Bonkers Jag City ー近未来 都市伝説捜査FILEー

遠藤みりん

Bonkers Jag City ー近未来 都市伝説捜査FILEー

プロローグ

新東京の眺め

 俺は警察署の窓から、町の景色を眺めていた。灰色の強化プラスチックで作られた道路、ビル、人々が暮らす家。熱を持たない電灯が発する明かりに照らされ、不気味に映し出される町の景色。

 空を見上げると、かつて地上を走っていた車の代わりである、飛行機能の着いた鉄の塊である飛行車が飛んでいる。


 全てが灰色で覆われ、味気なく冷たい・・・・・・ここは〝新東京〟この国で一番栄えている町だ。


 西暦2XXX年 進化したテクノロジーにより、人類は完全に管理される世の中になった。全ての人間へ番号を割り振られ、職業歴や犯罪歴により点数を付けられる。

 建物は安全性を理由に、指定された強化プラスチックを使用する事が義務付けられ、治安維持の観点から全て灰色で統一された。

 

 人々は管理され監視される、窮屈な生活を強いられる事になる・・・・・・


 それにより犯罪は大幅に減ったが、その管理の目をくぐり抜けた人間が起こす奇妙な事件が近年問題視されている。軽犯罪から重大な犯罪まで内容は様々だ。


 奇妙な事件と言うには理由がある・・・・・・


 事件の内容がかつて、この国で流行したと言われている〝都市伝説〟または〝オカルト〟になぞられて引き起こされている点だ。

 

 海外メディアからこの状況に置かれたこの町、新東京へ付けられた名称がある。


〝Bonkers jag city〟


 Bonkers・・・・・・狂気の


 jag・・・・・・耳障りな


 city・・・・・・町


 訳すると狂気的で耳障りな町と言う事だ。管理された社会に相反するように狂った事件が起こる、この狂った町を言い表すにはぴったりの言葉だ。


「いつ見ても、不気味な町だ・・・・・・」


 灰色で覆われた町。行きすぎた環境破壊から青空を失った曇り空を眺めて、俺は思わず独り言を呟いた。


 自己紹介が遅れてしまった。俺は大槻栄六えいろく、うだつの上がらない、出世の道からは大きく遠のいてしまった夢も希望も無い、中年の刑事だ。


 トレードマークはパーマをかけた様なこだわりの長い髪。安い給料で働かされ、安い酒に溺れる・・・・・・この救いようの無い状況をなんとしてでも変えたい。


 この不気味な町では、付けられた点数だけが全てだ。大きな事件を解決し、点数を荒稼ぎする。外れてしまった出世の道をどうにか取り戻さないといけない。


 今、この町では行方不明事件が多発している・・・・・・行方不明者は日に日に増え続け、もう警察は管理出来ない程だ。


 俺にはこれは大きなチャンスに思えた。この事件を解決に導き、出世への踏み台へ変える。

 付けられた点数が上がれば、警察署内の評価も上がる事になる。安い給料で使われるのも、安い酒ともお別れだ。


 広い家、良い女、良い酒・・・・・・理想はどこまでも広がるばかりだ。


 町の景色を見ながら出世をした自分の妄想に浸っていると、背後から声を掛けられる。


「おい、大槻、聞こえないのか?・・・・・・大槻!」


 妄想の世界に浸っていた俺を、聞き慣れた声が引き戻した。振り向くとそこには、直属の上司である湯田部長が立っていた。


「やっと、気が付いたか・・・・・・何をニヤニヤしているんだ、気持ち悪い。それにその長い髪を切れ!」


 長い髪は俺の魂、けして切るものか・・・・・・


 どうやら、妄想しながらニヤけていたようだ。俺のいつもの悪い癖だ。


 この湯田部長、口も悪ければ性格も悪い。それにこのオールバックで決めた髪から香る整髪料の匂いも重なりイライラしてくる。


 更に嫌な所は恩着せがましい所だ。昔に湯田部長から貰った万年筆を事あるごとにちゃんと使ってるか確認してくる。その為、貰った万年筆をいつもポケットへ入れとかないといけない。


