第8話 2対1

「……つまんねーの」


 試験が一時中断され、二人もの受験者が棄権して帰る姿を見送った俺は、ぶすっとしながら呟く。

 どうやら俺が初見で雷を斬ったのがいけなかったらしい。勝てない相手に歯向かわないのは利口ではあるが……俺からすると面白くはない。


 ただ、と俺は視線を中学生くらいの小柄な少女——内海うちうみしずかに移す。


「君は棄権しなくて大丈夫? そりゃあ俺的には多いに越したことはないけど……遠慮はしなくていいぞ?」

「だ、大丈夫ですっ……!」


 プルプル身体は震え、くりっとした大きな瞳は潤んでいるものの……強い気迫を瞳に籠めて頷く内海さん。

 その姿に俺は僅かに目を見開き、ポリポリと頬をかいた。


「……見た目で判断して悪かった。今の言葉は要らなかったな」

「い、いえっ! だ、大丈夫、です……っ」


 ワタワタしながらも気丈に笑ってみせる彼女は、そこらの男子よりよっぽどかっこよかった。そしてすんごく可愛かった。我が妹に彼女の爪の垢を煎じて飲ませたいレベル。


『——棄権者は送り届けた。再開してもいいぞ』


 内海さんに感心していると、どこからともなくけいちゃん先輩の声が流れてくる。

 再開の合図だ。それを察した内海さんが口を開いた。



「——き、来て、私の【過保護な盾ガーディアン】っ!!」



 何やら一人でブツブツ独りごちっているメガネ君に代わり、内海さんが相変わらずオドオドとしながらも異能を発動させる。

 すると彼女の左右に小さくも眩い二つ光が生まれ——徐々に人型を形作っていく。


「まぶっ!?」


 俺はあまりの眩しさに目を細めつつも、見逃さないように注視する。


 人型に変貌しきった光は、次に鎧や剣、槍や盾などを形作り始め……数秒も掛からない間に光り輝く西洋の騎士として降臨する。

 神々しい光も相まってめっちゃ天使みたい。神の名の下に、とか言いそう。


「凄いな内海さん。ほんとにガーディアンじゃん」

「ひっ! あ、ありがとうございます……」


 ……今聞きました? 普通に話し掛けただけなのに悲鳴上げられたんですけど。なんなら思いっ切り顔引き攣らせてたし。


 別に怖い顔はしてないはずなんだけど……と疑問を抱く俺を他所に、少し凛々しい顔付きになった内海さんが言った。


「い、いきます……っ! ——あの人を倒してっ!」


 彼女の言葉に首肯するが如く、兜の目部分を紅く輝かせるとと同時に動き出す二体の騎士。一体は槍を、一体は剣と盾を装備している。

 対する俺は相棒を鞘から抜き放ったままその場を一歩も動かない。


 そんな俺の様子に一切動じない騎士達は、師匠を超える速度で俺に接近——様子見とばかりに槍を突き出す。

 槍は『ブオンッ!!』と空気を斬り裂く音と共に俺の目を目掛けて放たれた。


「容赦ないなおい」


 なんてぼやきつつ、迫る槍の穂先を余裕を持って首を傾けることで回避する。

 この程度、相棒を使う必要すらな——


「おっと、様子見じゃなかったか」

「……」


 背後からの斬撃を相棒を滑り込ませて受け止めた。

 一体を囮にして、もう一体を背後に潜めさせたらしい。中々の頭脳プレイである。


「う、うそ……なんで……」


 内海さんの驚きの声が聞こえてくるが、それに被せるように槍と剣が振るわれた。

 俺はそれらを冷静に対処しながら内心感嘆する。


 ……凄いな。これ、下手すればメガネ君より厄介なんじゃね?


 どちらの攻撃も音速に届きそうなレベルの速度な上、お互いが邪魔にならないようにかつ俺の行動の自由を奪うように動いているのだ。

 速さと破壊力ではメガネ君に軍配が上がるが、戦いづらさでは内海さんの方が勝っているだろう。


 そう冷静に分析しつつ、視線を依然として棒立ちのメガネ君に向ける。

 見た感じショックを受けているみたいだが……俺の欲望のため、もっと頑張ってもらおう。


「一旦退いてくれ」



 ——《村正流奥義:乱れ咲き》。


 

 剣閃が閃く。幾十、幾百もの剣閃が——まるで花が一気に開花するように。


 一瞬の内に数百もの斬撃に晒された騎士達。スペックを考えれば対処不可能だ。

 それでも防御を試みたみたいだが……鎧も槍も剣も盾も、まるで紙切れのようにバラバラに斬り刻まれ——遅れて発生したソニックブームによって騎士だったモノが弾き飛ばされる。


「わ、私の異能がっ……!?」


 驚愕の声を漏らす内海さん。今日一の声量だった。

 俺はそんな彼女の声すらかき消すほどの大声で叫んだ。



「——おいメガネ!」

「っ!?」



 呼ばれてハッとした表情を浮かべるメガネ君。なんとも腑抜けた顔をしていた。

 だが、彼ならもっと俺を楽しませてくれる——そう期待を籠めて発破をかける。


「お前は戦わないのか!? こんな幼い女の子が戦ってるってのにか!? 随分とダセェ真似するなぁ!! それに、俺を薄汚い野良異能者とか言ってたけど……果たしてどっちが薄汚いのかねぇメガネ君!?」


 …………。


 発破をかけるつもりが思いっ切り煽ってしまった。うわー完全に千年のブランクだわー普通に。千年もぼっちだったらこうもなりますわ。しゃーないしゃーない。……我ながら酷い言い訳だな……。


 なんて俺が自分に呆れていると。


「…………なよ……」

「ん? なんだって?」


 俯いていたメガネ君がバッと顔を上げた。

 その顔は——とても輝いているように見えた。

 

 


「——調子に乗るなよ、野良異能者ッ!! 僕を誰だと思っている!? 僕は日本四大名家の一柱——雷久保らいくぼけ家次期当主の雷久保達也たつやだぞッッ!!」



 

 メガネ君——雷久保が怒号を上げたと同時、彼の周囲の空間がざわめき始め……。



 バチッ、バチッ……——ピシャアアアアアッッ!!



