第16話 朝霧のマンションへ
頬を膨らませ朝霧は不満顔で俺を見る。
「私、帰る」
「遊びに行くんだろ?」
「九条は皆と一緒に行けばいいよ。私は帰る」
顔を横に向けて、朝霧は足早に歩いていく。
その姿を呆然と見ていると、瞬時が腕を掴んできた。
「すぐに謝ってこい」
「そうだな。宗太が悪い」
「え? 俺は何もしていないだろ」
「九条君はわかってないなー、とにかく結奈を追いかけてあげて。俊司君と慎君は私と一緒に遊んでるから私達のことは気にしないでね」
慎の隣に並び結衣は穏やかに微笑む。
葛西と出遭ったのは偶然で……でもそれで朝霧が不機嫌になって。
やっぱり俺が原因だよな。
俺は身を翻し片手をあげる。
「とにかく追いかけるよ」
「俺は応援しないからな」
「宗太、ガンバー!」
「二人になっても、襲っちゃダメうよ。女の子には優しくね」
俊司、慎は思い思いの言葉を投げかけてくる。
からかっているのだろうが、神楽、俺のことを獣みたいに思ってるのか。
朝霧の追いつき隣に並ぶと、彼女がポツリと呟く。
「皆と一緒に遊びに行けばよかったのに」
「そういうわけにもいかないだろ」
「私が家に帰りたくなっただけだから」
「わかった、わかった、とにかく家まで送ってくよ」
二人で黙って歩いていると朝霧が俺の肘を指で抓む。
「気にしてくて、ありがとう」
「俊司達も追いかけたほうがいいって言うから」
「ふーん、素直じゃないなー」
「そうでもないぞ」
朝霧は機嫌を直したようで、俺の腕に自分の腕を絡めてきた。
「近づきすぎだ。また噂が悪化するだろ」
「私は気にしないもん」
「俺が気にするんだよ」
「私と付き合ってるって噂されるのイヤかな?」
「違うけど……どうして俺なんだって思うし……違和感でしかない」
「酷ーい。こんなに可愛い私に言い寄られてるんだから、普通の男子なら喜ぶのに」
「自分でいうことか?」
「へへへっ」
他愛もない話をしながら住宅街を歩いていくと、一際高い、高層マンションが見えてきた。
二十階はありそうなマンションを指差し、朝霧はニッコリと微笑む。
「私の家、あのマンションの十八階なの」
「そうなのか……」
あのマンション……まだ新築だよな……家にチラシが入っていて、確か分譲で高価な値段だったような……ハッキリと覚えていないけど。
「九条も入ってきて」
マンションの前まで歩いていくと、腕を組んだまま朝霧が玄関に入っていこうとする。
それに慌てて、俺は立ち止まった。
「俺は送ってきただけだから」
「でも、黒沢君達は結衣と一緒でしょ。九条が行ったら邪魔になるよ」
「いや、俺も家に帰るつもりだから」
「それなら家に寄っていってもいいでしょ。加奈ちゃんも遊びに来たんだから」
「いや……女子の家に気軽に行っていいのか……」
「九条だって、女子高生の私室に興味あるでしょ。素直になれー」
朝霧は明るくいうと、俺の腕をグイっと引いて、どんどんと歩いていく。
それに引きずられるように、俺達はエントランスに入った。
強引に帰ることもできたけど……朝霧の部屋を見たい気持ちもある。
我ながら優柔不断だよな。
朝霧はパネルにカードを通し、自動ドアの前へ歩いていく。
二人でエレベータに乗り、十八階へ。
体をピッタリと寄り添い、朝霧が突拍子もないことを言い出した。
「二人でホテルに泊まるのって、こんな気分かな」
「何言ってるんだ。変な妄想するな」
「部屋に向かうエレベーターの中の方が、密室でドキドキすると思わない?」
「思わない、思わない」
一瞬、頭の中に、二人でホテルに泊まるイメージが現れ、俺は頭を激しく左右に振る。
するとエレベータが開き、俺は急いで廊下に出た。
俺の横に並んだ朝霧がイタズラっ子のような笑みを浮かべる。
「私の家は一番奥だから」
俺の手を掴んで、朝霧は楽しそうに歩き始めた。
扉の前に行くと、朝霧がカードと鍵で解錠する。
二重ロックなんて初めてみた。
ガチャリと扉を開けて、朝霧が中へと入ってく。
玄関の中に入ると、良い香りがする。
女子の家って感じがするなー。
「失礼しまーす」
「リビングで何か飲もうよ」
朝霧の後に続いて奥の扉を潜ると大きなリビングになっており、黒髪ロングの女性が長ソファに座り、六十五インチのテレビを眺めていた。
「瑞穂お姉ちゃん、いたんだ」
「ん?」
朝霧の声に女性はクルリと顔をこちらに向ける。
そして無表情に俺を見た。
「男子を連れてくるなんて初めてよね」
「へへへっ……そうかも」
瑞穂お姉ちゃん……ということは朝霧のお姉さんかな?
黒髪だけど、朝霧とよく似てるし、すごい美人。
大人な雰囲気がして、ちょっと圧を感じる。
「ども、九条宗太と言います。よろしくお願いします」
「宗太、宗太ね……うちの家にもソウタがいるんだよね」
そう言って、瑞穂お姉ちゃんは隣で寝ている猫の首を捕まえ、ひょいと持ち上げる。
「結奈が拾ってきた子猫よ、名前はソウタ。偶然なのかな?」
「ソウタを下してあげて、可哀そうでしょ」
朝霧は慌ててソファに近寄り、子猫を奪い取って胸に抱く。
二人でソウタ、ソウタと言われると、頭が混乱しそうだ。
しかし、あの子猫、見覚えがある……確か学校の校舎裏に捨てられていた子猫だ。
そうか朝霧に拾われたんだな……でもどうして名前をソウタにしたんだろ?
俺はおぼろげな記憶を思い出そうと首を傾げるのだった。
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