 そんな面倒で器の小さな変わり者の上司である・・・・・・

 

 しかし、もっとイライラするのはうだつの上がらない自分自身だ。早く、この行方不明事件を解決させ点数を荒稼ぎする。 


 広い家、良い女、良い酒・・・・・・


「おい、大槻。またニヤニヤしているぞ!気持ち悪い」


 はっ・・・・・・また妄想の世界に入り込んでしまった。俺は襟を正し、顔と声を作り、返事をする。


「どうしました湯田部長。俺は行方不明事件の捜査に忙しいんです!今でも被害者が出ているのかもしれない。邪魔しないでください」


 急に顔と声を作った俺を、湯田部長は怪訝な顔で見ている。まるで害虫でも見るような目だ・・・・・・


 かつてコンプライアンス違反が囁かれ始めた時代はとうに過ぎ、今や表情一つでもハラスメントに当たるというのに、全くこの部長ときたら・・・・・・湯田部長は怪訝な顔のまま話しを進める。


「行方不明の捜査?誰かに頼まれたのか?」


「湯田部長、社会人たるもの主体性が大事なんです。誰かに言われて動いていたら遅いんですよ。早くこの行方不明事件を解決させ、点数を荒稼ぎするんです!広い家、良い女、良い酒・・・・・・」


 また、妄想が俺を支配する・・・・・・


「おい!大槻!聞いてるのか?全く気持ち悪い・・・・・・」


 はっ・・・・・・また妄想の世界に入り込んでしまった。顔はニヤけているのは自分でも分かった。また急いで顔を作る。


「大槻、君の任務は行方不明事件では無い。なぜ勝手に自分の仕事を決めるんだ!俺たちはサラリーマンだ。組織の方針に沿って仕事を進める。だからお前は、いつまでもうだつが上がらない刑事なんだよ!」


 言葉の銃弾が乱射される。湯田部長にはコンプライアンスの講習を受け直してもらった方が良さそうだ・・・・・・


「湯田部長、じゃあ俺は一体何を捜査するんですか!?」


 湯田部長は手元の小型タブレットを操作すると、ホログラムの画面が浮き上がった。現代の刑事は手帳なんて持ち歩かない。この小型タブレットに全ての情報は入っている。インターネットに繋いであり、調べものや署内の情報にもすぐにアクセス出来るようになっている。


 さらに持ち主の脳とも直接繋がれており、意識や思考までこのタブレットにはリンクされる事となり、現代では欠かせないアイテムだ。


「大槻に取りかかって欲しい捜査はこれだ・・・・・・」


 浮かび上がったホログラムの資料を読む。そこには近頃多発する、かつて都市伝説と呼ばれた話しをなぞった事件がいくつもまとめられていた。


 口裂け女、こっくりさん、UFOにツチノコ・・・・・・俺は目眩がしてくる。腐っても俺は刑事だ。こんな茶番に付き合っている暇は無い。


「湯田部長、勘弁して下さい。ほとんどが軽犯罪じゃないですか!俺は行方不明者事件を捜査します!こんな事件は下っ端の奴に捜査させて下さいよ!」


 俺は湯田部長に詰め寄る。相変わらず害虫でも見るような目だ。直々にこの俺がコンプライアンスと言う概念を叩きこんでやろうか?湯田部長はそのまま話しを続ける。


「そう・・・・・・君がその下っ端の奴だ、大槻・・・・・・」


 俺は言葉を失った。そうか・・・・・・俺が下っ端か、そうだよな。何一つ、事件も解決出来ない。町を見下ろしてはニヤニヤしている。与えられた席も徐々に追い詰められ、ついには窓際にぴったりと机が配置されている。


 そう・・・・・・それはもうぴったりと。

 

