第3話 Beautiful world

「ハナはこの世界で何がしたい?」


 私のやりたいこと。

 考えてみると、何も思いつかないな。冒険? 探検? 違う。そんな大それたことじゃない。

 ずっとこうしていたい。

 何もないけど、美しい世界。二人だけの世界。

 私はただ、この時間をかみしめていたい。久遠と一緒に。


「何もしたくない。って言ったら怠惰かな?」


 いや、強欲だ。

 この幸せを永遠に続けたいと願うこと。それは誰よりも欲張りなことなのかもしれない。


「いいと思う。二人でこの世界を眺めていようよ」

 久遠はそれでいいのかな?

「久遠のやりたいことはないの?」

「ハナと逢えた。それだけで充分だ」

 そう言って、久遠は優しく微笑みかけた。




 それから月日が流れた。

 代り映えのない日々だけど、久遠がいるだけで毎日が輝いていた。

 朝は一緒に花を眺め、昼は花畑を歩き、夜は星を見上げる。そんな穏やかな時間。


 だけど、時の流れは残酷だった。


 ある日、いつものように花畑を歩いていると、久遠が立ち止まった。


「久遠、大丈夫?」

「……うん。平気。ちょっと息が切れただけ」


 膝に手をついて、肩で息をする久遠。

 こんなこと、今まで一度もなかった。


 日に日に弱っていく久遠を見るのは、とても苦しい。

 見た目は初めて会ったときから何も変わらない。でも、歩く速度、息づかい、笑顔を作るまでの時間。すべてが少しずつ変わっていく。


 そして、怖い。

 久遠の声が聞こえなくなる日が来ること。

 久遠の笑顔が見られなくなる日が来ること。

 久遠がいなくなる日が来ること。


 独りに戻ることが、とても怖い。

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