第36話 真実を知りたい
「……そういえば、真宵。馨と一緒に生徒会室へ戻ってきたが、図書室で何をしていたんだ?」
居心地悪い空気へ気を遣ったのか、ルルさんが帰宅準備の片手間として話題を振ってくれた。
……しかし、今の私には何とも答えづらい話題だった。
「どうした、真宵。調べ物を手伝ってもらったわけではないのか?」
「馨さん、私の記憶喪失を知っていました。」
帰宅準備の手を止めず、半ばやけくそな気持ちで憂鬱の原因を吐き出した。
少しの沈黙。
鞄の閉まる音が、やけに目立つ。
「――そうか。」
その声音には、驚きも動揺もなかった。
ただ静かに、受け止めるような響きだけが残る。
「そうか」って……。
「馨さんが私の記憶喪失を知っていたことに驚かないのですか。」
「おおよそ検討がついていた。」
誰もが何かを知っているのに、私だけが置いていかれている。
そんな焦燥から無意識に服の裾を掴んだ。
この人は、どこまで情報を知っているのだろうか。
「ねぇ、ルルさん。どうか、教えてください。私のことも、学園のことも。」
逸る気持ちを抑えきれず、声が震えた。
それでも、止まらなかった。
私の気持ちを察してか、ルルさんが長いまつ毛を伏せる。
「……すまない、真宵。このゲームのルール上、俺様から全てを話すことはできない。」
わずかな沈黙が落ちた。
その声は、いつものルルさんらしくない、どこか痛みを滲ませていた。
わかってはいる。
彼とと約束したように、自らの足で情報を集めなければいけないこと。
……分かってはいるが、自分だけが何も知らない状況に納得できない。
馨さんには「思い出すな」と言われるし。
「どうしてですか……? ルルさんには、心があるのに。自由に動けるのに……どうして、何も言ってくれないんですか……!」
気づけば言葉に出していた。
感情を抑えきれず、自分でも驚くほどぶっきらぼうな言い方になってしまった。
ルルさんを見る。
一瞬、彼が顔を歪めた。
しかし、紅石のように美しい瞳をこちらへ向ければ、はっきりと応えた。
「俺様ができることは、お前を愛することだけだ。……真宵を甘やかすことではない。」
その一言が、憂鬱を吹き飛ばした。
じんわりと胸の奥に熱いものが広がる。
――甘やかさずとも、真実を知ることが出来る。
ルルさんからの絶対的な信頼。
その想いを、私のわがままで無下にするところだった。
「……ごめんなさい。」
感情に任せて、ルルさんを傷つけてしまった。
後悔から、目を合わせられない。
「顔を上げろ、真宵。」
「ルルさん……?」
ルルさんが、優しく諭すように、名前を呼んでくれた。
その声につられ、自然と顔を上げる。
「真宵、お前は全てを知りたいと覚悟を決めてくれた。そして、今、真実を知るために自らの足で情報を集めている。……ならば、それを支えるのが俺様の役目であり、1つの愛し方だ。」
ルルさんが一歩、また一歩と近づいてくる。
それに合わせて、私もゆっくりと距離を縮めた。
――今、目の前にはルルさんがいる。
「真宵。お前が記憶を取り戻したいと思うのならば躊躇するな。もし、真宵の想いを邪魔する人物がいるのならば、俺様が全力でお前を守る。」
真紅の瞳が光に当てられ宝石のように輝いている。
「だから、残り2日。悔いのないようにやりたいことをやれ。」
その瞳が、私の不安を取り除き、今まで隠れていた決意を固めてくれる。
必ず、全て思い出してやる。
「――ああ、いい表情になったな、真宵。」
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