第11話 コハルとファミリーレストランへ

 ジャージを着たままのコハル。

 彼女とやって来たのはファミリーレストラン。

 大勢の客でにぎわっている大型店だ。

 四方八方から談笑する声が聞こえ、ロボットが配膳をしている。


 俺とコハルは窓側の席に座り、タブレットで注文する品を視認していた。


「えーっと、あまり気にするなよ。キキ、悪気は無いみたいだからさ」


「大丈夫です。気にしていません……実力が足らないのは私が一番分かっていますから」


 遠い目をするコハル。

 自虐的に笑い、そしてゆっくりと話す。


「キキさんは努力をしているし、実力が高いのは周知の事実。それと同じく私に何の取柄も無いのも事実なんです。だから気にしていません」


「気にしてない割には、辛そうに見えるけど」


「ははは……辛いのは辛いですよ。キキさんに怒鳴られたことがじゃありません。私の実力不足が辛いんです。私も頑張ってるつもりなんですけど、皆さんのように上手くいかない。それがもどかしくて辛くて……申し訳なくて」


 俯き、拳を握るコハル。

 やはり彼女は彼女なりに悩んでいるようだ。

 

 周囲に付いていけないもどかしさ。

 回りとの差を痛感する辛さ。

 彼女の悩みが手に取るように分かる。


 俺だって特別何かが出来たわけじゃないし、学生時代なんて挫折の連続だった。

 陸上部に所属していたが、自分より速い人ばかり。

 勉強は中の下で、できない方だったと思う。

 自分よりも優れた容姿をしている者も多くおり、自分に価値なんて無いと考えていた。


 でも今はそんな些細なことは気にしない。

 自分は自分でしかなく、他人と比べる必要が無いと分かったから。

  

 リアラとの出会いがそれを教えてくれた。

 自分に向けられる好意。

 それだけで自分のことが特別だと感じられた。

 それ以降は他人の方が優れていようが、自分ができなかろうが気にすることは無くなった。


 しかしコハルはアイドル。

 それだけじゃダメなのが辛いところだ。

 秀でているところがあり、周りを魅了するものが必要になる。

 だからこそ彼女には自信を持ってもらい、こんな風に落ち込んでばかりいてもらってはダメなんだ。


 悩んでいる間に前に進まないと。

 アイドルに『若さ』は重要だと思う。

 要するに、アイドルには賞味期限があるんだ。

 悩んでいる間に時間は進み、気が付けば年を取ってしまう。

 

 時間切れがくる前に、さらに上を目指してもらわないと。


「コハルにはコハルのいいところがあるはずだ。アイドルが努力するのは当然で、人それぞれ得意不得意があるのも当然。苦手なものを克服する努力をしながら、自分の長所を伸ばすのはどうだろう」


「私の長所……ありません、そんなもの!」


 嫌にハッキリと言い切るなぁ。

 誰にだって長所はあると思うんだけど。


 コハルは弱々しく、彼女のファンはそこがいいと考えているらしい。

 でもその部分を伸ばすのは難しいよな。

 あくまでこれは個性なのだから。


「それを俺と一緒に探そう。コハルにもいいところが必ずあるはずだから。ダンスが不得意でも、それを補う何かがあればもっと輝ける」


「私は黒く輝くことしかできませんから……」


「黒い輝きってどんなの!?」


 自信は皆無らしく、自分を信じることができない。

 しかしそんなコハルが何でアイドルなんかを?

