第17話
「どうした?もう終わったのか?」
近くに戻ってきた優香に問いかける。
「ああ、違和感を持ってな。意見を聞きたいって思ってな」
「へー、どんな違和感?剣が重くなったとか?」
「いや、その反対、軽く感じるんだよ……。いい感じの負荷だったのに、今振ったら軽いんだ」
「ステータスの変化は確認したか?」
レベルが上がっていることでステータスが上昇している可能性だ。
「ステータス」
優香がステータスを開く。
「確かに、レベルが上がってるな……」
「いくつ?」
「3」
「一緒かー」
(今日の朝と、さっきとで違いを実感したからか?)
「まあ、筋力が上がったことはいいことでしょ?」
「そうだな」
「筋力が上がったのなら、スライムに石を当てられるんじゃないか?」
その言葉でハッと気がつき、近くにいるスライムを探し出す。そして見つけた瞬間、近くにあった石を持ち、投擲する。だが、スライムの横を通過するだけで、命中しない。
(相変わらず、命中率終わっているな……)
結局、石をスライムに投げたところで当たらない。投擲が力強くなっただけだ。
(あの威力でこっちに飛んでこない分まだマシか)
「そろそろ行くか」
そう言いながら悠馬は川につけていた足を持ち上げる。
「どこへ?」
「猪狩り。あの程度の肉じゃ足りないだろ?」
「……確かに足りなさそう」
「あとは寝床かな。どこで寝る?」
「水辺から少し離れたところかな?今、ゆうちゃんが石を投げているところ」
「ウオォォォ!」
と雄叫びを上げながらゆっくり近寄ってくるスライムに石を投げつけることを繰り返している。だが、どれも当たっていない。
「あ、」
やっと、投げた石がスライムに命中する。だが、スライムは死なない。
再び石を投げつけ始める。
「あの辺りか。とりあえず、猪狩りに行くから準備しておけよ」
「はーい」
「ウィンドボール」
優香が投げる石を弾きながら、魔法は飛んでいく。そしてスライムを倒す。
「猪狩りに行くから、無駄な体力を使うな」
「猪かー。肉は必要か?」
肉はドロップしていただろうと言わんばかりだ。
「……あの量で足りると思うか?」
そう言いながら手に入った少量の肉を指差す。
「……足りないな」
「だから、取りに行く。その前に寝床を作るから、周囲の草を切ってくれ」
「了解」
そう言ってすぐに、優香は草刈りを開始する。そして、現れたスライムは悠馬と美緒の二人で倒していくのだった。
草刈りが終わり、魔法で地面を削っていく。そして、円状の太ももあたりの深さを持つ溝を作り、寝床の準備が終わる。
「ここに帰ってくる感じね」
「迷わないか?」
「一体だけだから、そんなに離れないと思う」
(ついでにレベルアップした魔法がどれほど有効なのかも確認できればいいな)
そんなことを考えつつ、猪を探す。
「あそこいた」
美緒が小さな声で教え、指差す。
それを聞いた瞬間、優香は立ち上がり、足元にある石を拾う。そして全力で石を投げつけるのだった。
「おい!待てっ!」
最初のように自分たちが戦うことができるようなフィールドを作り出すことはできていない。フィールドができてから安全に戦おうと考えていたにも関わらず、これだ。
「ブモッ!」
外れると予測された石は、猪の体に命中し軽く吹き飛ばす。
「……こわっ」
なんという威力を持っているんだ……。
「他の人が戦っている時には投擲しないでくれよ」
泥の鎧をまとった猪でさえ、ダメージをくらい少しよろけてしまう。鎧すらつけていない生身の人間なら、死んでしまう危険さえある。
「そんなことは後にして!猪が来るよ!」
「ウィンドカッター」
悠馬が作り出した魔法が草を刈り取りながら、猪に向かっていく。スピードが落ちることはなく、スパスパと草を刈り取っていく。
そして、猪に当たると足に傷をつけるのだった。
(足が切れるのを想像していたんだけどな……)
足を切り取るには、まだ威力が足りていないようだ。だが、足に当たったことで猪の突進するスピードは減速する。
「ライトバレット」
その突撃をしてくる猪の顔に光の弾丸が直撃する。それだけでは終わらない。命中した瞬間、爆発を起こすことで周囲の泥を粉砕し落とす。
「ブゴッ!」
猪は目を瞑り突進を行う。視界を奪われた突進は単調で、回避は容易だ。猪は減速し立ち止まる。
美緒の魔法が当たった時に泥のかけらが目に入ったのか、顔を左右に振り、泥を落とそうとする。
「尻を狙うか?」
「いや、魔力がもったいない。頭を狙う!」
「了解!」
視界を取り戻したのか、猪が再びこちらに向き、後ろ足で地面を蹴りつける。舞い上がる土煙を置き去りに、再び突進を行ってくるのだった。
「ライトバレット」
美緒が放つ魔法が、鎧を失った猪の頭部に当たる。爆発により皮膚が剥がれ落ち、たらりと血が垂れる。
「ウィンドカッター」
悠馬が放ったウィンドカッターは、先ほどの傷に正確にあたりえぐり込む。深い傷が頭部にでき、さらに出血は多くなる。だが、猪は止まらない。
「優香避けろ!」
悠馬がそう声をかけるが、優香は止まらず反対に近寄っていく。猪と接触する直前、優香は剣を突き出した。剣は肉を割き、骨にぶつかる。
美緒と悠馬が作り出した傷に、その剣は突き刺さる。踏ん張る足が地面を抉り、優香は剣を押し込む。剣はより奥へと刺さっていき、脳天に達した。猪は動きをピクッと体を痙攣させたのち、ドロップへと変わるのだった。
「よし!」
「いやよしじゃなくて!普通に危ないわ!」
優香の反応に対し、悠馬はツッコミを入れた。
勝てたからよかったものの殺されていた可能性もある。たまたま牙の短い個体だったことで、攻撃を受けなかっただけだ。もし、長い牙を持っていたならば、体は貫かれ死んでいただろう。
「死を恐れないのはいいけど。程々にしろよ。まあ、殺すのが早くなったから助かった」
優香に釘を刺しつつ、感謝を述べる。
「おう!」
ドロップとして手に入った猪の肉を手に取り、眠るために作っていた場所へと移動する。
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