魔導機体の裏側で

@youtarou323

第1話 死闘

 咆哮が機体を揺らして操縦席まで聞こえる。


 揺れた操縦席のなかで、上から埃やチリが落ちてくる。

 操縦席から見える景色は突き抜けるような青い空とそれを覆うようにいるドラゴン。

 咆哮の主はそのドラゴンだった。あまりの大きさに思わず息をのむ。

「うるさいわね。あのデガブツ。黙らしてやる」

そう言った黒髪の少女は咆哮をしたドラゴンに敵意むき出しの目線を前に向けてた。

…多分、やっている。今までの彼女の事を考えたら、そうだろうと男性は思う。重なるように操縦席に座っている男性は周囲を見回して状況を確認する。状況は…最悪ではないが最高ではないな、そう男性は思った。

少女の頭はいたるところに埃がかぶっており、汚れていたが今はそんなことを気にしてはいられなかった。

早くしないと…そう思いつつ男性の手は両脇にある壁にやっている。男性も焦っていた。額から垂れる汗をぬぐうこともせずに集中する。あと少し。


「黙らせたいのは賛同するけど…ちょっと待って。あと少しだから」

「早くしなさいよ!早くやらないと、私もあんたも、あいつのデカい口であの世いきよ」

「分かってる。分かっているから落ち着いて。リナ」


 リナと呼ばれた少女が後ろにいる男性に振り向いたあと、再び自分たちよりはるかに大きいドラゴンに敵意を込めた目線を空にいるデカブツに向けるために前をむく。そんな話をしている中で、男性の手が青く光り、壁へと魔力が吸い込まれていく。手にあった光が壁に吸収されるたびに、周りの計器類が少しずつ蘇ってきている。

 機体魔力残存量、40%以上。駆動部稼働率、65%。魔導回路流量、正常。操縦者同調率、80%。それらの情報が男の横にある壁から、浮き出てくる。もう少しで全力で動けるようになりそうだなって考えていると、再びリナがこちらを振り向いてきた。


 「今更だけど…言っておくわ。巻き込んで、ごめんなさい」

 リナが男性に向けて申し訳なさそうな声で言っていたことに男性は、応えるように頭を2回ほど軽く叩く。少しは大人の余裕を見せられたかな、と男性は考える。そして再び両脇にある壁に手をやる。


 「魔力供給回路、正常。操縦者同調率、85%に上昇。機体魔力残量、45%。…いこうか、姫さま」

 「ええ、行こうかしら。…あと、姫さまって言ったら殴るから」

 「…そう言われるのは、お嫌いで?」

 「大っ嫌い。だってこんな新人に見合った感じじゃないし。…なんでそう呼ばれるようになったか、知っている?」

 「…これが終わったら教えるよ」

 「生き残りたい理由が一つ増えたわ。ありがとう」


 壁がひときわ強く光る。


 「行くわよ。ヒロ。私たちであのデカブツから街を…皆を守るんだから」

 「左の魔力を右に回す補助をする。やれるの一撃だけ。操縦できるのはリナだけだ。…行けるか?姫さま」

 「…生きて殴る」

 「良かったな、生き残る理由がまた一つ増えた。生き残れたら甘んじて受け入れてやるよ」

 

 低く重い音と共に、斜め45度上を向いていた2人が正常な位置に戻る。

 正面には大きなドラゴンが空を飛んでいたるところに火を吐いていた。あんな火を食らったらひとたまりもないだろうな、ヒロはそう思うと怖くて体がこわばりそうになるのを感じた。

 その周囲には米粒みたいな黒い機体が右往左往に飛んでいる。自分たちと同じ魔導機械を操縦している、パイロットたちだ。

 「狙うは腹の下。私が傷つけた、箇所。一点突破。強襲する」

 

 リナが短い言葉で無線で周囲に生存しているパイロットに言う。さっき話していたリナとは別人見たいだなとヒロは感じた。

 

 リナが無線でそう伝えると操縦席正面の上にある小さなディスプレイからVOという文字が出てきた。

 「おい、新人!生きてたか!…お前は後退し援軍を呼べ。前線に戻ることは許さん」

 ディスプレイのVOという文字が点滅するたびに声が聞こえてくる。声の主はリナの上司なのだろう。ヒロはそう推測した。

 「いいえ、隊長。一撃食らわせたら、あのデカブツ。落ちます」

 「ダメだ。リナ。お前は後方に行け。命令だ」

 「隊長、行きます」

 「…命令違反だぞ。分かっているな」

 「ええ。説教は後でいくらでも」

 「…部隊各位へ。リナが突撃する。援護するぞ」


 操縦席正面上のディスプレイがいくつも光って了解の旨を伝える。


 本当に姫様だな。わがままだ。そう思ってヒロはリナの後頭部を見つめる。

 その視線に気づいたリナが少し笑ってヒロに振り向く。その顔は少し楽しそうだなとヒロは思う。

 こんな状態なのに。絶体絶命な状況なのに。機体もボロボロと言えるほどではないが万全というわけではないのに。

 そして、戦友も亡くなっているだろうに。

 再びリナが前を向く。自分の横下にある手のひらより少し大きい台に手をやる。

 リナの黄色い魔力が手を介して台に送り込まれていく。手が少し淡く黄色く光って台に吸収されていく。


 「信用されてるな」

 「だって私が一番火力出るのはみんな知っているし、理解しているわ」

 ヒロはため息をついて、あとはお好きなようにしてくれと思う。

 

 機体が少し前かがみに傾く。少し上から埃が舞い落ちてくる。機器が軋む音がして、魔力炉の温度が上昇していることを計器が示す。操縦席から見える景色は明るい空とドラゴン、地面にはいたるところに抉れた箇所が見えた。その抉れた地面の周囲にはドラゴンに落とされたであろう魔導機体の残骸が見えた。


 「飛ぶよ」

 言うと同時に体に引力が加わる。こんな訓練をしてないせいか気絶しそうになる。

 目の前が真っ暗になってくる。


 「職に貴賎はないぞ。こんな仕事でもいろんな人の支えになるんだ。忘れるなヒロ。誇りをもって仕事をしろ」

 年配の先輩に言われた言葉が急に思い出された。あ、これヤバいやつだと思っても止まらなかった。


 なんでこうなったんだっけかなと考える。

 思えば軍に入隊した時。整備士として、魔導機体の整備士として雇われることになったことから

 ここまでの事を思い出す。

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