 俺はダメ人間・・・・・・俺はダメ人間・・・・・・俺はダメ人間・・・・・・


「おい!大槻!聞こえないのか!?」


 湯田部長の声に我に帰る、また自分の世界に入り込んでしまったようだ。


「これも立派な事件だ。それに近年、この都市伝説をなぞった事件も軽犯罪では済まなくなっている。少しでも解決すれば署内の評価も確実に上がる!下っ端のうだつが上がらないダメ刑事から抜け出すチャンスだ!頑張れ!大槻!」


 湯田部長は俺に活を入れる。下っ端のうだつが上がらないダメ刑事・・・・・・この言葉が頭の中でぐるぐると回り出した。

 しかし、湯田部長の話しももっともだ。この都市伝説をなぞった事件も、増え続けている。しらみつぶしに数を上げれば、出世には確実に近づく。

 

「分かりましたよ湯田部長・・・・・・この事件、全て解決してやりましょう!」


 湯田部長は笑顔を浮かべる。しかし目の奥で害虫のように俺を見ている事はひしひしと伝わってきた。


「その息だ大槻!それに、捜査に協力な助っ人を用意した。おぉーい!出てきてくれ」


 湯田部長は声を上げる。すると、背後の扉から黒いスーツ姿の女性が入ってきた。窓際にある、俺の席まで歩いてくるとぺこりと頭を下げた。


「彼女は政府が秘密裏に制作していたアンドロイドだ。正確には捜査補助型アンドロイド タイプ5号・・・・・・制作者からの略称は〝A子〟だ。Androidの〝A〟と5号からの〝子〟でA子。大槻の捜査はこのアンドロイドと行ってもらう。まだ試作の段階だがきっと力になるだろう」


 高身長に大きな瞳、ボブカットのヘアスタイル。表情は無いが、一見本物の人間だ。政府は陰でこんな開発をしていたのかと内心驚いた。

 しかし、何故に試作段階のアンドロイドを俺に使わせるのだろう?きっと俺が期待されているからに違いない。湯田部長に聞いてみた。


「湯田部長、何故、試作段階の重要なアンドロイドを俺に使わせるんですか?もっと適任がいるでしょう?俺が期待されているからですか!?」


 湯田部長は間を置いて、重たい口を開いた・・・・・・


「実はな、この都市伝説をなぞった事件は軽犯罪だけでは無く、人命が失われている危険な事件も含まれているんだ。これを大槻だけに任せるのは荷が重いと俺は考えた」


 そうか、湯田部長の優しさだったのか。結構、良い所もあるじゃないか・・・・・・湯田部長は続けて話し出す。


「しかし、署内の刑事を探してみても誰も大槻と組みたがる奴がいないんだ。おまえはかなり嫌われているな。苦肉の策として、この試作のアンドロイドに同行してもらう事となった」


 嫌われている・・・・・・俺は耳を疑った。確かに誰も俺に話しかけてはこない。それどころか目さえ合わせてもくれない。

 そうか、俺は真実から目を背けていたがやっぱり嫌われていたのか。

 湯田部長には気付かれない様にそっと涙を拭った。


「それにな・・・・・・言いにくいんだが、このアンドロイドは試作品だ、まだ発見されていない不具合が多々あると思われる。それによって他の刑事が怪我をしたら大変だ!今、人手不足で人材を確保するのも苦しい!そこでだ・・・・・・」


 俺はここまで話しを聞いて耳を塞ぐ準備をした。とても現実を受け入れる気にはなれない。しかし、耳を塞ぐより早く湯田部長は話し始めた。


「いつ、署内から居なくなって問題の無い大槻が選ばれたわけだ!良かったな!」


 良かったな?・・・・・・これは良い話しなのだろうか?現状を受け止められず、脳の機能は完全に止まってしまった。署内から居なくなっても問題が無い・・・・・・いや、そんなはずは無い。


