第21話 一部で「黒幕」と恐れられてるらしい
そして、これは後日談。
あれから後始末を済ませた僕たちは、動乱の隙に付け入る新たな敵を警戒し、マグワイアさんたちの護衛のもとあの場を離れて。今日までなんと、大獅子騎士団の師団の一つ、「尾の剣」にお世話になっていた。
それから一か月。危険がないとわかった後も、僕はやらかしたことを考慮して宮廷魔術師用の区画には帰らず、マグワイアさんのところに身を寄せてたんだけど。
今日は朝から、与えられた広い部屋の姿見の前で、宮廷魔術師の正装であるローブを用意し身だしなみを整える。
その時。ソファでにこにこと機嫌よさげに僕を見てた姫が、パンっと手を叩く。
「――それじゃあ、準備もととのったみたいだし。行きましょ? パパっ」
「……はい」
立ち上がった姫は、僕と同じく正装に身を包んでいた。
美しい銀の髪に、良く映える金糸を編み込んで飾り。ただでさえ芸術品のようにきれいな顔に、薄く化粧を施し。瞳と同色、深い紫のドレスを身にまとって。
相変わらず美人。こうして着飾ると余計に、僕と二つしか歳が変わらないとは思えないほど大人っぽい……んだけど。
「? どうかした? ――パパ」
これ。この、パパ呼び。
姫の心が不安定になってたあの時だけのことかと思ったら、あれ以来ずっとこれなんだけど。さすがに人前では控えてくれてるけど、なんというか。
年上で、背丈もほとんど変わらない女の子にパパって呼ばれるの……なんだかいけない雰囲気が漂ってない? まあ、なにも言えないから受け入れるしかないんだけど……。
「なんでもないです。えっと……姫、ドレスがとっても似合ってると思って」
「! ほんと? うふふ、うれしい……っ。今日は特別な日だから頑張って選んだのよ? パパに見劣りしないようにって」
「見劣りするって言うならそれは僕の方ですよ。心配なんかしなくても、姫はとっても――美しいです」
「……~っ」
わっ。急に飛びついて……。
「――パパったら、どれだけわたしを喜ばせてくれるの? ……だいすき!」
顔をくしゃくしゃにして、ぎゅうっと抱きしめられる。
なんだか微笑ましいな。パパ扱いは度が過ぎてる気もするけど、これまで普通の親子関係を築けなかった姫がこれで満足できるなら。
「僕も好きだよ。――キルリエラ」
「!! んんっ! パパ……っ!」
とろけた顔で僕を見て、いっそうきつく抱きしめてくる姫。
ふふふ。なんだか、本当に娘みたいに思えてきたよ。可愛い子だね……。
なんて、思っていると。
……今さら気づく、他人の気配。部屋の入口に目を向けると、にやつきながらゆっくり扉を閉めるマグワイアさんが。
「邪魔して悪かったな、お取込み中に。だが、そろそろ時間だ」
これ、絶対また誤解された。なんでもかんでも色恋に結び付ける彼の悪癖が、うわさ話に尾ひれをつけるところが目に浮かぶ。
「さあ。詳しい話はまたアルベルトに聞かせてもらうとして。――陛下も待ってるんだ、もう行くぞ」
そう促されて、やっと。
姫は僕から離れて。僕たちはマグワイアさんの護衛のもと部屋を出て、目的地へ向けて王宮内を行く――。
そして、場所が変わって。王宮内で様々な行事を執り行うための大広間にて。
たくさんの貴族、騎士、魔術師が詰める中、みんなを背にする形で僕と姫は最前に立って、そして対面にいる威厳ある男――――陛下と、向かい合う。
「――そうしてこの度は、昨今の不安定な国内情勢、そして外交関係と、広くある懸念へ丁寧な検討と対応を重ねるべく――」
こうしてスピーチしてるところを見ると、なんだか立派な国主みたいに見える。つい一か月前に、涙まみれで床を転げてた人と同一人物には思えないな……。
なんて思いながら、聴衆へ向けて語る陛下の言葉を聞いていると。
「……あの男、どの口であんなこと……」
「姫。しっ、だよ。……言いたいことは分かりますけどね」
「うん……」
不満げな姫だけど、こうして陛下が引き続き国主の立場に居続けることは、もちろん姫も納得してるはず。
