第8話 初顔合わせ
朝日を浴びながらスーツを着る。
少しの間、仕事を休んでいたが今日から社会に復帰だ。
仕事が無い時は心が病みそうになったが、就職できたら休職中のことを休みと捉えることができるから不思議だよな。
ちょっと前までなら絶対にできない考え方。
仕事を紹介してくれたリアラには感謝しておかないとな。
「行って来ます」
自分以外には誰もいない部屋に向かってそう言い、外へと飛び出す。
今日から新しい日々の始まりだ。
マネージャーなんて知らないことばかりで、これまでと畑違いの仕事だけど頑張るぞ。
◇◇◇◇◇◇◇
「初めまして、今日からお世話になる風間龍太です」
「先日ぶりー。よろしくね、風間さん」
事務所に行くと、すでに社長とゼログラビティのメンバーがいた。
自己紹介を済ませると、キキが気安く俺の肩に肘を置きながらそう言う。
「キキ。マネージャーとの距離が近いんじゃない?」
「そう? 普通ぐらいだと思うけど。あ、ファンサし過ぎちゃったかな、ごめんね風間さん」
「いや、別に気にしてないけど」
キキの距離の近さにリアラが少し腹を立てている様子。
表情に怒りは出てないが、発するオーラがどこか重たい。
しかしゼログラビティは綺麗な子ばかりだな。
リアラは当然として、他のメンバーも美人そろい。
タイトな服にロングスカートが良く似合うリアラ。
流行っぽいセーターの上からジャケットを羽織り、ジーンズ姿のキキ。
リボン付きの可愛らしいピンクの服に、短い黒いスカートをはいているノノ。
ネクタイをつけて大きめのパンツをはいてカッコいいアオイ。
着物姿でオドオドしているコハル。
それぞれ個性が現れる服装をしており、そしてグループの容姿の偏差値の高さには驚きを隠せない。
動画や画像で観るよりも圧倒的な美しさ。
生で見たらこんなにも違うのかと驚愕するほどだ。
少しだけ皆に呆けていると、アオイがふっとため息をついて話し始める。
「今度のマネージャーはいつまで持つかな」
「持つように協力してくれたら嬉しいです」
「協力ねぇ……別に私ら普通にしてるだけなんだけどな」
「そう言うんだったら西方院、風間くんが嫌がることはしないでくれよ」
「だから嫌がらせなんてしたつもりは無いんだよ。でも不思議と毎度マネージャーは潰れてしまう。おかしな話だ」
肩を竦めるアオイ。
悪気は無いようだが、彼女たちに歴代のマネージャーはついていけないってことだな。
まだ自信は無いが……とにかく頑張って行こう。
「お兄ちゃん、困ったことがあったら私に行って。私はいつだってお兄ちゃんの味方だから」
「ありがとう、リアラ」
壁にもたれかかっているリアラは、感情を表に出さないようにそう言ってくれる。
不安が多い今、彼女の優しさが嬉しい。
クールぶっているのが手に取るように分るところは可愛いと思う。
チラチラこちらに視線を向けてるのがバレバレなんだよな。
「リアラちゃん珍しいー! 普段は他人に気を使ったりしないのにね」
「気は使ってる。口にしないだけ」
「どっちにしても珍しいよぉ。リアラちゃんが口に出すことなんて無いんだからさ」
「ノノは思ってること口に出し過ぎ。そういうところ気を付けた方がいいんじゃない」
「はーい。ノノ気を付けます」
リアラに向かって敬礼をするノノ。
いちいち可愛らしい仕草で話す彼女だが、我は強そうだな。
愛らしい外見とは裏腹に、気の強そうなギラギラした目をしている。
「よろしくです……」
「よろしくお願いします。コハルさんですね」
「はい」
着物姿のコハルは、怯えたような表情で俯いたまま。
あまり会話が得意でないのか、人としゃべりたくないのかどちらかは分からないが、二人きりだったら間が持たないな。
「マネージャー。私らには敬語使わなくていいから」
「そ、そう?」
「ああ。その方がお互い気を使わないし、いいだろ」
落ち着いた雰囲気のアオイ。
彼女は微笑を浮べてそう言ってくれる。
敬語を使わなくていいなら、まぁ気軽だな。
ここはお言葉に甘えてそうさせてもらおうか。
「じゃあ……これからよろしく」