「大丈夫、大丈夫、大丈夫・・・・・・大丈夫だよねぇ?」


 自分を守る為に、俺はしきりに同じ事を繰り返していた。意識はまたも自分の中に閉じこもってしまい。現実に戻ろうとする事を拒んだ。


「おい!大槻、聞こえているのか!?」


 湯田部長の声を聞き、我に変える。また妄想の世界に足をふみこんでしまっていたらしい。


「湯田部長・・・・・・あんまりです。危険なアンドロイドを同行させるなんて。そんなに俺が嫌いですか?」


 俺は涙を堪えながら、湯田部長を見つめた。すると俺の肩を組み囁いた。


「そう言うな、大槻・・・・・・ここだけの話し、警視総監がこの試作のアンドロイドに力を入れていてな。もし、このA子を使いこなし、この都市伝説をなぞった事件を解決していけば、必ず出世の道は開かれる。必ずだ!」


 湯田部長は俺の肩を抱き、出世の道を力説した。警視総監に認められれば、確かに評価に繋がる。出世をし点数を荒稼ぎする。


「分かりましたよ湯田部長、必ずこの俺が、このアンドロイドとともに数々の難問を解決してやりますよ!そして・・・・・・」


 広い家、良い女、良い酒・・・・・・広い家、良い女、良い酒・・・・・・広い家、良い女、良い酒・・・・・・


 またも繰り出される妄想の世界に入り込んでいると、冷たい視線を感じた。熱を持たない視線、その先にはアンドロイドのA子が俺を眺めていた。視線に気が付き、現実に戻る。アンドロイドのA子はツカツカと足音を立てて、俺の前に立つと話し始めた。


「初めまして、大槻刑事。捜査補助型アンドロイド タイプ5号 A子です。よろしくお願いします」


 無機質な表情と声色で俺に話し掛けてくる。スラリと伸びた手足、まるでモデルの様な風貌だ。


「大槻栄六だ。よろしくな!」


 俺はA子に右手を差し出し握手を求めた。A子は握手には応じず、目を開いて、なにやらブツブツと呟いている。俺は耳を近づけ言葉を聞いてみる。


「スキャン中、スキャン中、スキャン中、スキャン中・・・・・・終了」


 A子は目を開けると、俺を眺めながら急に話し始める。


「今、大槻刑事のスキャンが完了しました。運動能力・・・・・・三 知能指数・・・・・・二 社会的評価・・・・・・一 総合評価としてレベル二のFランクとなります」


 俺はA子の話す内容が頭に入ってこなかった。運動能力・・・・・・三 知能指数・・・・・・二 社会的評価・・・・・・一 これは、三段階評価なのかな?

 そうか、このアンドロイド、故障しているんだ・・・・・・そうに違いない。試作だから仕方ない。全く、照井部長も人が悪いなぁ・・・・・・一応、確認しておこう。


「あの、それは三段階評価なんだよね?」


 アンドロイドのA子は表情を変えずに答える。


「いえ、十段階評価です」


 俺は湯田部長へ駆け寄った。


「湯田部長!このアンドロイド、故障してますよ!どうにかして下さい!いくらなんでもこんなに評価が低い訳がないですよ!」


 湯田部長は手元のタブレットを眺めていた。なにやら確認を済ませると、顔を上げ口を開いた。


「このタブレットで署内のデータと照合してみたんだがな。運動能力・・・・・・三 知能指数・・・・・・二 社会的評価・・・・・・一 総合評価としてレベル二のFランク・・・・・・まさに、A子の言う通りだ。さすが最新型アンドロイド」


「そんな・・・・・・」


「まぁ、初対面で失礼な態度になってしまったが、このA子は、さっき言った通りまだ試作段階だ!署内と繋がっており、常にアップデートされ、徐々に人間に近づいてくる。だから安心してくれ!大槻、頼んだぞ!」


 アンドロイドのA子は相変わらず、無表情のまま。こちらを見ていた。俺は不安に包まる。


「大丈夫、大丈夫、大丈夫・・・・・・大丈夫だよねぇ?」


 俺は何度も呟いた。こうして、アンドロイドのA子との捜査は始まった・・・・・・











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2026年1月2日 10:00
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