ヒーロー最初の仕事

@sabo527

ヒーロー最初の仕事

 「おい、あまり現場を荒らすなよ!」

 部屋をうろつき回る新米を怒鳴りながら俺は、ホトケに手を合わせて状況を把握する。 密室殺人か。だが、ミステリー小説みたいな本物の密室殺人なんてそうそうはない。どこかに穴が有るはずだ。

 被害者は胸を抉られて死んでいた。ある程度の太さを持った槍のような武器の可能性があると鑑識は読んでいる。 現場はさして荒らされた様子も無く、確定は出来ないが盗られたものもなさそうだ。動機は怨恨か? しかし被害者は両親の財産で悠々の引きこもり。自称研究者としてネットだけを相手に部屋から一歩も出ない生活だったようで、人間関係もほとんど無いと言って良い。

「研究者、ですかあ」 新米刑事がパソコンを覗いて呟く。 「おい、無闇とあちこち触るなよ。と言うか、じっとしてろ」 聞こえてるのか、新米はモニターの画面を睨み続けて返事もしない。

「物盗りではなく、怨恨も無いとなると、動機は何なんだ?」

「その研究、じゃないんですか?」

  いっぱしの口をきく、が、「あのな、ガイシャの研究って何か分かってるのか?」

 被害者は一度警察沙汰を起こしていた。部屋に誰かが侵入したと通報してきたのだ。その際、彼の研究内容とやらも聞き出している。

「異星人の地球侵略に関して、ですよね」 となると、その研究を公表されたくない何者かの犯行もしくは研究内容そのものの奪取を狙った犯行か…言いながら新米は部屋の様子を細かく調べ始めた。

「おい…」たいしたエリートもあったもんだ。本庁から《ある意味》スーパーエリートだと押し付けられて子守をする羽目にはなったが、こうまでお花畑では思いやられる。 「宇宙人の研究が犯行動機ってお前なあ…」 「他に動機が見当たらないんですよね、それに」新米はドアの横に立ち、何故か格闘技の構えのようなポーズを取る。 「被害者は部屋から一歩も出ない生活をしてたわけですよね。それならこの部屋には不自然なものがひとつあります」

「不自然だと?それが本当ならたいした発見だな」

  構えを解かずにドアに寄ると、新米は一点を凝視した。「帽子の架かってない帽子掛け。出掛けることのない被害者の部屋になぜこんなものが…」

  その時。 帽子掛けの尖った先端が突然新米刑事の喉元目掛けて襲いかかった。 青白い閃光が走り、先端は虚しく弾かれる。 「やはり正体を暴かれた侵略者の犯行か!」 新米の体が輝きを増し、銀色のスーツから抜け出したムチのような光線が帽子掛け、に擬態していた宇宙人の全身を包んで拘束した。           



その後のことは皆さんも良くご存じだろう。

スーパー銀河刑事の活躍がニュースを賑わさない日はない。

 俺はというと、あれからすっかり彼のスポークスマンみたいにマイクに向かってその活躍振りを宣伝するだけの立場になってしまった。 新設された《地球防衛課》の課長などという御大層な肩書きだけが俺には残されたが。

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