2章 アレジスト選抜試験
1.王都ロイヤへ
悪夢のようなあの日の後、アレジストになることを決意した4人は荒廃したミツル村を旅立つことにした。
ユタたちが朱剣団と別れ、村人たちを探すと、被害を免れた人たちは村の集会所に避難していた。
しかし――ユタの両親だけでなく、リズとトーリの家族の姿もそこには無かった。
呆然と佇む4人に、ハティの育ての親である村長が近づいてきた。
ひとしきり再会を喜びあったのも束の間、村長から生き残った人はこれで全員であること、村にはすぐに復興するほどの余力はないことを聞いた。
それから、村長は4人にこれからどうしたいのかと尋ねた。
ユタがアレジストになりたい、ということを伝えると、村長は目を細めて、神殿のある丘の方へ目をやった。
「お前たちの選択にケチをつける気持ちはない。
ただ、生きてお前たちにまた会いたい。そう思う人間がここにいることを忘れないでくれ。」
村長の独り言のような呟きは、四人の心に深く刻まれた。
その後、ただでさえ少ない人口の半分が亡くなったミツル村は、事実上地図から消えた。
村人たちは泣く泣く生まれ故郷を離れてよその村に散り散りになってしまったのだった。
故郷と家族を無くしたユタたちはアレジスト選抜試験のため王都へと旅立つことにした。
辺境のミツル村からイオーム王国の王都ロイヤまでは馬車や船を乗り継いで一ヶ月。
慣れない旅の道のりは長く、険しかった。
しかしどんな時も4人は助け合い、笑いが絶えない楽しい旅となった。
怖い物知らずのユタが先陣を切って進み、トーリが大人たちとの交渉をした。
物知りのハティのお陰で食材には困らず、リズが美味しい料理を作ってくれた。
そして今、旅は終わりを迎えようとしている。
4人は港町から王都に向かう船に乗りこんだのだ。
「ねえ、ユタ!見て!」
船に乗るやいなや、はしゃいだリズが甲板へとユタの手を引いた。
「海って、こんなに青くて、キラキラしてるんだね。」
リズは海風になびく蜂蜜色の髪を抑えながら、ユタに微笑みかけた。
山に囲まれたハミル村の近くに海は無かった。
リスが生まれて初めてみる一面の大海原に心躍らせるのも無理はないだろう。
「あぁ。ここまで皆と来れて本当に良かった。」
後からハティとともに走ってきたトーリが合流する。
「もう、トーリったら終わった気になっちゃダメだよ。本番はこれからなんだから。頑張って元気を貯めないと!」
船酔いで、彼女の長髪と同じくらい顔が真っ白になったハティがよろめきながらも、なんとかトーリの手を借りて立ち、口を開く。
「リズとユタはもう十分すぎるほど元気だから、これ以上うるさくならなくていいよ。」
「「うるさくなんかない!」」
ユタとリズの反応が重なって、辺りは四人の笑い声に包まれた。
しかし、笑っていたリズの表情が突然曇った。
「でも、本当は私ちょっぴり不安なの。
さっきまでいた街の人がね、教えてくれたんだ。
アレジスト選抜試験ってすっごく過酷で、選抜に落ちた人は帰ってこれないんだって。
でも、誰も試験内容を知らないの。どんな試験なんだろうね。」
「人体実験。参加者たちの体を改造して戦わせる。
負けたものは――処分される」
ハティの衝撃的な言葉に3人は石にされたように固まった。
「人体実験?」
「体を改造されるって……」
「処分って、死んじゃうの?」
トーリ、ユタ、リズは三者三様の反応をした。
3人の眼差しが、ハティの唇に注がれる。
ハティは重々しく口を開き――
「なんて。ただの冗談。」
3人は膝から崩れ落ちた。
「ハティ、驚かさないでよ」
「皆、不安そうだったから。」
ハティはやっぱり不思議だ。
ぼーっとしているようで、案外核心を突くようなことズバッと言う。
「ありがとう、ハティ。確かに選抜試験は不安だったけど、ハティのお陰でちょっと肩の力が抜けたよ。」
トーリはなんだかんだそんなハティに甘いのだった。
俺がそんな事言ったら怒るのに、と思いつつ、ユタは確かにハティのお陰で気分が楽になったのを感じていた。
ただ、ユタにはみんなには言っていない、不安なことがもう一つあった。
村が襲撃を受けた日以来、サンの声が聞こえないのだ。
サンには聞きたいことが沢山ある。
どうしてサンの声が頭に響いた時、あんなに素早く動けたのか。
どうして時々未来が見えているような発言をしていたのか。
その全てが謎に包まれたまま、お預けとなってしまっていた。
様々な思いを抱えたユタは、眼前に広がる景色に目をやった。
空には燃える太陽が輝き、海鳥の鳴き交わす声が聞こえる。
傍らに仲間がいること。
それだけでユタは数奇な運命に立ち向かうための力が湧いてくるのだった。
アレジスト選抜試験、消えたサンの声。
謎を抱えた4人の冒険の舞台は、王都ロイヤへと移っていく。
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