第6話


 朝食は大事。

 トーストと牛乳なんて食べた方……そんな時代が私にもありました。

 冒険者なんて基本的に動き回る仕事なんだから、朝ちゃんと食べなくてどうするのか。

 ここで食い溜めなんてところにたどり着くのは愚か者ですよ。昔の俺ですよ。

 ドカ悔い気絶なんて言葉があるのに、動けなくなることに気づかないなんて……。あれ? ドカ悔いだっけ? ドカ食いだっけ?

 まあ大体同じか。

 あくまで動きを阻害しない……しかし満腹感を感じられる――その見極めが重要である。

 腹八分って偉大だよな……。おかげで早めにブレーキを踏める。

 九割ぐらいでセーブできてる。

「パンとサラダと鳥の照り焼き、それと……ゆで卵に水。で、こいつはオマケだ。間違いないかい? 確認したら清算ね。千六百」

「いつも通り、先払いの代金から引いておいてください」

「あいよ、毎度あり」

 宿屋のカウンターだ。

 食堂なんて付いていない宿屋だが、店主に頼んでおけば朝食を用意してもらえる。ウーバーかな? ウーバーだな。

 ただし朝食限定。

 理由は、宿泊客が朝か夜しか食べない――なんてことがザラだから。

 しかも夜の場合は買い食いや持ち込みが多いので、必然的に朝しかやらなくなったサービスだそうだ。

 利用している奴はボチボチ。

 カウンターの後ろに並ぶトレーに載った朝食の数的には……七割ってところ。

 受け取ったトレーは返却の必要があるため、基本的には借りている部屋で朝食を食べる。届けるなんてサービスは無い。来ない奴が悪い。

 二十ぐらい部屋数のある宿だが、その料金の高さから埋まっているのは半分ぐらいだ。

 そろそろ最古参入りしてもおかしくない古株です。なんてブルジョワ。しかしモテない。

 自室に戻り、鍵を掛けてから朝食を食べる。

 ありがたいことにオマケは果物。野菜並みの価値がある。太っ腹だな? 家賃の値上げでもするつもりか? 出て行かないからな!

 主にトイレが理由で。

 いやほんとに共用は頭おかしいよ。日本のコンビニでも見たことのある惨状ってのもおかしいよ。

 ちょっとした小箱のようだったパンの欠片で照り焼きのタレを拭いながら完食。ここが美味い。知らなかった事実。元の世界に帰ったとしてもやり続けよう。

 元はマンガが何かの知識だったけど、やってみると悪くなかったな。シチューに浸してパンを柔らかくするとかね。白パンだから元から柔らかいけど。

 こちらの世界において助かっているのが食事内容だろう。

 そんなに遜色ない。

 ……食材に気をつける必要はあるが。

「ふー……ごっそさーん」

 パンドラの箱を空けることなく朝食を終えた。

 さて……着替えるか。

 昨日の夜に外した装備を再び着けていく。

 頑丈で足の負担を軽減してくれる素材で作られた靴、店売りのショートソードを吊っている剣帯、軽くて丈夫と評判のシャツとズボン、滑り止め付き軍手っぽい手袋。

 あからさまな軽装。理由は体力。

 どう見ても最初に殺られそうな斥候ポジっぽい俺だが、ジョブで言うなら魔法使いになる。なんか間違ってんな異世界。


「いってらっしゃいませ、お帰りをお待ちしております」

 恵比寿顔な宿屋の店主に見送られながら宿屋を出た。なんで街で評判の看板娘とか居ないんだろうな、この宿。フラグが立たないだろ?

 だから未だに彼女がいないのも仕方ない……仕方ないんだ!

 すっかりと日が昇っているからか、通りには人が多い。

 しかし元の世界のとある駅中なんかに比べれば小川のようなものである。

 人の隙間を塗ってスイスイと進む。

 目的地は冒険者ギルドじゃない。

 外の世界へと通じる門の方だ。

 だってやることは変わらないわけで……わざわざギルドに行って依頼板を確認するなんて時間の無駄以外の何でもない。

 いつだってやることは変わらない。

 雑魚狩りだ!

 これがパーティーでも組んでいたら儲けが足りなくなるんだろうけど。

 ボッチだから頭割りなんて発生しない。

 これぞ独身貴族一人勝ちってやつだろう。フハハハハハハ! ハハハ……あれ? 雨でも降ってきたかな?

 そこまで大きな街でもないので、一時間も歩けば外門に到達する。

 簡単な審査で門を抜けている人の列へと並んだ。

 馬車にでも乗ってればまた厳重なチェックも受けるんだろうけど、毎日のように顔を合わせている冒険者連中なんて顔パスもいいところである。

 流れ作業のように排出されていく冒険者達。

 俺の番が来た。

「おー、また一人か? イキるのも大概にしとけよ。そのうち死んじまうぞ」

「余計なお世話だよ。早く仕事してくれ」

「むむ。反抗的な態度を確認。危険人物の可能性有り。ブラックリストに――」

「いやあ! さすがは門番様! 俺みたいな新人冒険者にもお優しい! 本当ならお酒の一本も差し入れたいところですが、誠実な門番様が職務中に受け取るわけがございません! であれば! 今度街中で出会った際には、是非とも一杯奢らせて頂きたく存じます!」

「お、おお。別にそこまで求めてないんだが……」

「なんだ違うのか。てっきり強請ゆすってんのかと思ったよ。違うならさっさと通せよ、気が利かねえな」

 君の先輩とかズブズブに賄賂集めてたからね?

「憎まれ口叩けるくらいなら大丈夫か……。でも早いとこ仲間は見つけとけよ?」

「……それが出来れば」

 ちくしょう! ファンタジーな世界でも俺を拒絶するのか?! 闇堕ちしちゃうぞ!

「……なんか悪かったな。通っていいぞ」

 なんだかんだと真面目な門番といつものやり取りをしつつ、外門を抜けた。

 意外なことに、綺麗に踏み固められている道と何処までも続いてそうな野原が目に飛び込んでくる。

 目的地の森は……残念ながら道を外れた先にあるので、この道を通ったことはない。

 地道な情報収集の成果で、何処に通じているのかは知っているんだが……。

 この先、この道を歩くことがあるんだろうか?

 それはまさに『神のみぞ知る』ってやつなんだろう。


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