第4話 適性試験①
「うぉーなんだこれ! ニャハハハハ! めっちゃスース―する!」
ギットとは近所のため、うちの前で待ち合わせて、試験会場であるこの町の新校舎へ向かうことにした。
俺は開襟の半袖シャツにゆったりとした長ズボン、ギットは甚平のような袖の短い羽織にステテコパンツといった装いだ。
ちゃんと注意事項の通り、白い薄い布のものだし、下着もはいていない。足下はふたりともサンダルだ。
長い冬を終えた新緑の季節とはいえ、この服装ではちと肌寒い。 下着もはいていないし。
「それにしてもよ、こんな格好で行う適性試験ってのはどんなもんなんだろうな? ただの身体測定だったりしてな」ギットが言う。
筆記試験に関しては十分な対策をすることができた。ベスのお父さんが城の本校の知り合いから情報を集めてくれたからだ。しかし適性試験の内容は本校の人でも知っている者がごく僅かに限られているらしく、情報を得ることができなかった。
町を東西に流れる川を右に見ながら、俺達はその流れに沿って道を歩く。
時計台の広場を通り過ぎて少し行くと、西の石橋がある。昔からこの町にあるしっかりした造りの石橋で、台風や増水があっても壊れたことはない。逞しい親しみが勇気をくれる。
そして新しい葉をつけた木の枝にとまって鳴く小鳥の声は、緊張した俺達にエールを送ってくれているかのようだ。
いや、ギットは緊張していないか……なんだか妙に楽しそうにしているようだし。
石橋を渡ってすぐ、真新しい赤い煉瓦造りの建物が見えてきた。 試験会場だ。
賢者学校の紋章が扉の上の壁面に刻まれている。
指定された教室のブリキのドアを開けると、既にトラムとベスとサラが来ていた。
やはりあの注意事項のせいか、トラムとベスはギクギクと、サラはシャクシャクとして気まずい雰囲気がたちこめていた。
意識しないわけがない。俺達は健全な十代だ。
服装については絶対に触れないでおこうと心に決めた時だった。 ギットはサラを見つけると唐突に
「おはよう、サラ! 注意事項読んだぜー。あのさ、おまえもその下ってやっぱり」
「ちょっと何よ⁉️ じろじろ見ないでくれる? ヘンタイ!」
サラはギットの言葉を遮り、赤面してぷいっと顔を背けてしまった。
そりゃそうだ、いくら幼馴染みとはいえ直球すぎるだろ。
サラの服装は、ストンとした薄手のワンピースに、踵の低い甲の部分が紐で編まれたサンダルだ。それ以外には何も纏っていないため、身体のラインがはっきりと分かってしまう。そういえば、最近はジャケットやベストなんかを着ているところしか見なかった。軽装のサラを見るのは久しぶりであり、なんというか
「あいつ、育ったな! ニャハハハ フゴ……」
俺は咄嗟に無礼者の口を手で塞いだ。
これ以上は危ない。試験前に揉め事はごめんだ。
——いや待てよ、もしや
試験は既に始まっているのかもしれない。例えば、このような特殊環境、誘惑があったとしても、影響を受けずに落ち着いていられるかを試しているとか。その可能性はある。うむ、やっぱりじろじろ見たりしてはいけないな……
などと思案していると、教室のドアが開き、女性試験管がツカツカと入ってきた。
高いヒールを履き、メタルフレームのキラリとした眼鏡をかけている。
「ハイ、みなさんお待たせしてゴメンねー」
そのうしろから補助官の男性が台車を押してきた。そして教壇が置かれるであろう位置(まだない)まで来ると、そこで停めた。
受験生達は台車の上の物体に注目した。
人の頭ほどの大きさの球体がある。
紫色の布で覆われているが、おおよその形は分かる。下の部分が膨らんだ卵型だ。恐竜の卵といった印象がぴったりだ。
メタルフレームの背すじの伸びた試験管は、俺達に台車の側に来るように促した。
全員が集まると
「えーコホン。本日の適性試験ではコレを使います」
と言って、その細く長い指で紫の布を取りあげた。
「わっ」
外から教室に入っていた光がその物体に反射し、まばゆさに目が眩んだ。
おそるおそる目を開けて、もう一度物体を見てみる。
するとそれは青々と輝く水晶だった。
中には一匹のくじらが泳いでいた。
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