第4話

エルフが長寿命なのは皆さんご存知のこと。

だから、幼少期なんてあんまり覚えてないわけで…。

いきなり少女になりきれって言われたらできると思う?

「そこのうさぎに聞いたと思うが、電卓界は今危機的状況にある」

王の声がガラスの城に響き渡る。

ここにいるのは、魔法少女と化したエルフと、うさぎに変装した美青年と、ショタ顔の王。

なんだかカオスだ。

「君には危険な旅に出てもらう。それでも大丈夫か?」

大丈夫か?じゃないし。

半強制的に連れてきたでしょ。

王は頭の上の王冠を整え、私の返答を待っている。

強制力のある赤い瞳は、世界を治めるのにうってつけに見えた。

「は、はい!ちょっと怖いけど、めいいっぱい頑張ります!」

これ、模範的な解答じゃない?

私の身を削った回答。

肝心なサスペンダーうさぎは、そっぽを向いていた。

なんなんだ、コイツ。

世界救う気ある?

これ以上話す必要がないと感じたらしき王は、椅子の肘掛け部分を撫でる。

「下がって良い」

王が指令を出すと、ガコン、と足元が揺れた。

ガガガガ…。

地割れのような音を響かせながら、もう一度、ガコン!と大きく地面が揺れた。

「わっ!」

堪えきれずうさぎと共に倒れ込んだ。

私たちが立っていた長方形の足場は、ほかの地面より20センチくらい下がっていた。

そのまま私たちを乗せたガラスの足場は下へ下へと下がっていく。

下がって良いってそう言うこと?

物理的に下がるの!?

景色が下から上に流れていくのを見ながら、ショタ顔の王を思い出していた。

なーんか、王様、思ってたのとはちがった。

なんか髭がふさふさで、おーふぉふぉみたいに笑うかと思ってたんだよなぁ。

ていうかなんか、案外話短かったし。

「お、重い…」

不意に下から声が聞こえた。

下を見ると、私の膝がうさぎの胴体を踏みつけていたのだった。

案外、気がつかないモノだ。

「ごめ」

短く謝り、立ち上がる。

「ごめ、じゃない。ごめんね、もしくはごめんなさいだろ」

王の監視から外れたうさぎは、青年口調に戻っていた。

ごめんね、アリなんだ?

「ごめんね」

ガラスの城に「ごめんね」が響く。

うさぎは一回ゆっくりと頷いた。

「よろしい」

息子にうさぎ役をやらせるロリコン親父もおかしいし、この王子もおかしい。

一番下の階に着いた時、静かに長方形がくぼみに着地した。

開け放たれた色付きガラスの重厚な扉は、城下町へと続くまっすぐな街道を示している。

「じゃあ、変身、お前も解いていいぞ。街でちゃんとした装備でも買おう」

うさぎがてくてくと角へと歩いていく。

胡散臭いうさぎより口の悪い青年の方がマシだ。

安心感がどっとくる。

一旦ロリータ服とはおさらばだけど、戦う時にはまた必要なんだろうな。

リボンの中央の宝石を二回押すと、歯車が回るような音がした。

ロリータ服がリボン状になり、スルスルと宝石の中に入っていく。

手の中に残った宝石をポケットに入れて、城を出た。

ふわぁ、と柔らかい光が私の頭を撫で、足元で数字が弾けていく。

ぴっかーん。

やる気のない効果音が聞こえた方を見ると、世界中の女という女を虜にするであろう青年が立っていた。

「……」

青年はよっぽど疲れていたのか、無言で街道を歩き始めた。

私もその後に続く。

かわいそうに、ロリコン親父のせいで…。

隣にいるのもロリコンだけど…。

しばらく歩いていると、青年が口を開いた。

「そういえば、名前は?」

「ん、名前?」

「聞いてなかったな、と思って」

名前を聞いてくるのが、なんだか礼儀正しい、気がする。(?)

「無いよ」

ぴちゃん。

青年が音を立てて止まる。

「え?」

「名前、無いよ」

私が復唱すると、青年は信じられない、というふうに目を見開いていた。

全くもって、綺麗な目をしている。

「名前は千年前から探しているよ。全くもって見つからないけどね」

私は青年を追い越す。

私の足元で、『1+5』が弾けた。

いくら意地悪でも構ってくれるか、と思っていたけど、青年の反応は私の予想に反するモノだった。

「そうか…名無しの権兵衛か」

「は?」

私、権兵衛じゃないし。

なんか、あれなんだよな、もっとしんみりしたかったんだよなぁ…。

「名前がないことを、人間界ではそういうんだよ」

お前の方が権兵衛だよ。

青年は意地悪そうに笑うと、数メール先の赤い屋根の家を指差した。

……冷たいヤツ。

許せない、ショタ顔でもないくせに…。

そのくらいで流された方が、良いのかもしれない。

「あそこが装備屋だ」

「私、千年以上生きてきたから。舐めないでよね」

「ここら辺の装備は俺の方が詳しい」

この街で10年くらい休んでも世界壊れないよ、きっと。

未来予知出来ないけど。

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