2話-選択肢

【機密文書:古異庁内部資料 404-交通-17号】

 発生日:20██年██月██日

 発生場所:東京都██区

 内容:午前██時██分頃、一般路線バス(乗員・乗客計23名)に対し、

    対向車線を走行していた大型貨物車が進路を逸脱、正面衝突。

    衝突後、両車両とも炎上。現場にて死者13名、重軽傷10名を確認。

 特記:現場にて死者の蘇生反応および在来存在妖異との干渉反応を確認。

 備考:貨物車運転手(死亡)は身元確認済。

    死亡原因は心臓疾患による心停止と推定。

 報告:現場処理は404部隊が即時対応。

    生存者の遠野朔に在来存在との接触痕及び憑宿つきやどへの変化を確認。

    当該人物を「対象A」とし、一時的に拘束。

 ---


 目を開けたとき、そこは真っ白な部屋だった。

 消毒液の匂いが、息をするたびに肺を刺す。

 壁にかけられた時計の音だけが、やけに規則正しく響いていた。

「……病院、か?」

 そう思った瞬間、違和感が刺さった。

 窓がない。

 部屋の四方は白い金属のような壁で覆われ、

 天井からは監視カメラの赤い光がこちらを見ていた。

「目が覚めたか」

 低い声。

 扉が開き、スーツ姿の男が入ってきた。

「ここは……どこですか」

「ここは古異庁こいちょうの医療室だ」

 古異庁?そんな庁聞いたことも無い。

 男は無表情のまま、朔の目を覗き込む。

 その視線は医者のようでも、尋問官のようでもあった。

「事故の記憶はあるか?」

「……トラックが、突っ込んできて……それから――」

 朔は言葉を飲んだ。

 脳裏に、フードの子供…いや助けれてくれた妖異の声が浮かぶ。

『よし、なら助けてあげよう。ただし、衣食住は用意してよ?』

 あれは夢ではなかった。

「……あなたたちは、何者なんですか」

 男は問いには答えず、静かに机の上にファイルを置く。

 表紙には「機密文書:古異庁内部資料 第404-交通-17号」と記されていた。


「対象A――遠野朔。

 事故現場にて死亡後、蘇生反応および在来存在との干渉痕を確認。

 現在、生体活動は安定。だが……君の中に別の存在が共存している」

 朔は息を呑んだ。

 男は続ける。

「悪魔――いや、妖異と呼んだ方がいいか。

 我々は、妖異と共存する者を憑宿と呼んでいる。

 さて、憑宿の君に二つの選択肢がある。

 今すぐに殺されるか我々の仲間になるかだ。

 だが我々も非情では無い、猶予を一週間あげよう。

 その間、君の全ての行動は監視される」

「監視……?」

「安心しろ。下手な行動をしなければ一週間は君には接触しない。

 ただし、一週間を過ぎれば再び拘束し答えを聞かせてもらう」

 その言葉に、背筋が冷たくなる。

 まるで生きているのではなく、生かされているような感覚。

 男が退室すると、部屋に静寂が戻る。

 次の瞬間――部屋から謎の白い煙が噴射され再び朔は気を失った。


 

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虚無に非ず 朱色 @-vermilion-

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