第19話 新たな家族

耕太があそこに行って何をしようとしていたかは結局わからなかったのだが、それをきっかけに物事が動き出した。


まずは、ちょうど空き物件になっていたあの家を共同で購入し、これまで通り二家族で住み続けることにした。都心の便利さからは少し離れてしまうが、広さ的にはこれまでとほぼ変わらず、快適に暮らすことができる。そして一戸建てなので小さいながらも庭で花や草木を育てたりということもできるようになった。


そして住まいを都心からやや離れたところに移したのをきっかけに皆会社を辞めた。そして新たに自分たちの会社を起こし、ペアファミリーで住むことの利点を日本中の皆さんに共有している。住居はこの法人名義になっていて、相続時の面倒を避けると共に、節税対策にもなっている。


仕事は、大人4人それぞれの立場で見たペアファミリーを綴ったブログから始めたが、それが結構ウケて、その内容を本にしたり、講演会をやったりと、日々結構忙しい。それでもまだ4人で手分けすればなんとかなるレベルで、あまり仕事を増やし過ぎず、普段の生活とうまくバランスをとってやっている。


それから、大人のペアに関して。子ども達への影響を考えて4人で相当悩んだが、最終的には実情に合わせて正式に組み直すことにした。どう説明するかも議論を重ねてから彼らに伝えたのだが、沙耶からは「知ってたよ。いつ言ってくれるのかと思って待ってた」と言われ、拍子抜けした。


なお、苗字は菜穂子と奈緒のみが変わり、子ども達は学校の問題もあるのでそのままとした。ただ同じ家に住み続けているのでこれまで通り実の母親とも毎日顔を合わせることができる。


そしてもう一つ変わった点があった。こちらに越して来てからまもなくして新一さんのお父さんが亡くなった。突然倒れてそのまま帰らぬ人となったのだが、あまりに急なことで家族全員が喪失感を感じた。元弁護士だったこともあり、住宅購入や法人登記の手続きで色々とお世話になったのだが、その恩を返せないままになってしまった。会社が正式に発足してそのお礼をさせてくれと言った際に「わしはいいから、その分、子ども達に時間とお金を使いなさい」と返されたことを思い出す。


これを機にお母さんに同居を勧めて見たのだが「せっかく静かな暮らしが手に入ったのに奪わないでよ」と言われてそのまま昔の家に独りで暮らしている。まだまだ介護など必要なく元気に日常生活を送っているのでしばらくはこのままで良いのかなと思う。何かあれば誰かがすぐに飛んで行けるし。


それから思いがけないサプライズ。奈緒が妊娠した。以前ペアを入れ替えたときに「子どもは作らない」と決めていたので堕ろすことも考えたのだが、皆に逆に説得され産むことになった。生まれるのはまだ少し先で性別もわかっていない状況だが、家族に新たなメンバーが加わることを考えるとちょっとワクワクしてくる。


そして、今日。秋晴れで抜けるような青空。お父さんの月命日でお墓参りに行こうとしている。お母さんも先ほどからやってきている。さあ出ようかという時に奈緒がこちらに訊いて来た。


「慎司さん、私ちょっと体調が良くないので、家でお留守番でもよい?」


「ん、そうか。今はちょっと大事にしないとだからな」


「慎司さん、そんなこと言ってないで、万が一のことも考えてあなたも家に残って」


「そうだよ、親父の墓参りはそちらの分も合わせてやってくるから」


「菜穂子と新一さんが口を揃えてがそう言うなら、お言葉に甘えてそうさせてもらおうかな」


引っ越したのをきっかけに購入した8人乗りミニバンに乗って我々以外の家族は出かけて行った。


「さて、俺はちょっと庭の片付け物をしちゃうから、奈緒は上で寝てたら」


「うん。でも、慎司さんも一緒に」


「え、だって具合悪いんだろ」


「うん、だって最近忙しくてご無沙汰だったでしょ。慎司さん欠乏症なの。妊娠してから怖がってあまりしてくれないし」


「んー、もしかしてそのためにお墓入りをスキップしたの?」


満面の笑みを浮かべながら、


「お父さんなら『わしのことはいいから、慎司さんとの時間を楽しみなさいっ』て言うと思う。」


と答える。絶対に訊けないけど、訊いたら本当にそう言いそうだ。


奈緒に手を引かれ二階の寝室へ。カーテンを引くが、外の光が窓との隙間から入って来ていて部屋は全体的に明るい。


「明るいね」


そういいながらお互いの服を一枚ずつ脱がして行く。奈緒のお腹はまだ全然目立っておらず、そう言われなければここに赤ちゃんがいるなんてわからないだろう。


ふと視線を感じてそちらの方を見ると、写真立てがあった。沙耶が奈緒の妊娠祝いにくれたものだ。そこに、お父さんも含めた9人の家族が写った写真が入っている。気になって、それを伏せようとすると、奈緒に制された。


「いいじゃない、別に見せて恥ずかしいものじゃないし。家族なんだから」


そう言うと、白い腕を俺の腰のところに巻きつけて来て、そして熱いキスをした。


(完)

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ペアファミリー法 沙凪シオン @sandie

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