第2話

遅延証明書で遅刻を乗り切り、いつもどおりの学校生活が始まる、はずだった。


どうやら、隣のクラスに転校生が来たらしい。


おかげで、廊下がいつもにまして騒がしい。まるで動物園。


下手したら東山ひがしやま動物園のほうが静かまである。


いつも話す親友の凪咲なぎさまで行っている。

あの子も普段は静かなんだけどね。


あ、噂をしたら戻ってきた。

「玲奈!転校生の子、めっちゃイケメンだよ!」


その瞬間、私の目は覚醒した。


「えっ!?白馬の王子様!?」


「玲奈、ファンタジー恋愛小説の見すぎだよ。

 でも、白馬じゃないけどめっちゃカッコいいよ!」


その言葉を聞いて、私は教室を出る。いや、出れない

廊下は朝のラッシュよりぎゅうぎゅう詰め。


山手線とかこんな感じなのかな。


窓ガラスを必死に観察し、うまく反射で見れないか試してみる。

義務教育いわく、反射の法則上、入射角と反射角は等しいから、

人だかりの先頭からガラスに補助線をひいて....、

ほら、いつも星を繋いで星座をみるみたいに、

心に線を引けばいい話、


「できるか!」


流石に条件が違いすぎた。これだから人口密度高いの嫌い。

将来は絶対郊外の田舎町に住もうと思う。


愛知県内なら、瀬戸せと市とか、田原たはら市とか、新城しんしろ市とかがいいな。

星を見ることに全振りすれば、いっそのこと設楽したら郡のあたりもいいかも。


「ごめんなさい〜。トイレ行くのでどいてください〜。」


なんかここらへんでは聞き慣れないだなと思ったそのとき、

確かにイケメンが通過していった。

後ろ姿を見る限り、多分国外の血が入っているんだろう。


すかさず凪咲に聞く。

「あの子がその白馬の王子様?」

「だから、髪の毛は茶髪だけど、そうだよ。」


聞くところによれば、父がイタリア人の多言語話者らしい。

それでホームルームでイタリア語とフランス語と英語と日本語で自己紹介をして

向こうのクラスの担任を困らせたんだとか。


本人も多言語話者か...。すごいな。


でも、やっぱり惹かれない。残念。

いつになったらちゃんと恋愛できるんだろう。


そんなとき、あんまり聞きたくない会話が耳に入ってきた。


「ねえ、私あの子好きなんだけど。」

「え、待って。私も。」

「もしかして、みんな一目惚れ?」

「「「「うん。」」」」


私の他の一軍女子たちの会話だ。


「クッソ。今日来たばかりのヤツに負けた...。」

「欧風美男子はまぁ新鮮だし、ちょっと仕方ない部分もあるじゃないの。」

「その分差し引いても悲しいというか、悔しいけどな。」


これはそいつらの彼氏たち。絶賛撃沈中と思われる。


「よっしゃ、アイツらそのうち別れるぞ。」

「こりゃ嬉しい限りだな。」


これはこの学校にある謎集団、「リア充撲滅委員会」かな。

リア充撲滅はともかく、人の不幸を喜ぶのはどうかと思うけど。

度が行き過ぎると世間から嫌われっぞ〜。


「ねぇ、誰かに取られちゃう前に告白したほうがいいよね?」

「多分学年の女子3分の1は一目惚れしてるだろうし。賛成!」

「私達全員恋敵こいがたきなのに恋愛相談するって馬鹿じゃないの。」

「いっそのこと、来週、みんなで順番に告白してってみる?」

「「「「なんていうゲーム!」」」」


どうやら盛り上がっているようで。

でも本当にやるとしたらデカい話題の種になってくれるな。

凪咲といっしょに追ってってみようかな。

「ねえ凪咲、」

「あ、今日移動授業ばっかだし、トイレ行っとこ!」

先手をつかれちゃった。まあ確かにそうだし、行っておくか。

あとで理科室行くときにでも話そう。



僕は塚本伊礼イライ


イタリア人のお父さんが俗に言う転勤族で、

2日前、名古屋で仕事をするために高蔵寺こうぞうじに引っ越してきた。


多分、今回も2ヶ月もすれば引っ越すことになっちゃうんだろうな。


お母さんは日本人だけど、母方のおじいちゃんがフランス人で、

そのおかげで僕は4か国語を話すことができる。


あと、高身長ってだけで、ヨーロッパではモテなかったんだけど、

5年前初めて日本に来て以来、女の子にモッテモテ。


嬉しいけど最近ちょっとうざったくも感じてる。

だって、お父さんがエンジニアで、副業で資産家やってるんだけど、

それを知った瞬間、これまでの彼女みんな血相を変えて、

デートが遊園地とかからショッピングに変わるんだもん。


日本は貯金が主流で、子どもたちにも一旦貯金を教えるから、

お金を働かせて後に増やして回収する、「投資」って考え方がないんだろうね。


日本は年の始め、「おとしだま」ってお金をたくさんもらえるんだから、

それ貯めて投資すれば割と増やせると思うんだけどな。


今日新しい学校に来たんだけど、やっぱりモテちゃったね。

男子諸君は羨ましいのかもしれないんだけど、

女の子の財布になるのはまあまあキツいんだよ。


次引っ越したときに遠距離恋愛になると大変だから、

もとから誰かと付き合うつもりはないんだけどね。


ひとまず、朝のホームルームで先生からいろいろ紹介を受け、

ひとまずトイレを探そうと廊下に出たんだけど、すごい人だかり。


東京の高輪たかなわに居た頃の通学を思い出すな。


どうするか迷ったんだけど、トイレ行けないのは嫌だから

一旦通してもらってトイレを探す。けど見当たらない。


さっきの人だかりのところで聞いておけばよかったな。


「 Excuse me, what are you looking for? 」

後ろから突然話しかけられる。

日本の人は仕草から困っていることに気づき、助けてくれるから嬉しい。


「 Thanks. 日本語で大丈夫です。トイレはどこですか?」

「あぁ、ごめんなさい。そこ左に曲がった先にある階段の奥にあります。」


「どうもありがとうございます。お名前、お聞きしても?」

「松崎玲奈といいます。こっちは友達の凪咲ちゃん...っていない!?

 ごめんなさい。あの子人見知りなもので...。」


「いえいえ。わざわざ声をかけてくださり、ありがとうございます。」

そう伝えると、彼女は会釈をして走っていった。

その時、僕はこころの中でなにかが生まれたような感覚があった。

「 Is this....love? 」


...ひとまず授業あるし、トイレを済ませるか。

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