 それが不思議で、俺は彼女に訊ねてみることにした。


「コハルは何故アイドルをやってるんだ?」


「……実は暗い自分を克服しようと思いまして。明るい世界に飛び込めば変われるのかなって。でも輝かしい世界でも私は暗いままで……ああ、皆に申し訳ない」


「申し訳なく思う必要は無いから。コハルがいるからゼログラビティが成功への道に進んでいるんだ。君はゼログラビティにとっていなくてはならない存在だよ」


「マネージャーさんは私を元気付けようとしてくれてるんですね。自分が必要じゃないことは、自分が一番理解してますから」


「理解してないじゃないか。本当に必要だと俺は考えてる。君は必要とされている人間なんだよ」


「必要……私、マネージャーさんにとって必要な人間ですか?」


「ああ。必要だ」


 ポッと頬を染めるコハル。

 何を考えているのか知らないが、だが彼女がゼログラビティに必要なのは確かだ。


 リアラがいて、キキがいて、アオイがいて、ノノがいて、コハルがいて……

 全員がいるからゼログラビティ。

 それぞれの個性が一種の化学反応を起こして光輝く。

 だからコハルも必要なファクターの一つなんだ。


「お、来たみたいだぞ」


 配膳ロボットが商品を運んでくる。


 俺が注文したのはハンバーグ。

 コハルの前にはスープのみ。

 そんなものしか注文してないのか。


「コハル。食事も注文しないと」


「人前で食事をする私……見苦しくないですか?」


「そんなこと思いもしないけど!? いいから好きな物注文しろよ」


「はぁ、いただきます」


 タブレットで追加注文をするコハル。

 食事にまで気を使っているとは……予想よりも面倒な性格をしてるな。


「皆といる時も食事はしないのか?」


「メンバーの皆さんの気分を害したくありませんから」


「誰もそんなこと気にしてないよ。これからは好きにご飯を食べればいい」


「そう考えてくれているのはマネージャーさんだけじゃないでしょうか」


「それは無いと思うけど。難しいなら、とりあえずは俺の前だけでは好きな物を食べること。いいか?」


 コハルは恥ずかしそうにコクンと頷き、俺の前では食事をすることを承知してくれた。


「コハルの長所も必ずあるはずだから、それを一緒に見つけていこうな」


「ありませんよ、そんなもの」


「皆に気を使えるのは優しい証拠だろ。それだってコハルの長所の一つさ」


「マネージャーさん……私を励ます天才!?」


「励ますっていうか事実だ。コハルは優しい女の子なんだよ」


 また顔を赤くするコハル。


 優しいからこそ他人の気持ちを考え、委縮してしまう。

 委縮するのは問題だが、その優しさは人間として大事なことの一つ。。

 コハルはそれを持っているんだ。


「これから一緒に探していこう。コハルの良いところをもっともっと」


「はい……マネージャーさんとなら探せるような気がしてきました。こんな存在自体がおこがましい私にでも、良い部分を見つけられるような……いや、見つけるというのは調子に乗り過ぎました」


「それぐらいの調子でいいんだよ。良い部分を探そう!」


「……はい。あの、マネージャーさん」


「どうした?」


 モジモジしながらコハルは続ける。


「あの……その……名前で呼んでもいいでしょうか。マネージャーさんって呼び方じゃ、なんだか距離を感じてしまって。あ、私みたいな人間、距離があった方がいいんですが」


「卑屈になるな卑屈に。名前ぐらい好きに呼んでもらってもいいから」


「そうですか……では龍太さん」


 俯いたまま紅潮するコハル。

 名前を呼ぶだけでこれだけ恥ずかしがって……そんな気にする必要無いのに。


 そんなやりとりをしている間に、配膳ロボットが到着する。

 

「え……」


 コハルが注文した商品が到着したのはいいのだが……その数に俺は唖然としてしまう。


 ラーメン、ハンバーグ、ステーキ、パンケーキ、ピザ、丼ものが三つ、ポテトに唐揚げ……本当にコハルがこれだけの物を注文したのか?


 確認するようにコハルの方を見てみるが……彼女は平然とした顔で配膳ロボットから商品を取っていく。


「それだけコハルが注文を?」


「はい。まだ足りないので追加しますが……」


「また食べるのか!?」


 どれだけ注文するんだよ……

 これだけの量を食べることができるのか懐疑的に見ていたが……コハルはいきおいよく食事を口にしていく。

 小さな体に似つかわしくない大食い。

 こんな大食いファイターみたいなのが本当にいるんだなと、俺は驚くばかりであった。


「なあ外見たか?」


「ああ。やっぱりあれって氷の女王だよな」


「うん。雪花リアラで間違いないよ。生で見たらより一層美人だよな」


 周囲からそんな会話が聞こえてくる。

 リアラが外にいるのか?


 俺は窓の外に視線を向けると……電信柱に隠れてこちらを凝視するリアラの姿を発見する。


 まさか監視でもしていたのか?

 何やってんだよ、あの子は。


 でももう話し合いは終わったし、一緒に食事をするのは構わないだろう。

 俺が手招きをしてリアラを呼んでやると、嬉しそうな顔で店へと入って来た。


 そしてリアラもまた、コハルの食べる量に驚いたのは言うまでも無いだろう。

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