第37話 黒い本②

 放課後を迎えると同時に、図書室へ足を向けた。 

 昨日同様、カウンターには生徒が一人、本を読んでいる。


 ……さて、どうやって黒い本を借りようか。

 生徒から直接、本の場所を尋ねることはできない。

 けれど、ルルさんがあの「黒い本」をカウンターへ返したのは確かだ。

 息をひそめ、静まり返った室内を踏みしめながら、ゆっくりとカウンターに近づく。 

 そして、生徒の邪魔にならない程度まで身を乗り出し、奥を覗いてみた。


 ――生徒が、まるで私という存在を認識していない。

 咎めも、視線も、息づかいの揺れすらない。

 ページをめくる音だけが、虚空に響く。

 ……ここまで徹底して「存在しないもの」として扱われるなんて。 

 もしかして――カウンターの奥まで入ってもバレないのではないだろうか。


「もしもーし。」


 念の為、生徒へ声をかけてみたが全く反応がない。

 質問や依頼など回答を必要としていることは応答する。

 しかし、必要なければ関わらない。

 ここまで徹底されたプログラムに心が痛んだ。


 ――しかし、これはチャンスではないだろうか。

 誰も私を見ていない。

 カウンターを超えても、止められないのでは……。


「――よしっ。入ってみよう。」


 意を決して、カウンターへ侵入する。

 堂々と生徒の真横を通った。

 ……止められるどころか、全く見向きもされなかった。

 どこかモヤモヤを感じながら、黒い本を探した。

 

「……見つけた!」


 息を呑む。

 あの黒い本が、ひっそりと、誰の目にも触れぬように、棚の隅に身を潜めていた。

 わざと埃をかぶるように、でも決して汚れていない表紙。


 ――私はこの本を副会長以外にお渡しする気はありません。


 まさか、言葉通りに隠してあったとは。

 生徒の計らいに感謝しつつ黒い本を手に取る。

 そして、急いでカウンターから出た。

 ……慌ただしかっただろうに、生徒がこちらへ振り向くことはなかった。

 とても寂しい。

 そして、たまらなく悔しい。

 たまらず、以前生徒へ勧められた席へ座ってやった。

 前回の続きに、指先が触れる。


 ――そして、彼の「心」に触れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る