「はい、よろしく。ってことで今日のスケジュールはどうなってる?」
「えっと今日は……」
アプリを立ち上げ五人のスケジュールを確認する。
「リアラとアオイさんがラジオで……」
「さん付けもいいってば、龍太。私ら全員、呼び捨てでいいよん」
「おいキキ。下の名前で呼ぶのは気やす過ぎない?」
「別にいいじゃん。リアラには関係無い話でしょ」
ムッとした顔のリアラと、ニヤニヤしたキキが一触触発の空気感を出している。
このままではトラブルに発展しかねない。
俺は咄嗟に二人の間に割って入る。
「下の名前で呼んでもいいkら。リアラだってそうしてくれて構わない。だから……な?」
「……お兄ちゃんがそう言うなら」
照れたような顔をして、リアラは納得する。
そんな彼女の顔を見ていたキキは、何か確信めいた表情を浮かべていた。
「ふーん、そういうことなんだ」
「えー、どういうこと、キキちゃん? ノノのも分かるように説明して~」
「ノノには分かんなくていいの」
「ズルーい! どういうことかノノも知りたい!」
プンプンするノノであったが、しかし怒ってるようではないようだ。
可愛らしさを強調したいのか、腰に手を当て頬を膨らませるだけでそれ以上は何も言わなかった。
「で、私とリアラがラジオ。他の皆は?」
「他のメンバーは歌のレッスンだ」
「じゃあ龍太は私と一緒に行動ね」
「お兄ちゃんはラジオ局に一緒に行く。そうでしょ」
「ノノ、龍太ちゃんのこともっと知りたいし、レッスンに付いてきて~」
「私はどっちでも構いません……」
「移動もあるんだから、マネージャーはラジオだろ」
意見が完全に割れる。
こういう時はどうしたらいいのだろうかと悩んでいると、彼女たちの会話がエスカレートしていく。
「ラジオ局の方たちと顔合わせをしないといけないだろ」
「それを言うならレッスンの講師たちにもだよね」
「レッスンは毎日みたいにやってるじゃない。今日行かなくてもいいと思う」
「ノノ、龍太ちゃんが付いて来てくれなきゃヤダ!」
「私のことは空気みたいな存在というか、いないものと考えてもらってもいいです……」
言い合いを始めてしまう四人。
コハルだけは少し離れた場所で、窓から景色を眺め出す。
なるほど、これは苦労しそうだな。
いきなりこれなんだから、歴代のマネージャーが辞めたというのは頷ける。
しかしどちらかに行かねばならないのは確かで、俺は早急に決断を下す。
「キキとノノ、それにコハルには悪いけど、俺はラジオ局に行こうと思う」
「え~まぁいいんだけどさ、理由だけは教えてよ」
「アオイが言ったとおりだ。ラジオ局の人と顔合わせをしておきたい。講師の方々には帰りにでも挨拶するから」
「それなら両方の顔合わせが終わるね。流石はお兄ちゃん。100点を上げます」
「100点ありがとう」
「じゃあノノ行かないもん!」
腕を組んで、ノノは顔を逸らしてしまう。
可愛いのは確かだけど、ワガママは止めてほしいな。
「逆の立場だったらノノと一緒に行ってる。だから分かってくれ。ノノだけじゃなくて、メンバーは5人もいるんだ。一人だけ特別扱いはできないよ」
「ノノのこと、どうでもいいんじゃないの?」
「まさか。大事なメンバーの一人さ」
ノノは俺のを顔をジッと見た後、何故か腕をからめてくる。
「大事なんて言ってくれて嬉しい! ノノ、龍太ちゃんがいないけど今日は頑張るね。次はぜっっったいにノノについて来てよ」
「分かったよ」
「ノノ、ちょっと距離近すぎだから」
リアラはこちらに近づこうとはしないものに、ノノの行動に青筋を立てていた。
本当は無理矢理にでも引き剥がしたいのだろうが、本性を知られたくないために我慢してるんだろうな。
俺はノノの腕から離れ、リアラに笑みを向ける。
すると彼女は嬉しかったのか、俯き加減で微笑を浮かべていた。
やれやれ、本当にこれから大変になりそうだ。
メンバーとの顔合わせは、いきなり疲れるものになった。
でもここで頑張るって決めたのだから、適応してやっていくことにしよう。
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