第2話 私のこと好き?

「あっ、今。高良、私のこと可愛いって言った!」

 

 真希が歓喜の表情を満面に浮かべて指摘する。


「それは、あれだ。客観的に世間一般の女子に比べればの話だよ」

「じゃあ、主観的に見たらどうなのよ」

「そりゃあ、可愛いと思っているよ」

「それじゃあ、私のこと好き?」

「話が飛躍しすぎだろ。だからって、それとこれとは別の話」

「なんでよ、別の話って」


 こうなるから真希のことをあえて可愛いとは口にしなかった。自分でもわからないからだ。真希のことは外見も中身も可愛いと思っている。だけどそれは好きより大切、という意味に近かった。

 幼馴染みだから大切。

 ほとんど一緒に生活しているから大切。

 それが恋愛感情なのかと言えば、なんか違う。真希にときめいているのかと問われると、それがしっくりこないのだ。

 お互い一人っ子なのだが、俺に妹がいればこういう感情になるのかもしれないと想像する。

 可愛い妹がいて、「お兄ちゃん、私のこと好き?」と聞かれたような気分になる。


「真希のことは大切に思っているよ。でも、だからって恋愛感情で好きかと言われれば、そうだとは言い切れない」

「煮え切れないわね。どっちなの? 好きなの? そうじゃないの?」

「たぶん、そうじゃない方」


 俺が答えると、真希の顔は凍りつく。


「やっぱり冴子先輩が好きなんだ」


 真希は肩を落として呟いた。


「いや、それも。単に憧れてるってだけで」

「茶道部に来たら、ずっと冴子先輩ばっかり見てるじゃない」


 ヤバイ。ばれてたのか。そんなに見ていたつもりはないのだが。


「だからって、やましいことは何もない」

「冴子先輩が好きって認めるの?」

「あー、もう。うるさい! 俺はお前も冴子先輩もキレイだと思っているけど、だからって恋愛感情で好きとか、そういう意味じゃない!」


 俺は真希の前を通り過ぎて玄関のドアを開けた。


「ほら、真希も来い。バスに乗り遅れる」


 俺が手招くと、いじけたように玄関を出てくる。


「急げって」


 真希の手を掴んで引っ張ると、振り払われた。


「もう痴漢対策なんかしてくれなくていい」

「なんでだよ」

「だって私のこと、好きじゃないんでしょう?」

「好きじゃないとは言ってない。面倒くさいことでねるなよ。真希が尻を撫でられたり、胸を揉まれたりするなんて俺が嫌だ」

「どうして?」

「真希が大事だからだよ」


 大事という言葉で真希の顔が和らいだ。


「行くぞ」


 真希の手をまた掴んだが、今度は大人しくついて来た。いかにも渋々だと全身で語っていたが、とにかくバス亭まで走らないと乗り遅れる。手を繋いだままでは走りにくいので途中で離したが、真希は後をついて来た。


 

 

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