ねぇ、エレーディア。

祭煙禍 薬

ねぇ、エレーディア

 ――エレーディア、ねえ、エレーディア。貴方の目はどうやったら覚めるのかしら。


 今日も白霧の森に訪れる、私のエレーディアに会うために。


「ねぇ、エレーディア。そろそろ起きてよね。」




 エレーディアはもうずっと眠っている。白霧の森の濃霧の中、水晶花の結晶に横たわって安らかに、眠っている。


 きっと、それは、この忌々しい白い霧のせいだ。


 私がこの森に遊ぼうといった。私がエレーディアを、エレーディアを眠りにつかせてしまった。



 ――「ねぇ、エレーディア。今度会う時は、きっと目覚めさせて見せるから待っていてね」



 ――「ねぇ、エレーディア。この白霧の呪いは魔王軍に関係しているそうよ。私頑張るわ、きっとあなたを眠りから解き放つの!」



 ――「ねぇ、エレーディア。もしかしたらこの白霧の呪いは魔法の一種かもしれないの!これできっと貴方の目が覚めるわ。」



 ――「ねぇ、エレーディア。もしかしたら人間の科学が白霧の呪いを生み出したのかもしれないわ。私、科学を学んでくるわ――。」



 ――「ねぇ、エレーディア。エレーディア?」






 何時の年の事だろうか、その年はよく過悪夢キリニアを見た。



 ――「そなたは強い、だが何ゆえにそれほど哀しく、強さを求める?」目の前の魔王に返り血を浴びた私が言われる夢。



 ――「貴方様の魔法技術は素晴らしく、私たちの師として尽くしてくれた。それなのに、何故このようなことをなさるのですか!?」確か、一番弟子だった子に言われながら、その子が消えていく夢。



 ――「毒、毒、猛毒、何故危険な物ばかり研究する。それほどの腕があれば、世界を救う事だって夢じゃないはずだ。」師匠が私をののしる夢。



 ――「ねえ、□□。ごめんね、私知らなかったの!」と、幼い私が泣き叫ぶ夢。






「ねぇ、エレーディア。そろそろ起きてよね。」



「ねぇ、エレーディア。もう、私には尽くせそうな手が無いの、

 白霧は魔族でも、魔法でも、科学でもなかったの。」



 この森を燃やせば、呪いは解けるだろうか。


 ううん、きっと違うわ。そうしようとしたことはあったけど、この森は燃えなかった。燃やせなかった。

 

 それにこの白霧を下手に取り除くと貴方が死んでしまう気がするの。


 エレーディアの姿はずっと変わっていない。それはきっとこの忌々しい白霧が貴方を留めてくれているからなのね。


 ねえ、愛しい人エレーディア。もう私は、貴方の名前すら忘れてしまったのよ。


 それでも、貴方の目が覚めてほしいと願うのかしらね。私もこの霧に飲まれてしまえば楽になるのかしら。


 今日もまた白い濃霧が視界を柔らかく遮っていた。


 ねぇ、エレーディア。白い霧呪いを生み出していたのは私自身だったのね。

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