した。
それが、災いの始まりだった。
翌日、落下地点の土は光を反射して七色に輝き、
水を注げば蒸気を上げ、金属を近づければ震えた。
やがて、そこから見たことのない物質が採取される。
後の学者が「龍脈石」と名づける物質である。
だが当時の人々には、それが災厄なのか祝福なのか、判断できなかった。
王は龍の死骸を回収し、不老不死の研究を進める。
兵士たちは、
「これが正しいのか」という不安を胸に抱えたまま。
しかし、彼らはまだ知らなかった。
流れ星は、一つではなかったことを。
別の王国で。
人のいない荒野で。
北の地で。
西の森で。
南の荒野で。
同じ夜、同じように――
“それ”は、落ちていたことを。
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