第4話

ピコン。


スマホが鳴った。DMへのメッセージだ。


差出人は学年1の美女と男子にうたわれている姉小路あねこうじ

関わりは少なかったけど、中学からの同級生だ。


ベッドに寝っ転がってインスタを開く。


「イライくんと明後日の夜、遊びに行けることになった!」


自慢のつもりなのかな。


今日廊下で、「順番に告白する」とか言ってたから

デートに行って意識してもらおうとかそういう魂胆なのだろう。


なんならあの人なら、もうデートの最後で告白するとかいう可能性もあるかな。


そうして、かつ成功すればライバルがなにもする前に勝てるわけだし。

まあ私にはあんまり関係ないけど。


ふと天窓の外に目をやる。

すぐそこに見えるのはペガスス座。ギリシャ神話のペガサスに由来する。


ペガサスは、勇者ペルセウスが怪物メデューサを討った時、

メデューサの血がたまたま生まれ変わって誕生した生き物。


怪物のクジラからアンドロメダ姫を救ったり、キマイラの退治で活躍したり、

その他、若者、勇者たちから引っ張りだこだった。


しかし、大神ゼウスの怒りを買ってしまったペガサスはゼウスが放ったアブに刺され、

苦しみから乗っていたベレロポーンを振り落とし、そのまま天に駆け上がってしまう。


姉小路も仮に成功したとして、

彼氏や恋敵ライバルに恨まれて生活が苦しくなる、なんてことにならないといいけど。


ピロリ〜ン。


また通知がなる。今度はフェイスブック。

今日イライ君と連絡先を交換するためだけにダウンロードした。

ってことは当たり前ながら、差出人は彼。


「土曜日、姉小路さんに動物園に誘われたんだけど、玲奈さんも来ない?」


...伊礼イライ、あなたさては鈍感だな?

っていうか姉小路は動物園に誘ったんだ。結構可愛い選択だな。

まぁ、土曜日空いてるし、せっかくなら彼女の告白、拝見しに行こうかな。


「わかった。行かせてもらうよ。」

送信。


夜空にはペガスス座の二等星、イプシロンが赤く光っている。



「次は、今池です。」


ということで土曜日。

本日のお目当ては名古屋市東山ひがしやま動物園。


高蔵寺こうぞうじ駅で2人と合流し、ひたすら中央線を南下。

昨日事故があった千種ちくさ駅で地下鉄東山ひがしやま線に乗り換え。


姉小路曰く、この路線は全国の路線の中で、

大阪の地下鉄御堂筋みどうすじ線の次に儲かっている路線らしく、

いつもの中央線とは比にならないくらいの激混み具合。


彼女、実は隠れ鉄道ファン。

多分本当はリニア・鉄道館とかそういうところ行きたい人。


女性専用車両に行きたいのは山々なんだけど、

伊礼が気まずくなるので渋々階段から遠い車両を狙って乗り込んだ。


「伊礼くんってさ、普段どんなところに遊びに行くの?」

周りの目があれど、姉小路は容赦ない。


伊礼くん挟んだ奥の男性の方、

背が低いからか両サイドの人に双方から押されて浮いてるっぽいもん。

そんなんだから、当然ながら私達も他の人達に押しつぶされてるのに

よく普通に会話できるね。


「小さい頃イタリアにいたんだけど、イタリアの新幹線的な電車が好きで、

 最近家族旅行とかはいろんな鉄道史跡巡ったりしてるよ。」


おっと、こっちも鉄道ファン、しかもなかなか深そうなヤツだった。

姉小路、乗り換える前だったらリニア館に行けれたのにな。

もうすっかり反対方向に進んでまっせ。


「直近は〜、碓氷峠うすいとうげとか?」

「碓氷峠って、鉄道文化むら!?」


姉小路、声がデカい。


もうこの先の会話は鉄道にそういう系の興味が微塵もない私には理解できそうになかった。

ひとまずそのウスイトーゲってところは割とおっさんが行きそうだなっていう

レトロなタイプのところってのは分かったけど。


「まもなく、東山公園、東山公園、お出口は左側です。」


結局1ミリも会話についていけなかったな。



朝9時、開門。家族連れやカップルなんかが、一斉に歩き出す。


白のシャツにパーカーを羽織った私、

空色のニットスタイルの、私の予想よりシンプルだった伊礼くん、

そして、11月であることを考えたら明らかに季節外れな

ミニスカスタイルの姉小路。


なんで女子って寒いのに平気で足出すんだろうね。

まあ私も女子なんだけど。


入ってサイやらゾウやらの人気どころを始め、

思ったより速いペースで回っていった。


なぜなら、伊礼くんはどうやら解説をじっくり見る派であるもの、

私は考え事をしながらぼーっと眺める派、

で、姉小路がトントン拍子でポンポン回っていくタイプだから。


この人、下手したらどっか消えてる可能性あるからね。


でもレッサーパンダのところは珍しく見入ってたよ。


あとは...ライオンが急に鳴いたのに姉小路と伊礼くんそろってビビってたくらいかな。


それ以外は場の雰囲気に合わせてぐるぐる回った、ただそれだけ。


思ったより姉小路はアタックしてない印象。

でも、ライオンのときとかはカップルみたいになってたかな。


もしかしたら私、来なかったほうがよかったかもね。

でも告白するとしたらそこ見たいんだよな〜。



結局とくに進展なく、1周ぐるっと見終わり、午後5時。

昼ご飯はでっかい展望台みたいなところで早めに食べたから、

そろそろ移動して名古屋駅前で食べようってことに。


伊礼くんがコメダ珈琲店を希望したので駅の中を探そうということに。

なんか名古屋駅の中に3店舗くらいあるんだよね。

なんでおんなじ施設の中に3店舗も入れるのか意味わからないけど。


「埼玉県の越谷こしがやってところにあるイオンモールに

 5店舗くらいスタバが入ってた気がする。

 でっかいところじゃよくあるよくある。」


伊礼くん、これだから私でっかいの嫌いなのよ。

そういえばあのあとも昨日までずっと敬語だったけど

今日は友達みたいに喋ってくれてる。


「ってかホントどこよ?」

姉小路が嘆く。

やっぱりダンジョン攻略って大変だよね。


マップアプリを開いてみる。よくよく見たら直結してるけど

2店舗は駅の外で、駅の中にはエスカ店の1箇所だけっぽいな。


「ここ右に曲がって左手にあるっぽいよ。思ったより近い。」


「マジ?ありがと!」


私達、とくに姉小路は、やっと着いたと、

ルンルンで入店していった。


私達は知らなかった。

コメダはメニュー表の写真より提供されるものが多く、

“逆詐欺”と呼ばれるほどに客を苦しめている(?)ことを。

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