――一か月前、僕が期せずして姫のクーデターを完遂させてしまったあの日。身を守る術をなくした陛下を前に、姫は言ったのだ。その処遇をわたしに任せてほしい、と。
僕としてはもう、ここまでやってしまったからには行くところまで行ってもよかったんだけど。姫の許可なくするわけにもいかないから、一応誰の命も奪わないよう気をつけてはいた。
だから、姫に処遇を委ねることに異論はない。姫が陛下を許せないなら、僕が彼を殺す。そうでないなら、姫に咎が及ばないよう約束させたうえで、その身柄を解放する。
そうして、聡明な姫が下した決断は。……いま、陛下が生きて国主として振る舞っていることが答えだった。
――「パパが想像以上に強すぎたから」とは、そのとき姫がこぼした言葉だ。
もともと姫の目的は、僕が安全に王宮で働き続けることだったけど……姫の誤算は僕の強さだったとか。
一対多でもまず負けず、超強力な治癒魔術まで使えるとなれば、物理的に僕を排除するのは不可能に近い。となれば、無理に王の命を奪って国に余計な混乱を生むより、政治的に殺して屈辱の中生かす方が良いというのが姫の判断。
……それに、もはやあの時の陛下は、これ以上僕に危害を加えようと思ってもなそうな様子だった。
何なら今も、ちょこちょこ僕に怯えた目を向けてくるもん。ニコっと笑みを返してみると、息を呑んでスピーチが一瞬途切れた。
なんか、コール村の恨みがあるはずなのに、あっさり姫に生殺与奪を任せて何も言わないのが怖いってことみたい。
僕としては、陛下のことは嫌いだし、姫を傷つけたことも許せないけど、生死含めて興味がないっていうのが正直なところ……。好き勝手できない立場にできたなら、それ以上のことはどっちでもいい。
と、陛下をじっと観察してるうちに。とうとう話は本題に入り――。
「以上のことを踏まえ。私はアトラス王国第十二代国王として、我が娘キルリエラ・アトラス第一王女に――――――政務全権代行官の役職を与えるものとする」
うん。事前の約束通り。
政務全権代行官なんてものはこれまでなく、今回のためにわざわざ新しく作った概念だけど。要は、陛下の代わりに政治の実権を握ることができるというもの。
この場の全員がそれを理解していて、王へ様々な感情を向けている。憐憫、嘲り、怒り。それらを受ける王は、もはやいち早くこの場を終わらせたいとだけ願っていることだろう。
だけど、今回の話はそれだけじゃなく。
「あわせて。国の重要な役職に就くキルリエラを公私ともに助ける役割として。――――アルベルト・トール上級宮廷魔術師に、代行官補佐の役職を与える」
その言葉に、周囲へざわめきが広がった。
僕と姫は一瞬視線を合わせて、陛下に向きなおる。そして、同時に言った。
「謹んで、お受けいたします――」
そうして。
僕は晴れて、この王宮に身を置いていいと権力の後ろ盾を得て。これでやっと本当に、陛下のクビ宣告から始まった騒乱は幕を閉じたのだ。
実はまだいろいろ問題が残ってて、例えば一部の騎士や魔術師の間で、なぜか僕が王国乗っ取りを企てる恋愛詐欺師だって噂が流れたりもしてるけど。
それでも、差し迫った問題はあらかた解決してるから、あとはじっくりやっていけばいい。
そう一安心して、隣の姫へ視線を向けると。
「これからは……ううん、これまでもこれからもずっと、補佐としてよろしくね、パパ。――またわたしのこと、たくさん褒めて、叱って……――?」
―――
これで一章完結です!
王を初めアルベルトの実力を知った者は、その才能に反する執着のなさを理解できず、「なんか得体の知れない化け物」みたいに見え……逆に実力を知らない者からしたら、姫の腰巾着で権力握ったクソ野郎に映るという。
前途多難なアルベルトですが、二章以降の活躍にもご期待ください。
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