元の世界へ帰るための十の方法

トール

第1話


 お、いたいた。

 割と見通しのいい森の浅層。

 密集している低い茂みの裏。

 影にはなっているが見えないわけではない昼日中。

 食事中らしい緑色の肌を持つ魔物が三匹……。

 ゴブリンだ。

 食事に夢中なのかこちらに気づく様子は無い。

 ガツガツと手掴みで腹を満たしている。

 三匹……三匹か。

 まあ、やってやれないことはないな。

 屈み込んで食事をしているゴブリン――そのうちの一匹に視線を固定する。

 イメージするのは風の刃だ。

 真っ直ぐ飛んでいく見えない刃……寸断されるゴブリンの首と胴体……よし、イケる。

 発動。

 魔力が使用される感覚と共に、イメージが現実に像を結ぶ。

 寸分の狂いなく実体化した風の刃が、イメージには無かった風切り音を響かせて――ゴブリンの首をハネた。

 急な襲撃に驚いて顔を上げる残り二匹のゴブリン。

「『ウインドブレイド』」

 呪文と共に再び放たれた風の刃が、更に一匹のゴブリンの首を半分に切り裂いた。

 ……やっぱり詠唱付きだと狙うのがムズいな。

 声を出したことで居場所がバレたのか、最後の一匹となったゴブリンと目が合う。

 地面に放ってあった木の枝……と呼ぶにはややデカい棍棒擬きを握り、こちらへと向かって走り始めるラストゴブリン。

 そこからじゃ遠くない?

 遠距離攻撃の利を活かして、こちらはしっかりと距離を空けさせてもらっている。

 まあ、逃げないなら逃げないで好都合だけど……。

 近づいてくる標的に、今度は狙いがズレないようにと集中する。

 既に居場所がバレているので、今度は手の平を相手へと向けて魔法の照準を定めた。

 すると、まだ棍棒の攻撃圏内になかったゴブリンが、どうやら魔法の発動を察知したのかアクションを起こしてくる。

 持っていた棍棒を、ブン投げたのだ。

 いや唯一の武器じゃないの?!

 ヒュンヒュンと危険な音を響かせながら回転しつつ近づいてくる棍棒だったが……残念ながら軌道が悪かった。

 放物線を描いていた棍棒は、俺が身を隠していた木から伸びる枝に当たって――粉砕した。

「おおう?!」

 結構な音と威力に一瞬だけ体を震わせる。

 それが狙いとばかりに足を速めるゴブリンだったが――それでも遅い。

「『ウインドブレイド』」

 ゴブリンに向けていた手の平から、三度になる風の刃が飛び出した。

 さすがに前二回の経験からか、こちらの呪文に合わせて防ぐか避けるかの動きへと移るゴブリンだったが……。

 近づいただけ威力も到達速度も異なるということを理解していなかったのか、足を緩めて腕を中途半端な所に上げるという変な対応でお亡くなりになった。

 ……いや、いいんだけどね?

 首を半分だけ切り裂くに留まったゴブリンも血溜まりに沈んでいることを確認して、しばらく周囲の反応を窺う。

 増援を横槍も……無し、だな。

「よし、これで大銅貨六枚。六千ウィル」

 念のためにポケットから冒険者カードを取り出して討伐欄を確認する。

 新たに『ゴブリン 三』と印された冒険者カードの裏を見て一息つく。

 今日初めての戦果だ。

「……もうちょっと稼いどきたいかなー」

 食事が三食で四千から五千ウィル、宿代が五千ウィルだから……まあ食べなければのラインではある。

 そもそも昼食を摂らずに森をウロウロしていたので昼食代は既に浮いていた。

 ――そのぶん夕食代が嵩ますからあんまり意味はないんだけど。

 なので出来ればもう一稼ぎ。

「うーん……鳥でも捕れればなあ」

 なんならゴブリンより鳥肉の方が儲かる。

 量より質的な話で、である。

 重たい獲物なら運ぶのは面倒だが、鳥ならその手間も無いし高価だ。いいよね、ちゃんとしたお肉。

 ……まあそれも見つかれば、の話だけど。

 ゴブリンが食べていた死骸――食べ散らかされた鹿の死骸を見つめる。

 …………いや、鹿は重たいから俺には無理だって、どっちにしろだったって……。

 未練がましくグロ映像を眺めていると、近くに落ちているゴブリンの死骸が黒い雪の塊のように変化し――ほどけ始めた。

 煙のように立ち昇り、空気に溶け込むように消えていく。

 まるで降る雪と逆転するかのような現象だ。

 その色も存在も。

 飛び散った紫色の血も、毒々しい上に臭う緑色の体も……まるで幻でも見ていたかのように、黒く解けては消えていく。

 残されたのは……確かにゴブリン達がいたであろう痛々しい食事の跡と、バラバラになった棍棒擬きだけだった。

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