第2話 眩しすぎる屋敷と歓迎
ベルナルディ伯爵家の馬車に乗り、王都の上層区へ向かう道は、ターニャにとって別世界だった。
石畳は磨き上げられ、道の両脇には噴水や花壇が続く。窓から見える街並みは、まるで絵画のようだ。
やがて、巨大な白い門が現れる。金の紋章が彫られたその門が、ゆっくりと開かれた。
――ベルナルディ邸。
見上げるほど高い大理石の柱に、陽光を反射するステンドグラス。
壁は純白の大理石、廊下には深紅の絨毯が延々と敷かれている。
吹き抜けの天井からは、無数のクリスタルのシャンデリアがきらめいていた。
ターニャは息を呑む。目に入るものすべてがチカチカと眩しい。
指先に触れる空気すら違う気がして、身をすくめた。
た。
「まあ、あなたが……」
穏やかな声に振り向くと、豪奢なドレスをまとった女性が立っていた。
金糸を織り込んだ青いドレスに、首元には大粒のサファイア。白金の髪を上品にまとめたその人はエリザベートと名乗った。ターニャの継母となる人だ。
「……お迎えのご挨拶が遅れてごめんなさいね。まさか、あなたのような子を引き取る日が来るとは思っていなかったもの」
柔らかな微笑のはずなのに、言葉は刺さるように冷たく感じた。
その後ろから、二人の女性が現れる。
一人目は長女のアナスタシア。
月の光のように白銀の髪をゆるく編み、濃紺のドレスを身にまとっている。すらりとした体躯と涼やかな青い瞳。立っているだけでピンッと空気が張りつめるような気品があった。
「庶子でも、うちの家名を名乗る以上、立ち居振る舞いを覚えてもらわないと困るわね」
もう一人は次女のセレスティーヌ。
ピンクがかった金髪をふんわりと巻き、レースの多い白いドレスを着ている。ぱっと咲く花のような明るい笑顔……のはずが、その口調はどこか棘があった。
「ふ〜ん……思ってたより可愛いじゃない。でもそんな服じゃ、まるで下女ね? そんな粗末な服すぐにでも着替えさせないと」
継母たちの言葉と、自分とのあまりにもの違いにターニャの胸がきゅっと縮む。
母を亡くした寂しさに加えて、知らない家、知らない人。華やかすぎる世界の中で、自分だけが灰色に霞んでいくように見えた。
「ごめんなさい……お邪魔して、すみません。これからよろしくお願いします」
俯いたターニャの声は小さく震え、涙が自然と浮かんできた。
そのとき、セレスティーヌが眉をひそめて言った。
「何それ、謝ることじゃないでしょ。……そんな声の小ささじゃまるで野ねずみみたいじゃない」
アナスタシアは冷たく見える微笑みを浮かべて、静かに言葉を添える。
「泣くなら人目のない場所になさい。貴族の娘は、涙なんかで自分の立場は守れないのよ」
耳に届いたのは、まるで冷たい刃のような言葉。ターニャは、これからの生活への不安で胸が押しつぶされそうだった。
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