 まるで本当に雷が落ちたかのような轟音と共に、何条もの稲妻が縦横無尽に迸る。

 しかし稲妻は雷久保を傷付けることは愚か、まるで彼の指示を待っているかのように周囲を取り巻いていた。

 

「おい内海静!」

「っ!? ひゃ、ひゃい!」


 雷久保に怒鳴られ情けない声を上げる内海さん。——が、彼は気にせず一方的に告げる。


「腹立たしいが、僕達が個で何をしようと奴は倒せん! だから——僕が貴様に合わせてやる! だが、貴様は僕のことなど気にせず全力で異能を使え! 貴様に合わせるなど造作もない!」

「で、でも……」

「いいからやれ! それとも僕の雷を食らいたいか!?」

「く、食らいたくないでしゅっ!!」


 キレ気味な雷久保に脅された内海さんは、涙目になりながら異能を発動させた。



「——き、来て、私の【過保護すぎる盾ガーディアン】っ!!」



 瞬間、先程とは比にならないほどの光量が空間を包み込む。

 今回は流石に目を開けていられず目を瞑る——けど遅かったなぁ!? んぎゃあああああ目がぁああああああ!!


 思わぬ攻撃にしっかりダメージを受けつつ、目の痛みがなくなった辺りで目を開けば。



 ——レイピアを胸元に構えた、細身の騎士が立っていた。



 先程よりはっきりとした白銀に輝く鎧の騎士。威圧感も先程の二体の騎士とは比にならない。

 レイピアは思わず見惚れるほどに美し——もちろん相棒が一番だよ? だから俺から生命力吸わないでね?


 俺はジェラった相棒を宥めつつ、二人に視線を向ける。


 ——極大の雷を従えた雷久保。

 ——強大な騎士を従えた内海。


 どちらもこの前出会った鬼人以上の相手だ。

 この試験に期待してなかったと言えば嘘になるが……まさかここまでの相手に相まみえることになるとは思っていなかった。


 実に。実に——

 





「——斬りがいがあるなぁ……」





 

 楽しい。本当に楽しい。

 

 心が疼き、気分が高揚する。

 全身を巡る血液は燃えているかの如く熱い。


 その一方で、真冬の鉄のように冷たい頭は冷静に状況を分析する。


 二人共これが全力……っぽいな。特に内海さんはしんどそうだし……雷久保も長くは持たない、か。戦術は恐らく騎士で俺を撹乱、不意をついて最大火力の雷を俺にぶち当てる……とかか。なら、俺の脅威になり得るのは雷久保の雷。つまり雷久保の攻撃を防ぎきれば、俺の勝ちは確定——っ。


 相棒の柄で頭を殴る。


 勝ちなんてどうでもいいはずだ。

 どうでもいいはずなのに、ソレを考えてしまう自分が嫌いだ。


 なんて自己嫌悪に陥るのも程々に、相棒を構える。

 

 向こうも結局は一撃に賭けている。

 ならば——こちらも一撃で決めるとしよう。


「——行ってっ!」


 膠着していた状況は、内海さんの声と共に破られ——彼女の号令に従い、細身の騎士が動き出す。


 騎士はタッと軽快に地面を蹴る。

 しかしその軽い音に反し、騎士の動きは速い。


 証拠に、俺の世界でも騎士は確実に俺に近付いている。

 だが、依然として雷久保は動いていない。


 だから——俺も待つ。


 静かに相棒を構えたまま、彼らの動きを視る。

 迫り来る騎士は、俺との距離が縮まるにつれてレイピアを振り被る。


 それは、俺が何もしなければ確実に俺の心臓を穿つだろう。

 幾ら千年の修行で強靭となった俺の肉体でも、人間を遥かに超えた速度に膂力を併せ持った騎士の一撃は耐えられない。


 ——が、防ぐことなど造作もない。


 騎士から雷久保へと視線を滑らせた。

 彼は真剣な表情で俺を見つめ、タイミングを見計らっている。

 

 とはいえ、タイミングはなんとなく分かる。

 恐らくレイピアが俺の身体に触れる——その瞬間だ。

 

 ま、分かったところで別にどうにもしないんだけどね。


 これは断じて舐めプではない。

 どうせ斬るなら、最高の状態で斬りたいだけだ。釣った魚はその場で刺身で食いたい的なアレだよ。


 と考えている間に、レイピアが遂に放たれた。

 音速など優に超えたレイピア切っ先が迫る。



 ——と同時、俺を囲むように何条もの雷が放たれていたのに気付く。



 こうもタイミングがばっちりなのを鑑みれば、雷久保は何らかの方法でレイピアの動きをある程度見切っているのだろう。

 この速度を見切るのに、俺は何年掛かったことか……。


 全く、どいつもこいつもバケモノ染みている。



 ——が、この中で誰よりもバケモノ染みているのは、この俺だ。



 




「——《村正流奥義改:満天》」







 相棒を振るう。


 瞬間——騎士も雷も、迫る全てが斬られた。


 



 まるで——夜空に輝く満天の星々のように輝いて。


————————————————————————

 【補足】

 みんな殺す気で主人公と戦ってますが、春波結の異能【私の世界】の効果で死なないようになっているためです。別にサイコパスとかではありません。

 因みに主人公が殺すとなると、異能ごと断ち切られるので効果はありません。

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