第7話 西門の地底書庫と毛なしゲート
ギルドの通達を二度見してから三度目でため息をついた。
【王都西門外“地底書庫”モフ毛禁持込令】
*違反:罰金/閲覧停止/くしゃみ増加の社会的制裁
「最後の制裁だけ実害っぽい」と俺。
「鼻は正義」とユキチ。
フウコが風鈴を反響しない音で鳴らす。「毛、敵じゃない。流し方の問題だよ」
シルヴィオは今日も名刺を更新。監査官/クリーン動線監督(臨時)/無毛境界管理 室長(代理)。
「“無毛”って言い方やめて!」
「法令名そのままだ」
西門・地底書庫入口
西門の石壁に半地下の鉄扉。脇には白いゲートが立っていた。
【毛検(もうけん)ゲート】
・通過前にコロコロ
・くしゃみが出たら引き返す
・撫では外で済ませて
「撫でまで規制対象に!?」
「現場は切実」とシルヴィオ。
受付には、三角キャップの女性――清掃監督ミオ。
「モフ課さんですね。好き嫌いじゃなく粉塵基準の問題なんです。最近“魔導カード”の劣化が早くて」
「魔導カード?」
「頁の代わりに魔法式を刻んだ薄片。静電気と毛が式を乱すことがある」
ユキチがこくり。「冷やせば安定。風も帯で引くと乱れない」
フウコが手を上げる。「風路設計、やるよ」
俺はゲートの足元を覗き込んだ。
「ここ、“毛の逃げ道”がない。吸い込み一方だ。だから人にへばりつく」
「なるほど。“太く低く出口つき”がいつもの正解」とフウコ。
カルカが鼻をひくひく。「“毛と埃の気持ち:外で遊びたい。中は退屈”」
「じゃあ外で遊び場を作って、そこで回収だ」
段取り:三段クリーン動線
• 【外】モフ場(仮)を作って、毛と埃に楽しい出口を用意(回収・圧縮)。
• 【ゲート】風の帯で“下→横→上”の三層エアシャワー。
• 【中】静電気オフ+**紙路(しろ)**を確保(魔導カードの動線)。
シルヴィオがすっと書類。
「G-もふ請負11:地底書庫クリーン動線設計。報酬は清掃局精算。齧るなリストは今回は“触るなカード台帳”に置換」
ミオ監督が頷く。「お願いします」
「契約枠はリセットで3/3。今日は清浄系と繋ぐ」
ミオが教えてくれた。「入口の白粉(びゃくふん)に意思があります。“清め粉”の精霊シイロ。それと、廊下の角を守る紙路(しろ)の小守サダ」
〈契約1〉清め粉の精霊・シイロ(10秒)
石桶の白粉がさわ、と形を変え、目玉みたいな窪みができた。
『まっしろ、すき。よごれ、きらい。でも流れるよごれは許せる』
「“留めずに流す”がここでも基本」
俺は粉の表面を撫でる。粉って撫でるの難しいけど、指で円を描き続けると面が“落ち着く”。
10、9、8…
「君は“楽しい回収”の主役。外で毛遊びを作る。君は印をつけて、集まった毛を喜んで飲み込む」
7、6、5…
『たのしい回収……ころころ……ごくごく……いい』
4、3、2、1――契約成立!
【リンク更新】
新規:シイロ(清め粉)――粉結界/楽しい回収印/吸着強化
副作用:白い手形が服に残りがち(すぐ落ちる)
「手形、犯人扱いされない?」
「清廉の証」とミオ。
〈契約2〉紙路の小守・サダ(10秒)
廊下の角、薄紙を重ねたような“角守り”がぴくり。
『人は角で曲がり、紙も角で曲がる。角は偉い。守らねば』
「角のプライド高い!」
10、9、8…(角の縁を撫でる)
「“紙路(しろ)”を引いて。魔導カードはこの線上だけを通る。風は線から逃がす」
7、6、5…
『線、白くする。踏むな印もつける』
4、3、2、1――契約成立!
