第3話 言えないこと
満員のバスに乗り込んでからも、真希はいつものように俺の胸の中に収まった。俺は真希の尻に手を当ててガードする。
もし真希が好きだとするのなら、このシチュエーションで平静でいられるわけがないよな。
だから俺は真希に片思いしているとは思えない。
そういう恋焦がれる感情は体の中のどこにもない。
バスが学校に着くと、降車するまで真希の尻に手は当てたままだ。
やはり、痴漢でも犯罪でもいいから真希に触りたいという歪んだ恋心にまで高まるほど、俺は真希が好きだとは思えない。
バスを降り切ると、真希は何も言わずにすたすた下駄箱に向かう。なんでだよ。だからって俺に恋愛感情があると言われたら、そっちの方が尻に手を当てられるとか、諸々の意味で気持ち悪いんじゃないのかよ。
「おはよっ、高良」
龍平が俺に肩を組んできた。
「おはよう」
「なんか真希ちゃん。今日はすごくご機嫌斜めっぽいじゃん」
「よくわかるな」
「真希ちゃん、顔に出やすいよ。それだけ純真なんだろうな」
「それはわがままの間違い」
「ケンカでもしたのかよ」
「真希が私のこと好き?って聞いて来たから、大事だと思っているけど好きとは違うって答えただけ」
「なんだよ。好きとは違うって。真希ちゃんが好きだから毎日ボディガードやってるんじゃないのかよ」
「幼馴染みって恋愛するには近すぎて、好きになるとか逆に無理」
俺はポカンとする龍平の肩から逃れ出る。
それでも龍平は俺の側らでのんびり歩きつつ言う。
「恋愛ってだんだん距離を縮めていくものだから? 最初から距離がない相手とは恋愛感情、持てないってこと?」
「ああ、そう。なんかそう言いう感じ」
「もったいない。あの真希ちゃんが可愛く甘えてくれるのに」
「俺は充分甘やかしてやっている」
俺はむっとして答える。
毎日髪の毛ゆるふわに巻いてやってるんだぞと思ったが、そんなこと龍平にも言えない。俺は真希との間で言えないことがたくさんありすぎて疲れている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます