第12話 土下座の告白
「本当にゴメン。この埋め合わせは次回に絶対するから」
「ん、専務からの呼び出しじゃ仕方ないよ。逆にこっちを優先させたらわたし怒っちゃう」
今日は六本木のイタリアンで彼女の誕生日を祝うはずだったのだ。最近は少しこの生活にも慣れてきていて、こういった近場で会うこともたまにある。ただ今日は、企画会議が急に入ってしまってドタキャンになってしまった。
「じゃ、悪いけど定時で先に帰っちゃうね」
奈緒からのメッセージに「わかった。また夜に」と返してLINEの画面を閉じる。
会議は思ったよりも早く終わり、8時過ぎにオフィスを出られた。こんな事なら予約を遅くするだけでよかったのかもしれない。そう思うと少しイライラしてきて一杯引っ掛けて帰りたいが、まあ今日はまっすぐ帰ろう。
家に着き、リビングまで来て「ただいま」というと、テレビを観ていた皆が一斉に振り返る。あれ、なんか雰囲気がおかしい。特に大人たちの表情がなんとなく硬い。奈緒はああ言ってたけど、実は機嫌を損ねていたのかも。でも、それで他の2人がつられてそうなると言うのもおかしい。
「さ、慎司パパも帰って来たことだし、そろそろ寝る時間だよ」
新一さんがテレビを消す。翔太が「えー」と言うが、大人たちの有無を言わさぬ感じにそれ以上何も言えない。沙耶が「おやすみなさい」と言って自分の部屋の方に戻って行くと、他の二人もそれに続いた。
着替えのために上の部屋に行こうとすると、奈緒に呼び止められた。
「大人4人で話があるの。着替えたらすぐに戻ってきて」
え、なんだ、なんだ。もしかして何かバレたか?
急いで着替えて、一つ深呼吸をしてから、ゆっくりと階段を降りた。
それぞれ俯向き加減で黙ったままの3人がダイニングテーブルを囲んで座っている。俺が来たのに気がついた奈緒が「ここに座って」と自分の横の席を顎で指し示す。こちら側が被告席って事か。奈緒は立ち上がりリビングとの間の戸を閉める。
正面に新一さん、その隣に菜穂子。よく見ると新一さんの手が細かく震えている。何もかも知られたのであれば怒るのは当然だと思うが、暴力沙汰になるのは避けたい。
しばらく沈黙が続いた後に、菜穂子が「えーと、」と話し始めた途端に新一さんが立ち上がる。そして、テーブルの横に移動したかと思ったらいきなり土下座をして、
「大変申し訳ありません」
と言ったまま動かなくなった。
こちらがあっけに取られていると、奈緒が話し始めた。
「わたしね、わたし見ちゃったの」
「え、何を」
「おふたりが一緒にいるのを」
「おふたりって?」
「そこの、、」
「ああ。え、どこで?」
「わたしの寝室で」
「へ? あ、あの、そういうこと?」
「はい、そういう事」
「はぁ」
菜穂子がすすり泣き始めた。そして、新一さんも半分鳴き声になりながら、
「もーじわげ、ありまぜん」
と頭を床にギリギリと擦り付けた。こちらは居たたまれなくなり、
「新一さん、お願いですからやめてください。それよりも、どういう事なのかをお話していただけますか?」
新一さんはようやく顔を上げ、ふー、と大きく息をつくと正座したまま一気に話はじめた。
「あの、最初は普通にお話するだけだったんです。リビングとかダイニングとかで。で、菜穂子さんって、こちらが話すことを素直に、そうですね、そうなんですね、って聞いてくれて凄く気持ち良くなっちゃって、それでどんどん話すようになって、そしたらなんか素敵な人だななんて思うようになっちゃって、それでどんどん好きになっちゃって、あ、済みません、慎司さんの奥さんなのに…で、でもそういうことで、それで、二人でたまたま家にいるときに、なんか魔が差したというか、思い余って思わずギュッと抱きしめてしまって、そしたら菜穂子さんもギュッとしてくれて、それで頭がパーっとなっちゃっいまして、それで、まあ、こういうことになってしまいましたて、あ、あの言い訳がましいかもしれませんが、決して魔が差したとかそういうことではなく、遊びとかそういうのでもなく、本当に菜穂子さんの事を愛してまして、あ、ごめんなさい、慎司の奥さんなのに…、で、でもそういう事で、例えば料理とかとても上手で、家事とかもテキパキこなして、もう今までこんな事なかったからなんか素敵な人だなぁと思って、話しもいつまでもハイハイって聞いてくれますし、もうなんか、こんな事なくってもうこの人のためなら死ねる!とか思って、それでこんなボクを受け入れてくれるなんて、もう女神様みたいな人だなぁと思って…」
「新一さん!」
菜穂子がそこで割って入った。新一さんはビクッとなり、背筋を伸ばして菜穂子の方を向く。チラッと奈緒の方を見るとちょっとイライラしている様子。まあそうだよな。
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