第3話ロフトにて

どうにも思い出せない志望理由の話題をはぐらかし、俺はティータイムを満喫することに専念した。

フレッシュな紅茶と香ばしいセネアの実のビスケットに癒される。ベスのお母さんの手作りは格別だ。


そこにもうひとりの受験生がやってきた。


「はいるよー」


ガチャリというノブの金属音とともに、数枚の書類を小脇に抱えた少女が一階の書物庫に入ってきた。


サラだ。


長い髪を梳くように手を当て、少し落ち着かない様子である。

丸い目をきょろきょろさせて室内を見渡し、鼻で一瞬息を吸った。何か異常のないことを確かめるかのように。


「え! サラ!? おいおいおい! 女子禁制! 女子禁制!」


急な来訪にギットが慌てる。


「む、なによ。君たち何か変なモノでも隠してるわけ?」


「いや、そういうわけじゃないけどよ……ノックくらいしろよ」


ギットの顔は赤くなっていたが、斯く言う俺も少し汗ばんでいた。

ここは俺達男子の隠れ家だ。一応。


「サラ、どうしたの?」トラムがきく。


「これよ、これ。明日の適性試験の注意事項のプリント。君達すぐ帰っちゃったから。試験管が渡しといてって。持ってきてあげたの」


と言うがそれきり、サラはロフトには上がってこない。


少しの沈黙。


階段に一番近いところに座っていた俺は、受け取るために書物庫に降りた。するとサラは人数分のプリントを俺の胸に押しつけた。


「じ、じゃあ渡したからね。ちゃんと読んでおくのよ、また明日ね、バイバイ」


サラはそう言うと、目も合わせずそそくさと小屋を出ていった。


「サラちゃんなんか変だったね、どうしたんだろうね」ベスが言う。


俯き加減で少し恥ずかしそうにしていたのが気になったが、俺はロフトに戻り三人にプリントを配った。


サラは俺とギットと同い年で、幼い頃からずっとこの町で一緒だ。よく隠れんぼや鬼ごっこ、悪戯なんかをしたものだ。いや、悪戯をしていたのは主にギットで、俺やサラは専ら一緒に謝ってあげてただけか……。しかし十代になると、なんとなく男女の距離のようなものが現れ、サラはこの男ばかりのロフトに入ったことはない。


それにしてもサラも賢者学校を志望するとは思わなかった。家業の宿屋は継がないのだろうか。やっぱりこの田舎町の宿屋より都会の城で働きたいのかな。などと考えつつ、渡された明日の試験の注意事項に目を通した。


なになに……


・食事は試験開始の2時間前までに済ませてくること

・体を清潔に洗ってくること

・装飾品の着用は不可

・服装は白無地の薄い布素材のもののみ


どういった趣旨かは分からなかったが、フムフムと俺達は読み進めていった。しかし最後の項目を見ると、サラのあの態度の理由が分かった。


・下着の着用不可

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