第44夜

「よぉ、久しぶりだな」

「っっ!?」


今後の事で物思いに耽っていた白羽は、不意に声を掛けられて体をビクつかせた

デジャヴを感じたのは気のせいではない


「何だよ、んな驚く事ないだろ?」

「お前は、普通に入って来れないのか……不法侵入悪魔」


深い溜め息と共に視線を向ければ、不法侵入者もとい悪魔リュウトが立っていた


今度は一体、何をしに来たのだろうか。


「家主は、まだ帰って来てねぇな。だったら問題ねぇだろ?」

「そういう問題じゃない。大体、今度は何の用だよ」

「んな邪見にすんなよ。お前と話がしたいだけだ」


この悪魔が現れる時は、良い話ではないのだろう


正直、聞きたくないが……このまま居座られても困る。

陽斗にリュウトの説明を上手く出来る自身がない


「話なら手短に頼む。家主には聞かれたくないんだ」

「お前と影が分離した原因が、その家主のせいだとしてもか?」

「……どういう意味だ」


何故、ソコで陽斗が出て来るのかが分からない

事故現場に彼は居なかった否、居ただろうか?

その時の記憶だけが、イマイチ曖昧だった……


まるでソコだけが抜け落ちてしまっている


「お前が事故で死ぬ筈だったというのは知ってるな?」

「ああ……」


状況の変化によって白羽はケガだけで命が助かったのだと、以前リュウトが言っていたような気がする


ソレが原因で影と分離したのだと。


あの時は状況の変化というのが、イマイチ分からなかったが……


「杉浦陽斗が、お前の命を救ったのが全ての始まりだ」

「だとしたら、俺の命を救ってくれた陽斗は命の恩人って事だ。原因だろうが何だろうが関係ない」

「アイツが正体を偽り、オマエを欺いていてもか?」


正体を偽る?欺いている?言っている意味が理解出来なかった。


陽斗は信頼出来る親友だ

白羽を欺くなど到底、信じがたい


「陽斗の事を何も知らないお前が、アイツを侮辱するな…っ」

「オマエよりは知ってるつもりだが?」


まるでリュウトは陽斗と知り合いのような口ぶりだ

けれど悪魔の知り合いがいるなど聞いた事がない……

そもそも、どういう知り合いなのか想像もつかなかった


「俺より知ってる?じゃあお前と陽斗の関係は何だ」


するとリュウトは不敵に笑うと、白羽に近付く


「知りたいか?」

「……勿体ぶってないで、さっさと答えろ」

「元相棒だ」

「相棒……?」


戸惑う白羽を他所に、耳元で囁くように言葉を続ける


「悪魔の相棒…つまり、どういう事か分かるだろ?」

「陽斗、も……悪魔……?」


言い様のない不安が、胸をザワつかせた

だとしたら何故、人間のフリをして白羽の側にいるのか


「その通り……おっと!」

「っ!?」


すると不意にリュウトの頬を掠めるように何かが飛んできた


その直後、壁にグサリと何かが突き刺さる


「白羽から離れろ……」

「あ、陽斗?」


聞いた事のない殺気が籠められた陽斗の声色に、白羽は背筋がゾッとした

だが一方で殺気を向けられているリュウトは意にも介さず、不敵に笑う……


「おいおい、いくらなんでも元相棒に刃物をブン投げる事ないだろ?」


壁には深々とペティナイフが突き刺さっていた

いくら小型の刃物と言えど人体に刺さったら、ただじゃ済まない


「黙れ!勝手に上がり込んで余計な事を白羽に吹き込むな!」

「余計な事?俺は事実を言ったまでだ」

「っ……」


更にキツくなる陽斗の相貌に、リュウトは呆れたように肩を竦める


「コワイコワイ。じゃあ俺は、さっさと退散するか。ああ、それと白羽!」

「え……」

「悪魔は人間の魂を糧とする。気を付けろよ?」

「リュウトっ!!!」


陽斗の神経を逆撫でするばかりの言葉を、白羽に吹き込むリュウトに苛立ちを隠せない

何よりも、白羽からの信頼を失う事が恐ろしかった

この口ぶりからすると、自身が悪魔である事を知られてしまったのだろう


騙していたのかと罵られるだろうか。

全ての原因は、お前のせいだと責めたてられるだろうか。


それとも

二度と目の前に現れるなと宣告されるだろうか。


リュウトに言われた言葉を思い出す……


───本気で護ってやりたいなら本体を影より先に殺し、魂を喰らってやる事だ


側にいる事を許されないのなら。


影に奪われるくらいなら。


いっそ………











『今ココデ、殺シテ魂ヲ喰ラッテシマオウカ』

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