第25話 離婚

「営業部から来ました。よろしくお願いします。」

 私の異動理由は、社内で誰もが知るところになっていたから、文具販売部は女性ばかりで、向けられる視線は厳しかった。 

 年下の課長から、

「麻生さん、では、今日からこのリストの学校を回ってください。名刺はもうできています。」

「あの、仕事の内容は?」

「『滝山印刷です。ご注文はありませんか』、と先生方に聞くだけでいいです。注文があったらそれを記録して、受注伝票に入力して、控えとしてプリントアウトを私にください。それだけです。納品は、あなたの机の上に置かれます。簡単でしょ。」

 前営業課長を馬鹿にするかのように微笑んだ。

「はい。」

 新入社員がするような仕事だった。情けなかった。


 2週間後、月斗から連絡があった。

「明日、これからのことを話し合いたい。家に行く。」

 いよいよ、結論が下される日が来た。


 テーブルをはさんで彼と向かい合った。もともと痩せ気味の彼の頬はさらに細くなった気がした。申し訳なさに胸が痛んだ。

「もう、分かっているけれど、まず、君の会社のコンプライアンス室に通報した。処分が下されたことを確認した。これから2人には慰謝料を請求するつもりだ。それには、僕たちの結論を先に出さなければならない。」

「はい。」

 月斗が、一枚の紙をテーブルに置いた。予想はしていたけれど、実際に現実になると、彼に泣いてすがりつきたい。

 月斗の記入済みの離婚届。どこかで、長く人生を一緒に過ごした彼に許されるという根拠のない期待をしていた。

「いろいろ考えたけれど、僕は、今、単純に君がしたことを赦せない。」

「陽花、君は気が付いていたか? 僕は、君と家族を愛していた。だから仕事に頑張る君を支え、子どもたちをしっかり向き合おうと思っていた。でも、君がしたことは、その僕を裏切ることだ。もう、君とはやっていけない。」

 月斗のいうとおりだった。彼を愛していると。どんなに思っていても、その言葉を口にしたとしても、私の行為は、彼を裏切った。

「分かりました。月斗、ごめんなさい。あなたに申し訳ないことをしました。」

 私は、手の震えを抑えながら、名前を書いた。

「子どもたちのことだが、彼らに決めてもらうのでいいか。」

 私の返事を待たずに、彼はリビング出て、3人を連れてきた。

「パパとママは、離婚することになった。残念だけど、みんなで一緒に暮らすことはできなくなった。すまない。君たちが大人になるまでには、パパかママと暮らさなければならない。よく考えて決めてほしい。パパとママとどちらとでも君たちを幸せにしようと思う。僕を選ばなくても君たちを嫌いになることはない。ママもそれは同じだ。」

「パパ。僕は・・・。」

 月斗が話し出そうとするのを制した。

「今じゃなくていい。」

「今でもいいの。」 

 私は、思わず声を挙げていた。

「私は、今、できたら決めてほしい。辛いけど選ばれなかったら、その理由が聞きたいの。」

「いいのか?みんなは、どうだ。」

 子どもたちは、3人ともうなずいた。

「じゃあ、そうしよう。」

 月斗が、言った。

 

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