5.“知る”ということ
アレジスト?朱剣団?
ユタの耳には馴染みのない、初めて聞く響きだった。
「まず……アレジストって何ですか?」
ユタは絡まる自分の思考を一つずつ解き、手繰り寄せながら質問を始める。
マイはそんなユタを優しく見守り、その口が紡ぎ出す言葉に真剣に向き合おうとしていた。
「アレジストと言うのは私のような、人知を超えた能力を持つ人間のことだ。
王都で行われる選抜試験を突破すれば誰でもなることができる。試験内容については口外禁止の故、私も詳しく話すことはできないが。」
「アレジストになれば……さっきみたいな化け物を倒せるんですか。」
化け物を倒した彼女の紅の舞。
あの網膜を焼く鮮やかさにユタはすっかり魅了されていた。
「それはお前次第だ。
アレジス――この異能力は人の想いによって変化する。お前の想いの強さが、お前の力の強さとなる。」
「想いの強さ、ですか。」
強い想いとはなんだろう。
ユタは目を閉じて胸に手を当て、自分の鼓動を確かめる。マイが助けてくれたお陰で、自分は今ここで生きている。
もしマイが来てくれなかったら、ユタは仲間を助けられずにあそこで死んでいただろう。
自らも、彼女みたいに強くありたい。
あの時マイがしてくれたように――仲間を救える力が欲しい。
そう心の底から思い始めていた。
「お前はいい顔をしている。朱剣団に入る気はないか?」
「俺が……?」
その答えに迷うことなど無かった。
ユタの覚悟は、既に決まっていたのだから。
「俺を、朱剣団に入れてください。強くなって、仲間を守りたい。――それが、今の俺の生きるための理由です。」
ユタのその答えに、マイは満足そうに微笑んだ。
「あぁ。選抜試験を超えたお前に会うのを楽しみにしているよ。」
ユタはマイの差し出した手を強く握った。
話し終えたマイが部下に呼ばれて走り去って行った後、ユタは別の団員と話し終えて一段落していたリズ、トーリ、ハティの元へと向かった。
「ユタ!無事で良かった!」
ユタの顔を見たリズがユタに駆け寄り、勢いよく抱きついた。
ユタは顔を赤らめて、慌ててリズを引き剥がす。
「リズ!人前でやめてよ!」
いつもと変わらないやり取りに、4人が笑い出す。
ただ、ひとしきり笑った後、胸につっかえていた不安が重くのしかかって、4人の顔を曇らした。
「これからどうしようね。」
リスが足元の小石を遠くに蹴りながらぽつんと零した。
「あの化け物の恐ろしさを、俺たちは知っちゃたんだよ。
何も知らなかった頃に戻れるわけないだろ…」
3人は黙り込んだ。あんな事があったのに、忘れて幸せに暮らす。そんな未来なんてある訳が無かった。
知ってしまったこと。
それは後戻りできない選択を押し付ける理不尽な枷となって少年たちの人生の行く末を曲げる。
静寂を破ったのはユタだった。
「俺は、アレジストになる。アレジストになって、化け物を倒すんだ。
リズ、トーリ、ハティ。一緒に来てほしい。仲間がいれば、俺たちは何だって出来るんだ。そうだろ?」
ユタの言葉に他の3人も力強く首を縦に振った。
この瞬間、世界の運命を変える4人の物語が幕を開けたのだった。
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