3話 鉄の味とぼくの教室
ぼくは車の助手席に引っ張り込まれ。
彼女は何かをぶつぶつと唱えている
なんで
なんでよ
こいつが
こんなブスが
ブスが
殺してやる
ぼくはびっくりした
かやさんはもっとおっとりしてるイメージだったから
「あ あの」
え?
かやさんはぼくにナイフを振りかざした。
びっくりして咄嗟に腕で庇ったが
腕から鈍い熱が伝わる
痛い
痛い
腕がバッサリ切れていた
「な なんで 、! 何でこんなこと!!
痛い、、痛い 酷いよ、、 なんで、!」
「それは、、あんたが、!! 私から、
好きな人を取ったから!!!
なのに アンタは ぜんっっぜん気づきもしない!!!!
お前みたいなブスがモテるなんて、、
私は、、私は許せない!!」
そう言いながらかやはセータの口にナイフを突っ込んだ。
「あ がっ、 やえれ … いあ゛い」
セータは恐怖と痛みで気を失いそうになった
(この女 大人げねーな 大学生が中学生に嫉妬って笑 しょーもな)
彼がひさびさに話しかけて来たが
ぼくはそれどころじゃなかった
口の中が血で染まっていく
切られた傷をまたナイフで抉られて
自然と涙が流れてくる。
腕で抵抗するが 痛くて上手く力が入らない
ぼくは思いっきり足を暴れさせた。
「い゛」
顔を足で殴ったけど仕方なかった
すぐさまドアを開け
外へ出た
ねえ
(、、、)
ねぇってば
(、、、)
君だよ!!!!!!
ぼくは走りながら彼を探した。
そして願った。
ねえ しりとりしようよ。
彼の息を呑む音が聞こえる、
(無理だ お前が願ってることは起きない かやは消せない)
、、なんで なんでだよ
いっつも消してるじゃん 消してるじゃん!
(消してない!!!!)
(お前が消えてると思ってるだけだ!!)
え?
嘘だ
「なんで、、なんで、、、なんで、?」
お母さん
ぼくは泣いていた
どけに走ればいいかも分からず
目の前にある道を
追いつかれないよう 走り続けた。
「遅いねぇ あの子、」
習字の先生が一言呟いた
普段はほとんど寝ているゆずばあさん
珍しく深刻そうな顔で入り口のドアを見ている。
かくいうオレもどこか気が気でなかった
まだセータが習字教室に来ていない。
「どっかで道草くってるんじゃね」
前の席の河井が筆を置いてこちらを向いた
「いやそれはねえよ、セータに限って」
アイツはムスッとして1人で居たがるくせに
集団行動でのルールを破ることはない
時間を決められたら
必ずその時間に来る。
今までずっとそうだったんだ。
「そーいやさ かやさんは?」
河井が自分の隣を見た
「かやは遅れると連絡が入ってる」
「ふーん 」
「あのオレちょっと探してきます
アイツこっちには来てるだろうし」
カツキは書きかけの筆を置いて立ち上がった
「ワタシも行こうか? 暗いと危なくない?」
一緒に習ってるおばちゃんが話しかけて来た。
いや 口には出さないが皆心配しるんだ
この時間帯の教室は仕事終わりの社会人が多いし
一番年下でそれもまだ中学生のセータを可愛がっている。
なにより数年前にセータと同い年の中学生が
事故にあって死亡する事態が起こった。
母親が迎えに来ない時に備えて遅くまで残る人もいる
オレもその内に入ってるっぽいけど
「大丈夫 、!、いや、、です 。
ちょっと外見てくるだけなんで」
そうだ敬語、敬語 。
教室に来たばかりの頃は 基本タメ口だったが
色んなことがありゆずさんに叩き込まれた。
「カツキ アンタ次はもうちょい作り笑いを
上達させたほうがいいね」
「へ?」
「まぁいい お前たちはいつも通りやる事やってな
外は私が見てくる」
そう言った後のゆずさんは早かった
いつも寝てばっかりなのに
「なぁ カツキ」
「は?」
河井が半笑いだったから は?って言った
「お前って意外と臆病?」
「はあ??」
急にバカにされたんだが
ぼくは走った
途中山の急斜面を思いっきり3回ほど転げたけど
そのおかげであの人から逃げ切れた。
山を降りた後も
見たことある目印を頼りに
とりあえず習字教室のほうが近かったから
その場所まで走った。
もうすぐだ
寒いね
ゆずばあは静かに息を吐いた
田んぼまみれで街灯もろくにない
真っ暗だ
あの子
セータいや
アオバは無事だろうか
「考えすぎならいんだけどね」
ゆずばあが楽観視できない理由は過去にある
何年も前 あの子と似たように
辺りが暗くなってから教室に来る子がいた
だけどある日からその子は来なくなった
帰る途中で行方不明になったのだ。
後日
その子の遺体は山道の外れで見つかった。
轢き逃げにあいそのまま亡くなったらしい
誰にも気づかれることなく。
それ以降年恰好関係なく
行きも帰りも用心しろと言いつけている。
「?」
その子は私の背後から現れた
「どっ、、、血だらけじゃないかい!!」
「ゆずばあっ、、ぼく、、!ごめ、なさ」
「何で私に謝るんだい、、!?」
痛いだろうに、、、。
バッサリ切れた腕で縋り付いてくる
どんな恐い思いをしたんだい?
大丈夫
大丈夫だよ。
私の目から涙が流れた
目が覚めた なんで私は家に居ないの?
「お兄ちゃん?」
「ここどこ?」
真っ白な部屋で 点滴がぶら下がっている
足が痛い 包帯が巻かれている。
「お兄ちゃん?」
「お母さん、?」
「お父、、さん」
みんなぁ? 怖いよ 誰か
誰か、、、
私は泣き出していた。
看護師さんが来た
みんなまだ起きてこないらしい
みんなが起きてくるまで
私は家族を お兄ちゃんを呼び続けた
「ねえ正太 しりとりしよ」
いつしか私の声は
彼に届くようになっていた。
ねえねえ 暇なんだけど おーい
(じゃあ しりとりするか)
出た。
(か、、か カマキリ)
「き キツネ」
(ねんぐ)
年貢?
難しい言葉 知ってるんだね。
私は彼と気が済むまで話した
気が済むまでしりとりした
しばらくしたら
足が治って 外に出れるようになって
看護師さんが来て
お父さんが死んじゃったこと
お兄ちゃんが死んじゃったこと
お母さんが起きたこと。
ゆっくり話してもらった
頭がぐちゃぐちゃになったけど
お母さんならどうにかしてくれると思って
お母さんに会いに行った。
「セータ? あなたがセータ?」
え?
お母さん私のこと
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