【リンク更新】
新規:サダ(角守)――紙路投影/角の衝突回避/“踏むな”印
副作用:曲がり角で立ち止まりがち(礼を言いたくなる)
「立ち止まり事故注意ね」とミオ。
「礼は心で言う」
外:モフ場(仮)を開設
入口前に円形の囲い。フウコが低く太い風を外周に流し、ユキチが静電気オフの薄結界。
「シイロ、楽しい回収印をここに」
『ぽん、ぽん、ぽん!』
白い印が地面に浮かび、毛と埃がそこへ自走する。
綿ねずみ精霊小隊+ハリモフが歓迎ダンスしながらコロコロ&背中搬送。
「ようこそ“毛の楽園”へ!」
「名前の主張!」
カルカが手を叩く。「“ここに来ると褒められる”って毛と埃が勘違いしてる!」
「勘違い作戦、強い」
中:三層エアシャワー
ゲートの床に“下→横→上”の風口。
フウコ:「下は払い、横は抱え、上は抜く。帯で途切れないように」
ユキチ:「温度差1.5度で静電気カット。人は冷えない」
サダ:「角で紙路を光らせて誘導」
シイロ:「薄い粉を一粒だけ混ぜて、“ここ楽しいよ”の誘惑を上に」
俺:「表にモフ場、中は紙場。境界は気持ちでも切り替える」
シルヴィオは掲示を立てる。
【クリーン動線:外→毛遊び→三層シャワー→紙路】
・撫で禁止は“中だけ”
・撫でたい気持ちは外で存分に
・白手形は清廉の証
「“撫でたい気持ちは外で存分に”のコピー、うまい」とミオ。
「法的にも通る」とシルヴィオ。
小事件:ゲート鳴動
最初の来館者、ローブの学者がゲートをくぐる――ピピッ。
「毛、残留」とミオ。
「どこだ?」
カルカが嗅ぎ、ムクラリンクが補助。
「袖口の裏。“置き毛”が残ってます!」
「シイロ、印!」
『ぽん!』
白い手形が袖にぺた。毛がふわっと浮いて、上へ。
フウコが抜きの風でさらい、外のモフ場へ転送。
「通過OK」
学者が涙目。「恥ではないのだな……?」
「清廉です」とミオ。拍手。
地底書庫・内部点検
地下へのスロープは紙路が細く光り、角ごとにサダの踏むな印。
奥の閲覧室で、魔導カードの束が静かに漂う。
「ここ、渦があった場所ね」とミオ。
フウコが風鈴を止める。「もう渦、できにくい。出口を上に作ったから」
ユキチが温度を見て言う。「+0.3度分だけ上げて、人が寒くないように」
カード保管庫の前で、小さな咳。
「誰?」
薄い埃がもぞっと形を取り、鼻に布を巻いた塵(ちり)精ドリが姿を現す。
『人の足、どすどす。紙がびくびく。だから毛はきらい』
「嫌いじゃなくて怖いんだね」とカルカ。
『こわい。でも遊びたい。流れに乗って外で遊べるなら……』
「外に“毛の楽園”がある。契約しよう。10秒だけ撫でて、出口の約束」
〈契約3〉塵精ドリ(10秒)
埃を撫でるのは難しい。だから風撫でグローブにユキチの霧輪を薄く重ね、表面だけ揃える。
10、9、8…
「中では紙路を守り、外では印に集まって遊ぶ。抜け道は用意する。戻りたいときは角に礼」
7、6、5…
『礼、する。角、偉い。遊ぶ、外。約束』
4、3、2、1――契約成立!
【リンク更新】
新規:ドリ(塵精)――塵流制御/紙面着地ゼロ化/“角礼”で帰還
副作用:角で一礼したくなる(癖づく)
「礼が増える組織、雰囲気良くなる」とシルヴィオがご満悦。
「それ、法じゃなく文化」と俺。
仕上げと“禁持込令”の更新
数時間後。来館者の流れはスムーズ、くしゃみはほぼゼロ。魔導カードの乱れも出ない。
ミオが手帳をぱらぱら。「苦情:高→低。清掃時間:長→短。笑顔:増」
「KPI、順調」とシルヴィオ。
掲示板に新しい紙が貼られる。
【更新】“モフ毛禁持込令”→“クリーン動線遵守令”
・外で存分に撫で
・ゲートは三層
・中は紙路に従え
監督:清掃局×ギルド“モフ課”
「文言から“禁止”が減った」とユキチ。
「方向づけが勝ち」とフウコ。
ミオ監督が深く礼。
「ありがとう。嫌うんじゃなくて流すを選べた。ここに合う」
「毛は文化だから」と俺。
「名言ぽい」とカルカ。尻尾がぶんぶん。
俺のステ窓が更新される。
【黒田ツナ Lv.16→17】
撫術:EX(維持) 交渉:A+
新規リンク:シイロ(粉結界)、サダ(紙路)、ドリ(塵流)
本日の契約:3/3(消化)
備考:請負11 完了/“禁持込令”→“遵守令”へ改定/白手形:洗濯で落ちる
「白手形、証明写真に写らないよね?」
「写ると清廉加点」とシルヴィオ。
「そんな制度ない」
出口に戻ると、外の“毛の楽園”でハリモフが誇らしげに背中をぱふーんと膨らませていた。
『たのしい。刺さないで運ぶ。オレ、えらい』
「ほんとにえらい」
その時、ギルド掲示がぺたり更新。
【緊急案件:北の外れ“風車丘”の巨鳥が、羽毛を撒き散らしながら暴走】
推奨:モフ課(風路×毛×連携)
「羽毛、毛の親戚」とユキチ。
「空の段取り、出番だね」とフウコ。
カルカが目を輝かせる。「でっかいモフ……!」
シルヴィオが名刺をそっと増やす。風車安全監督(臨時)。
「増やすの、もはや芸」
「国家のためだ」
俺はモフケープを翻し、空を仰いだ。
「風、毛、巨鳥。――段取りの三拍子、行こうか」
ステータス
【黒田ツナ Lv.17】
体力:B 魔力:C+ 機転:A+ 撫術:EX
固有:〈モフ契〉〈群れリンク〉〈ステ窓チャット〉
連携中:ユキチ(冷却/除湿)、ムクラ(敏捷/嗅覚)、フウコ(風路/落下耐性)、シオリ(ページ固定)、モクロク(動線設計)、エコリ(反響ゲート)
新規:シイロ(粉結界)/サダ(紙路)/ドリ(塵流)
備考:クリーン動線運用開始/禁持込→遵守令へ改定
モフ一口コーナー
シイロ『汚れは流すと仲良し。止めるとケンカ』
サダ『角は偉い。礼をすると、曲がりがうまくいく』
ドリ『外で遊ぶと中がきれい。出口だいじ』
フウコ「クリーン動線は“下→横→上”。帯でつなげば舞わない」
ユキチ「+1.5度は人に優しい静電気オフ」
撫でるだけで最強。――代償は服が毛だらけ しょーちゃん @shochan0308
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