ウザ絡み後輩と、江の島の夕日

のら坊

第1話:江の島小景

ウザ絡み後輩と、江の島の夕日


第1章:江の島小景


 江の島大橋の手前まで来ると、日はだいぶ傾いていた。橋を渡って島の西側まで行くには、もう時間が足りそうになかった。


 西浜の方でもよかったけれど、ひとの少ない静かな場所で、座って話せるようなところはあっただろうか。カップル向きの場所なんて、今まで考えたこともなかった。


 ソウヤはいったん東浜に出て、江の島大橋沿いを江の島方向へ歩いた。橋がくぐれるくらいの高さになったところで、西側へ抜ける。江の島大橋の西側には、ほんの少しだけ砂地があって、際の部分はコンクリートで固められていた。


 その先は海。江の島大橋の根元まで続く水面の向こうに、西岸が見える。そして、その先に沈みかけた夕日があった。


 空には筋状の雲が浮かび、夕日がそれに当たって、きれいな色に染まっていた。空はオレンジではなく、だんだんとワインレッドに染まっていく。静かで、幻想的な時間だった。


「キレイ」カホが言った。


「そうだね」ソウヤは返す。


 月並みな言い方だけど、青春の1ページ的なできごととして、ソウヤとカホ、それぞれの記憶に刻まれていくのだろう。


 夕日はあっという間に沈んで、気がつくとあたりは暗くなっていた。足元も見えないほどで、コンクリートから砂地に降りる場所もおぼつかない。ソウヤとカホはスマホのライトを頼りに歩き出す。


 暗かったので、ソウヤが「手、つなごうか」と手を差し出すと、カホは少しためらいながらも、その手を取った。


 さっきまで威勢のよかったカホと、今の照れているカホ。どっちが本当のカホなのか。


――まあ、どっちもカホなんだろう。


 砂地を江の島とは反対側に向かって歩き、江の島大橋に戻ると、カホは安心したのか、いつもの調子に戻った。


「あー、写真撮るの忘れたー!」


 叫んだかと思えば、


「センパイ、ちゃんと言ってくださいよー!」


 と人のせいにする。元のカホに戻ったようだった。


「また来ればいいじゃん」


 ソウヤが言うと、少し間をあけて、カホは言った。


「今回は江の島に行けなかったから、次は予定空けておきなさい!」


 威勢のいい返事。でも、ソウヤの方から次のデートを切り出したことが、少し嬉しそうだった。

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