『ちりとしゅがー』

一筆 息災

第1話

『アイスと日傘』



玄関から出ると、焼け付くような陽射しが一瞬視界を暗転させ、手で日除けを作りながら忌々しく睨みつける。

「日焼け止めなくなっちゃったんだよな…」

じわじわと流れ出る汗が制服にまとわりつくのが気持ち悪く、胸元のボタンを外し、中々一歩を踏み出せず、その場で地団駄を踏んでいるあたしの前でゆっくり日傘を広げ通り過ぎる人物が1人。

「しゅが!アタシも入れて!今日日焼け止めなくってさ、てか今日暑過ぎ…」

近所に住む小学生からの幼馴染、雨井しゅが十六歳。

外面は箱入り娘のお嬢様といった感じだが、ところどころ抜けている。あ、ちなみにアタシは保島ちり、つい先日十七歳になりました。

しゅがは早生まれだから来年までは先輩面をしてやるか。

「あ、ちりだ。おはよー」

こいつの性格はあたしと正反対だが、何だかんだ高校まで同じの腐れ縁だ。

「よかった、暑くてもうサボろうかと思ってたよ」

入れて入れて、と、しゅがの持つ日傘に入ると右手に何やら持っているのが見えた。

「アンタ登校中にアイス食べてんの?なにそれずるくない?」

こっちは暑くて制汗スプレーも機能しないくらいなのに。

「暑さと日焼けはしゅがの敵だもん」

確かに、この暑さはもう暴力だ。

でも登校中に日傘差して優雅にアイス食べるやつなんて中々いないだろ。

「ん?そういえばしゅが、アタシに気付いてから日傘広げてなかった?アンタもしかしてアイス隠すためだけに日傘差した?」

目線だけこちらに向けたしゅがは、何のことやらといった顔をしている。

「絶対わざとじゃん!もうアタシにもそのアイス食べさせろ!」

口を近付けたアイスが遠ざかる。

「やだ、これしゅがのだもん」

澄ました顔をして淡々と言われると余計に食べたくなる。

「長年の友達が暑さで溶けてるのにそれはないでしょ、アイスはまた食べれるじゃん。アンタん家金持ちだし」

しゅがはアイスを齧りながら何やら考えながらも歩みを止めない。

「ねぇ聞いてる?ほんと暑いから一口だけちょうだい。アイスより幼馴染のアタシの方が大事でしょ?」

ぴくっと眉を動かしたしゅががこっちを向く。

「どっちが大事かなんて決まってるじゃん!お前に決まってるだろう!」

キザな男の真似をしてしゅがが言い放つ。

「しゅが…ってお前アイス見て言ってんじゃん!ふざけんなよ!食わせろおらぁ!」

照りつける太陽が道路とアタシ達の問答を熱くさせ、日傘はとうに地面の一部に影を差すだけになっていた。


「アンタなんでそんな意地悪なんだよ!」

目を三角にしてアイスを狙いながら言う。

「ちりいっつもガサツなんだもん!」

巧みなアイス捌きで応戦するしゅが。


ボトッ…


「あ…」

持久戦に耐えられなかったアイスが棒から崩れ落ちKO。

「あああ!しゅがのアイスがあああ!」

澄まし顔が泣き顔に変わる。

「うあああ!アタシのアイスがあああ!」

ちりのじゃないでしょ、とかアタシにも一口食べる権利くらいあった、なんて言い合ってるうちに2人とも汗だくに。

「なぁしゅが…今日もう学校サボってカラオケいかない?」

「そうする…」


アイスだけではなくわだかまりも溶けたみたい…

ってうるさいよ!


今日も騒々しい一日の始まりだ。

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『ちりとしゅがー』 一筆 息災 @1Pizza_Sokusai

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