猫獣人と歩む異世界生活

まする555号

第1章 孤児編

第1話 前世の記憶を思い出した

 仕事帰りの駅のホームの階段、歩きスマホしている女性がぶつかってきて足を滑らせ頭に衝撃、そして気が付いたら目の前にいるのは青や緑や赤の髪色を持つ子供達がいた。しかも直立歩行して服を着る黒猫や黄熊までもだ。


(これは来たんじゃないだろうか?)


「ステータスオープンっ!」


(これは違うのか……)


「メニュー!」


(うーん……)


「鑑定!」


(ないかぁ……)


 本人の記憶で、自身がアシュリーという名の5歳の女の子だと分かる。言葉は日本語ではなく異世界語だ。けれどアシュリーの記憶のおかげで完全に分かる。


 「こいつ狂ったのか?」と言っているのが直立歩行する黄熊だ。自身より7歳年上でグンという名前であるという記憶がある。

 そして、「血が出てるにゃ」と言っている直立歩行する黒猫が孤児院の同室で姉妹のように暮らしているリリアだと分かる。そうアシュリーは天涯孤独の身の上なのだ。前世の記憶が戻ったとはいえ前途多難だ。


(でもTS転生だなぁ……)


 前世の僕は男だった。性別が逆転してしまっている。両親は物心つく前に流行り病にかかったと聞いている。だからアシュリーは親を知らない。同じように親を知らない同室のリリアだけを家族だと思って生きて来た。


 そんな状態だけれどワクワクが止まらない。何故なら僕は異世界に転生する事にとても憧れていたからだ。僕にぶつかって来た女性にはちょっと感謝してもいいかもしれない。僕を殺したので何かしらの罪に問われる筈だから、被害者である僕が気にしてませんよと伝えて減刑させてあげられたらと思うけど無理そうだ。

 幸い僕の両親は既に鬼籍で未婚の子無し。飼い猫がいたけれど数年前に死に別れている。僕を殺したとしても慰謝料を請求する人はいないんじゃないかな。


 ただ中世っぽい社会なのにしっかりとした孤児院だった。食事の量は若干足りていないし部屋は隙間風が凄いしベッドの毛布は薄いけどスラム街の浮浪児みたいな境遇からしたら天国だ。

 アシュリーは周囲から可愛いと言われているし将来勝ち組になれるポテンシャルがあると思う。とりあえず社会情勢を把握し身を立てる方法を模索したい所だ。


「アシュリーに何をすんだいグンっ!」

「痛えなババアっ!」

 

 孤児院の管理人をしているジーナさんが熊獣人のグンの頭を叩いた。

 ちなみにジーナさんは僕に対して「あんたは高く売れるよ」と良く言って来るので、僕の商品価値が下がるのを嫌がっての発言なのだろう。


「この子の価値は高いんだよっ!」

「こいつがしつこかったんだよっ!」


 孤児達は10歳から15歳の間で独立していく事になる。ジーナさんの発言を思い出すと、貴族や豪商の養女として貰われたり、人買いに買われて出ていく場合があるっぽい。

 それが理由なのか、見た目が良かったり、何かしらの才能がある子は大事にされる傾向にあった。

 アシュリーも自身が大事にされているのを認識し、ちょっと生意気な感じに育っていた。


「だからって小さな子を怪我させていいわけ無いだろ!」

「ちょっと押しただけだっ!」


 グンは12歳でありながら既に見た目がゴツくて力も強い。けれど頭は良くないし魔法の才能もあまり無いそうだ。だから僕のように「あんたは売れるよ」なんてジーナさんに言われた事はない。

 だけど10歳を過ぎた時から冒険者ギルドに登録し、1年でFランクからEランクになったそうだ。「ランクアップが早ぇんだぜ」と自慢していたのでそっちの才能はあったのだろう。


「早く一人前の冒険者になって出ていきな」

「まだ雑用ばかりで金なんて溜まってねぇ」


 グンに突き飛ばされたのは、僕が冒険譚をしつこく聞こうとし、それがうるさがれたからだ。語れるような冒険譚がなく答えに窮してしまったのだろう。


「ちょっと染みるわよ、『水を』」

「ひゃぁ」


 僕の頭の怪我を3歳年上のサーシャ姉ちゃんが水魔法で洗い流してくれた。緑髪赤目というクリスマスカラーをしている女の子で、周囲の子より明らかに可愛い。だからサーシャ姉ちゃんもジーナさんから「あんたはいくらで売れるかねぇ」と言われている。


「傷は深くないわよ、これなら薬草で綺麗に治るわ」

「ありがとうサーシャ姉ちゃん」


 サーシャ姉ちゃんは、傷口に庭にある薬草で作った軟膏を塗って布を当ててくれた。教会の診療所の見習いとして働いているのでこういう傷への対応は得意のようだ。


「アシュリーは大事を取って休みな、他は水やりの続きだよ」

「「はーい」」


 孤児院では働かざる者食うべからずの原理で何かしらの手伝いをさせられている。しなかった場合は飯抜きにされる。

 グンやサーシャ姉ちゃんは外で働いた日は食事が出ない。そこはとても徹底している。

 ちなみに水やりとは庭の薬草園に魔法で水を作ってかける事だ。

 慣れてくると『土よ』という魔法で細かい土を作らされ、『水よ』で粘土化し、『風よ』で乾かし、『火を』で焼いてレンガを作るなんて結構高度な事もさせられる。

 それを売って孤児院の運営資金の足しにしているらしい。時々その売り上げで手に入れたという理由で、肉の欠片が多めのスープが出て来る。だから子供達は意欲を持ってレンガを作っている。

 ただジーナさんは時折「魔法が得意になれば高く売れるんだよ」と言っている。だからそっちが本音だと思った方が良さそうだ。


『水を』


 魔法は属性が無いものでも使える。『火を』、『水を』、『風を』、『土を』、『光を』、『闇を』と魔法言語で唱えれば誰でも少しだけ火や水を出す事が出来る。けれど属性が無い場合はそれ以上の発展はどんなに頑張ってもしないらしい。

 例えば僕は光属性を持っている。だから『光を』と唱えて光の強弱する事が出来る。けれどそれ以外の魔法は効果を上げたり下げたりのコントロールが出来ない。その属性が無いから仕方ないらしい。

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