第2話 魔法って何だろう

 容姿が優れているというのはとてつもない利点だ。

 けれど僕が暮らすサントハイム王国は明確な身分制度があり、平民の人権は前世より低く、また平民間でも力があるものが弱者を虐げる社会だった。


 力が身につかない内に何か目立つ事をすれば潰されてしまう事が目に見えていた。前世の知識で何かしらの成功を目指すにしてもまずは力をつけるべきだと思った。

 

 そうなると気になるのが前世には存在しなかった魔法という存在だ。もしかしたらそれが弱者でも強者に抗う術になるかもしれない。

 だから孤児院の子供達の中で、一番頭が良さそうなサーシャ姉ちゃんに、魔法とは何かを聞いてみる事にした。


「魔法は聖典の神様が世界を創造なさる際に使われた言葉なのよ。だから教会では聖句って呼ばれているわ」

「神様の言葉なのに魔法なの?」

「えぇ、聖句は神様しか使っちゃいけない言葉だったのだけど、天使様の一柱が寒さに凍えていた人に『火よ』という聖句を教えたの。他にも喉が乾いた人に『水よ』を教えたり、暗がりを怖がる人に『光よ』を教えたり、重い荷物を持つ人に『闇よ』を教えたの。けれど人は『火よ』の使い方を誤って神様が大事にしていた木を燃やしてしまったの。神様は人の前に姿を現さなくなったし、聖句を教えた天使様を呪って魔王にしてしまったわ。聖句は神様から使っちゃいけない言葉だけど、人は一度覚えてしまった聖句を便利だからと手放せなくなった。だから魔王に教わったという意味で魔法と呼ぶようになったのよ」


 魔王というのは100年周期ぐらいで世界に顕現する災厄と言われる存在だ。魔王が顕現すると魔物が狂暴化して群れとなって襲いかかってくるらしい。


「魔王は優しい天使様だったんだね」

「違うわ、人を堕落させ神様に反抗させるために聖句を教えたのよ」

「反抗?」

「えぇ、神様ばかり感謝されるので嫉妬したそうよ」


 (結構俗っぽい天使様だったんだね)


「堕落ってどういうものを言うの?」

「レント司祭様は魔法を戦争の道具として使った事を堕落っていってたわ」

「ふーん……」


(サーシャ姉ちゃんは教会で色々教えて貰っているんだな。でも5歳児にはちょっと難しい話だよ)


「神様って一人なの?」

「神様は人じゃないから一人はおかしいわよ。神様はそこにいるという意味で座が正しいと思うわ」

「神様の数え方があるって事は一座じゃないんだね」

「いいえ、教会の教義では神様は一座だと言ってるわ。でも妖精族は精霊様を神様と崇めているし、獣人族は獣型の魔物を神様と崇めているし、竜鱗族は竜型の魔物を神様だと言って生贄を捧げていたりするそうなの。他にも天使様や魔王を神様と崇める人たちもいるのよ。そうなると複数でしょ?」


(この世界にも宗教はいっぱいあって多神教の場合もあるから数え方がある訳か……)


「魔王を神様として祀っちゃうの?」

「人に知恵を与えた存在として崇めている人たちがいるのよ」

「ふーん……」


(人を堕落させたのではなく成長させたと解釈した訳ね。前世では荒々しい神様も崇められていたりしたし、おかしな話じゃないか……)


「聖典ってどこにあるの?」

「教会にあるわよ」

「誰でも読めるの?」

「いいえ、とても貴重なものだから司祭様以上にならないと触らせてもらえないわ」

「そうなんだ……」


(聖典から何か特別な聖句を見つけられるかと思ったけれど、教会に行っても読めないんじゃ難しいかな)


「教会以外には置いてないの?」

「貴族様の所ならあるんじゃないかしら。あと学校というところには本がいっぱいある部屋があるらしいわ」

「学校があるの!?」

「貴族様の子供は、15歳になると学校に通うそうよ」


(なるほど、ここは上級国民が知識を独占するタイプの世界なのか……)


「平民は通えないの?」

「優秀な生徒は貴族の推薦を受けて通うそうよ」

「優秀な生徒?」

「10歳で加護を貰うでしょ?優秀な加護だったりすると貴族様から推薦を貰えるらしいわ」


 10歳になると教会に行って加護を貰える事は知っていた。加護がどういうものかまでは知らないけれど、グンは加護を10歳でとても力持ちになっていた。


「加護って何を貰ったか分かるの?」

「えぇ、加護を貰うと自分の事がとても分かるようになるそうなの」

「えっ?」


 それってステータスが見れるって感じ?


「グン兄ちゃんは剛拳という加護を貰ったそうよ」

「それって凄いの?」

「剣士とか槍士みたいに武器が消耗しないからお金は溜まりやすいんだって」

「へぇ……」


 確かに素手で戦えるならお金が節約出来そうだ。


「グンって魔物を倒せるの?」

「うーん……、ジーナさんから小さな子には教えるなって言われてるのよ」

「えっ?何で?」

「自分も魔物が倒せると勘違いして森に行ったりしないようによ」

「そうなんだ……」


 なるほど、グンが僕に冒険譚を話さなかったのはジーナさんに止められてたからなのかな。それなら言いつけを守る結構いい奴じゃん。

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