「蹂躙のこつ」編
こつ編① 観衆と敵
「見て見て、あの男子よ。この前副会長と一緒にお弁当を食べてたっていう」
「なんでも彼、去年の文化祭からずっーとストーカーしてたらしいわよ」
「うわなにそれ、キモーい!」
(…………)
一紗が
『どこの馬の骨かもわからない新入生が、俺(私)たちの先輩を盗りやがった!』
当然、祝福などされるわけもなく、噂は
最寄駅から学校までの通学路は、晴吉にとってまさしく針の
加えて彼が苦痛だったのは……
「副会長も副会長よ。なんであんな子に近づいたのかな?」
「どうせあれだろ、子犬か何かを世話してるつもりなんだろ?」
「ザ・お嬢様、って感じだよな。いい意味でも悪い意味でも」
(俺のせいで、御門先輩まで悪く言われてる……)
自分だけが悪く言われるのなら、まだ耐えられた。
けれども現実は、こんな自分に声をかけた一紗にまで憎悪の矛先が向かっている。
確かに彼女は、祖父母の代からずっと学園の上位カーストに属してきた家系の末っ子で、少し世間とは感覚がずれているかもしれない。
しかし少なくとも、あの中庭での彼女には、上に立つ者特有の
それなのに彼らは……
(俺が先輩の気を引くようなことをしなければ、こんなことにはならなかったんだ)
後悔が晴吉の頭に重くのしかかり、うな垂れさせる。
次に一紗から声をかけられたりしたら、一体どんな顔をしたらいいのだろう。
……
あんな不確かなものを引いて、
弁当の件で助けてくれたてつも。今隣を歩いているこつも。
柔和な態度で空気を和ませるとんも。なぜだか距離を置いてくるきょうも。
どうせ自分たちよりも弱い自分を、
だから——!
晴吉が隣にいるこつを怒りに満ちた目で睨みつけようとした、そのときだった。
「——放っておけ。あんなもん、聞くだけ無駄だ」
「——えっ?」
隣から発せられた意外な言葉に、目を見開く。
戦いを好む(と聞いている)四凶、こつのことだから、
『いいのかよ、言われっぱなしで?』
『男なら、正面からぶつかっていけってんだ!』
などと
「奴らは安全なとこから口出しするだけの、ただの観衆だ。
「ク、クソみたいなって……」
「それ以外の呼び名があるのかよ、ええ?」
胡乱に睨みつけてくる、切れ長の瞳。
それに付随する長く赤いまつ毛に、晴吉の胸は急激に高鳴った。
胸を高鳴らせたのは彼女の顔だけではない。
スラリとしつつも筋肉質で、乾いた血で染まったような
その端々に配された、炎のように赤く輝く長髪と爪。
そんな見惚れる美貌を持ちながら、口からは汚い言葉の応酬ときた。
美しさと荒々しさのギャップ——もし御門という存在がいなければ、晴吉はコロリと堕とされ、彼女の
「いいか小僧、お前が戦う相手は他にいる。それは誰だか、わかるか?」
「俺が戦うべき相手……あんな言葉だけの人たちじゃなく、もっと別の誰かってことですか?」
顔色を窺うように見上げてくる晴吉に、てつは「そうだ」と短く答えた。
「
「え、ええ、まあ……」
えへへ、と自分のことのように喜ぶ晴吉。
てつはそんな彼のデレデレした様子に「惚けやがって」とイラつきながら後頭部を掻いた。
「だとすれば、お前みたいにその女に吸い寄せられる奴も多いってこった。その吸い寄せられた奴らがお前の敵だ」
「俺と同じように、先輩を好きだと思っている敵……
「知るかよ……そういやあの野郎、こうも言ってやがったな。お前とその女ととは生きている世界が違う、憧れは飯の肴にはならない、ってな」
「そ、そんなこと百も承知です! でも……」
「モノにしたい、か?」
「モノにしたい、っていうとはちょっと違いますけど! 俺はその、先輩のことをずっと近くで見ていたいっていうか……」
「見ていたい、か。でもよそれって……」
支配したい——つまりはモノにしたいってことじゃあねえのか?
愉しそうに、こつが歯を剥く。
自分の中にも、目の前の悪神と同じく暗い感情があったことに。
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