第32話 再歩(最終話)
月斗から電話があった。
「今週の土曜日、凛斗の関東中学の本戦なんだ。2回勝てば全国大会だ。」
「そうなんだ。」
凛斗の卓球の試合を別れてから見ることはなかった。
「分かってると思うけれど、中学に入ってから1度も全国には出れてない。たぶんこれが最後のチャンスだ。彼のプレーを見に来ないか?」
驚いた。私が行ってもいいの?かえって邪魔になって、最後のチャンスを逃してしまうかもしれない。
「やめておくわ。心の中で応援している。」
「そう言わないで。凛斗もそう思っている。来てくれないか。」
凛斗も・・本当かな。もし、嫌そうだったらすぐ帰ろう。
大会当日。月斗に連れられて体育館のスタンドへ行った。凛斗はチームメートと話していた。
傍に行っちゃいけない・・。遠くで応援を。月斗が凛斗に声をかけた。2人がこちらへ駆け寄ってきた。
「母さん、来てくれたんだ。ありがとう。」
「迷惑じゃない?」
「母さん、座って。」
3人で並んで座る。
「今日、2回勝ったら全国なんだ。」
「うん。」
「あのさ。俺、中学入ってから、ずっと後悔してたんだ。小学校で全国に出ないで移動教室行ったこと。母さんは出た方がいいって。」
「私は、そんな・・・。凛斗の気持ちも考えずに・・」
「俺、またいつでも出られるって心の底では思ってたんだ。でも、そんなに甘くなかった。俺の代わりに出たやつさ、自信つけて、めっちゃ強くなった。悔しいって本気で思った。今日、勝って全国に出たい。応援してくれる?」
「うん。凛斗の試合、応援させてくれてありがとう。頑張って。」
凛斗はうなずいて、走っていった。
凛斗は、1回勝って、全国大会を賭けた試合は、大接戦になった。何度も負けそうになりながらも粘る。逞しく成長した彼の姿を見て胸が熱くなった。そして、ついにマッチポイントをものにして勝った。彼の頑張りに手が痛くなるくらい拍手した。
「勝ったよ。父さん、母さん。」
「おめでとう。」
私は、声にならなかった。ただ、嬉しかった。凛斗が最後まで頑張ったことが。
「外に出ないか。」
「いいの?」
「解散までは、時間があるだろう。」
ベンチに腰掛けた。
「今年の全国大会は、大阪だ。4人で凛斗を応援に行かないか。」
「私も?」
「ああ。君も一緒にだ。」
「私は、今日、凛斗の試合を応援できただけで十分です。」
私は、俯いた。家族を裏切った私は、たまに話すだけでいい。それ以上望んじゃいけない。
「陽花、学生時代君に交際を申し込まれた時、僕は嬉しかったんだ。派手で何ごともポジティブな君に、地味で目立たない僕は惹かれた。ただ、合わないか不安だった。結婚してから、君は仕事に夢中になり過ぎてるし、子どもたちにも結果を求め過ぎていると思っていた。だから、君が間違いを犯した時、やっぱり僕たちは合わなかったと思った。」
辛くて胸が痛くなった。彼の言葉は的を射ていた。
「でも、君は変わった。子どもたちを大事にしてくれるようになった。彼らのありのままを認めてくれるようになった。
陽花、君は、太陽だ。僕は月。2人で補い合って、子どもたちを育てていこう。もう一度、子育てのパートナーとしてやり直さないか?」
月斗は、手を差し出した。私は、あふれる涙をぬぐい、彼の手を両手で握った。
「よろしくお願いします。」
私が求めていた幸せは、自分が勝手に描いた虚構だった。だから私の不貞は、その全てを破壊した。人に信頼され、周りの人を幸せにすること、それが私にとっての本当の幸せ。
数日後、私は、月斗の実家の近くのアパートに引っ越した。時々、子どもたちが遊びにくる。たまに月斗も訪れてくれる。
「ママ、来たよ~。」
「いらっしゃい。」
【 完 】
虚構の幸せ @shalabon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます