第三章 第一話 放課後のふたつの世界
群れをなして歩く生徒たちは、まるで放たれた鳥の群れのように、思い思いの方向へと
その流れの中、
「……ふう。」
小さく息をついたその声音は、まるで、一日の戦いをようやく終えた
「今日も……なんとか、終わったね。」
そして勇気を振り絞るように、惠美へと顔を向ける。
「惠美、こんなに久しぶりに学校来て……大丈夫?」
惠美はまっすぐな
その歩みには迷いがなく、まるで
「
短く放たれたその言葉に、彩音は思わず立ち止まる。
「……届かぬって、なにそれ。」
笑うような声を出しながらも、彼女の胸にはわずかな不安が広がっていた。
惠美の視線は夕焼けの
「むしろ……
「え、面白い?」
彩音はぽかんと口を開ける。
どうして、あの
惠美は小さく頷き、柔らかな声で続けた。
「
そして
その
彩音はただ
「……じ、
けれど、不思議とその声音は耳に
「惠美……なんか今日、やっぱ変だよ。」
惠美は横顔のまま、ゆるやかに笑う。
「変か? ふふ……そうかもしれぬな。」
その笑みは、どこか
一つは細く、かすかに揺れ。もう一つは
彼女たちは同じ道を歩いていた。
けれど、その心が向かう先は、まるで違う世界。
一人は日常にしがみつき、もう一人はその日常を「
彩音は唇を噛みしめ、鞄の
「……ねえ、惠美――」
声をかけようとしたその瞬間、胸の奥がひどくざわめいた。
――もし、今声を掛けたら。
彼女はもっと遠くへ行ってしまう気がした。
そのとき。
惠美がふと立ち止まり、振り返る。
柔らかな
「……また明日。」
彩音は
「う、うん! また明日!」
そして気づく。
目の前の分かれ道――自分の家は左、惠美の家は右。
歩き出しかけた恵美が、ふと足を止める。
その瞳には、揺るぎない
「明日も――必ず、来る。」
その声は穏やかだったが、まるで
彩音は小さく息を呑み、遠ざかる背を見つめた。
その姿は光の中に溶けていく。
「……隣にいるのに。なんでだろ。どんどん、もう私の届かないところに行っちゃいそう。」
風が吹き抜け、二人の影を一瞬だけ重ね、そしてまた――別々の方向へと引き離していった。
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